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1試合で“2人の岩貞投手”が…。今季初甲子園開催で中日に完封負け《4/21 阪神ファーム》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター

きのう21日は今季初めて阪神甲子園球場でウエスタン・リーグの公式戦が行われました。夜中までの雨や平日のデーゲームということも影響したのか、お客様は995人と少なめ。それでも朝早くから並んで、1軍の公式戦ではなかなか座れないバックネット裏の席にダッシュする方も多く、甲子園開催ならではの光景です。

試合は、見出しにも書いたように岩貞投手が2人いたと思えるほどで…。立ち上がりに3連打などで3点を失ったストレート勝負の岩貞A、2回から5回までを変化球主体でパーフェクトに抑え込んだ岩貞Bがいました。まるでジキルとハイドです。そのあたりの話は試合後のコメントで。

ここまで5割に戻しては負けるというのを繰り返していた阪神ファームですが、きのうは完封負けで借金2となり、勝った中日と入れ替わって4位に落ちてしまいました。でも中谷選手は2打数2安打で打率をまた上げ、西田選手も4打数2安打で3割に戻しています。江越選手は三塁打、えぐい打球を見せてもらいましたよ。

《ウエスタン公式戦》4月21日

阪神-中日 6回戦 (甲子園)

中日 300 002 000 = 5

阪神 000 000 000 = 0 

◆バッテリー

【阪神】●岩貞(2敗)-二神-渡辺 / 小豆畑

【中日】○朝倉(2勝1敗)(7回)-高橋聡(1回)-野村(1回) / 加藤

◆三塁打 江越

◆二塁打 和田

◆打撃 (打-安-点/振-球/盗塁/失策) 打率

1]指:柴田   (3-1-0 / 1-0 / 0 / 0) .348

〃打指:一二三 (1-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .138

2]三:西田   (4-2-0 / 0-0 / 0 / 1) .304

3]二:北條   (4-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .240

4]中:江越   (4-1-0 / 2-0 / 0 / 0) .345

5]一:中谷   (2-2-0 / 0-2 / 0 / 0) .362

6]左:緒方   (4-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .219

7]右:横田   (3-0-0 / 0-0 / 0 / 0) .137

8]捕:小豆畑  (3-1-0 / 0-0 / 0 / 0) .182

9]遊:植田   (3-0-0 / 1-0 / 0 / 0) .195

◆投手 (安-振-球/失-自/防御率) 最速キロ

岩貞 6回 108球 (4-5-2 / 5-4 / 4.20) 146

二神 2回 29球 (1-1-0 / 0-0 / 1.80) 141

渡辺 1回 12球 (0-0-1 / 0-0 / 2.16) 137

経過1 1回と6回に集中した失点

岩貞は1回、1死から橋爪に10球粘られて四球を与え、続く井領の打球は詰まって左翼線へ。緒方がスライディングキャッチを試みるも捕れず一、二塁となって4番・古本の左前タイムリー。これも緒方の前にポトリと落ちる当たりです。なおも1死一、二塁で和田に左越えの2点タイムリーと3連打で3点を先取されます。久保投手コーチがマウンドへ行き、あとの2人はフライでに打ち取って終了。1回の表だけで21分もかかりました。

先発した岩貞投手。これは2回以降の“岩貞B”の方です。
先発した岩貞投手。これは2回以降の“岩貞B”の方です。
2人目で登板、7回から2イニングを投げ無失点の二神投手。
2人目で登板、7回から2イニングを投げ無失点の二神投手。

ところが、ここから別の岩貞にチェンジします。まず2回は連続三振と右飛の三者凡退、3回は北條や西田の好守備により三者凡退、4回も5回もビシッと三者凡退。つまり4イニングをパーフェクトに抑えたのです。しかもこの間、1イニングにかかった時間は約3分ずつ!投げた球は9割方が変化球でした。

6回は先頭の橋爪にまた四球を与えてしまい、井領のバントを小豆畑が果敢に二塁へ送球するもセーフ。犠打野選となり無死一、二塁。2死を取った後に三ツ俣の左前タイムリーで1点。さらに赤坂の三ゴロを西田がエラー…もう1点入ります。先頭の四球が原因ですが不運な失点と言えます。

ついで二神が7回はすべて内野ゴロで三者凡退、8回は古本の右前打を許したものの無死点で投げ終えました。9回は渡辺が先頭の赤坂に四球を与えますが谷を遊ゴロ併殺打、加藤は遊ゴロと3人で片づけ追加点を与えていません。

経過2 悔やまれる3回のチャンス

こちらの打線は1回が西田の右前打のみ。2回は先頭・中谷が四球を選ぶも緒方の三直で併殺。3回は小豆畑の中前打、柴田と西田の右前打などで1死満塁としながら、北條が三ゴロ併殺打(5-2-3)で最大のチャンスを生かせず。4回は中谷の右前打のみ。5回は三者凡退。6回に2死から江越がライトフェンスにワンバウンドで到達する三塁打を放ち、続く中谷が四球を選んで一、三塁としますが緒方は初球を打って一ゴロ。

9回1死一塁で中飛を打ち上げてしまい「ああ~っ!」と悔しがる緒方選手。
9回1死一塁で中飛を打ち上げてしまい「ああ~っ!」と悔しがる緒方選手。

7回はまた三者凡退で、朝倉の前に6安打しながら無得点。8回はやはりベテランの高橋聡に代打・一二三、西田、北條がみんなフライに打ち取られます。9回はドラフト1位ルーキー・野村が登板。江越は144キロの真っすぐで空振り三振。中谷はバットの折れたような音がする詰まった当たりでしたが、セカンドの前まで来たショート三ツ俣の手はわずかに及ばす内野安打。しかし緒方は中飛に倒れ、横田の打席で2球目に中谷がスタート。キャッチャー加藤が素早く二塁へ送球してアウト!

中谷選手を刺して笑顔が漏れる加藤選手(左)とドラ1・野村投手の中日バッテリー。
中谷選手を刺して笑顔が漏れる加藤選手(左)とドラ1・野村投手の中日バッテリー。

走った中谷はベンチを見て怪訝な顔、ベンチのみんなも唖然、守っている中日の野手陣さえキョトン(けげん、あぜん、きょとんと韻を踏んでみたんですが…要らない?失礼しました)。中日ベンチから歓声が沸くというよりは苦笑いで、投げ終えたのかどうか微妙な野村も首を傾げる、あっけない幕切れです。

どっちが本当の岩貞投手?

と聞かれた先発の岩貞投手は、ただもう苦笑するのみでした。「最初の方は緩急がなかった。打ち取った打球も間に落ちて。もし調子がよかったら空振りも取れていたし、(球が)逆に行っていなかったら定位置で捕れたのに」。1回の和田選手のタイムリー二塁打も「配球、キャッチャーの意思を読み取って投げるべきだった。それ以降は緩急も含め、自分の思っているピッチングができたんですけど」と話しています。

これはセットポジションなので、“岩貞A”でしょうか?
これはセットポジションなので、“岩貞A”でしょうか?

初回は真っすぐがほとんどだった?「ボールが走っていたからストレートでいこうということになって、それを打たれた。初回からスラーブ、遅めのスライダーです。それが使えていれば、バッターのタイミングを崩せたと思います。ここっていう時に相手が待っているボールを投げてしまった。追い込むまではいくのに詰めのところで打たれて…」と後悔の言葉が次々に出てきました。

スラーブと言っていたのは120キロ台のスライダーで、この日初めて使ったようです。それと130キロ台の速いスライダーの2種類を2回以降は多投。かなり有効だったと思います。他にカットボール、フォーク、チェンジアップも投げた岩貞投手。さらにプレートの立ち位置も三塁側へと変えました。「最近ボールがシュート回転して外れていたのがもったいないと久保コーチに言われて。きょう初めてやってみたんです。一塁側を踏んでいるよりも、緩い変化球が投げやすい。インコースへも無理に開かず投げられるので、今後も続けたいですね」

二神、小豆畑、また岩貞

今回は先発からリリーフに回った二神投手ですが、次はまた先発での登板になるようです。きのうのピッチングについて「きょうは全体的によくなかった。中継ぎで思いきって入りたかったんですけど」と2イニングで1安打無失点の内容ながら、納得はしていない様子でした。「いま調子が悪いわけではありません。きょうがよくなかっただけで。次はまた先発だと思うので…」と言ったところで岩貞投手がやってきて話が入り乱れたため、ここで終了。

二神投手から「2回以降は“らしさ”を消してたねえ」と言われた岩貞投手は「大人のピッチング?」と、ここでも苦笑いです。そして二神投手の前で追加取材となりました。立ち上がりの失点を招いた点は、やはり「真っすぐをしっかり見せたかった」からだと言います。「2回からは緩急を使えた。1回と6回も、ランナーを背負ってから間を取ったり、投球以外のところで工夫をするべきでした。でもこうすれば抑えられる、というのがわかった気がします。変化球でも差をつければいいと」。この収穫は次に必ず生かしてくれるでしょう。

2回のマウンドへ上がる際、ベンチ前で打ち合わせをする小豆畑選手(右)と岩貞投手。
2回のマウンドへ上がる際、ベンチ前で打ち合わせをする小豆畑選手(右)と岩貞投手。

岩貞投手をリードした小豆畑選手は「僕の若さが、経験の少なさが出ました」と猛省。配球も、意思の疎通も自分がやるべきことだと言い「最善を尽くして打たれたのかどうかが問題」とも。6回の犠打野選については「もう1点取られたくなくて攻めた。アウトにすればナイスプレーだけど…」と悔しがります。なおバッティングでは3回に左中間へのいい当たりがあったものの「1本だけじゃダメですよ」と首を振りました。

「バッテリーがきょうの直球に酔ってしまった」

続いて久保投手コーチの話です。まずプレートの立ち位置について「一塁側を踏むとプレートの外に腕が出て、その分ボール球になる。三塁側に立つと腕が中に入るので、ストライクゾーンに来る“錯覚”を受け、バッターは振るようになる。どんどん振っていたでしょう?その上で角度をつけたりはしないといけないけど。収穫にしてくれたらいい。カーブをアレンジして、きょうカーブとスライダーの間の球を初めて投げていたね」とのこと。

また試合中に久保コーチが出したテレビ中継用コメントで「1回はバッテリーがきょうの球に酔ってしまった」というのがありました。つまり、それほど素晴らしいストレートだったけれど「真っすぐを生かす配球じゃなかった。でも、きょうの失敗で明確に体で覚えたからよかったね」と続くわけです。そして久保コーチは「球のキレもあったしテンポもあった。2回以降のピッチングなら1軍で十分いける」と高く評価しました。

監督の試合総括

4番を打つ江越選手。この日は豪快な三塁打がありました。
4番を打つ江越選手。この日は豪快な三塁打がありました。
こちらは中谷選手。上の江越選手と同じですねえ!レガースの色が違うくらい?
こちらは中谷選手。上の江越選手と同じですねえ!レガースの色が違うくらい?
素晴らしい当たりの右前打2本を放った西田選手。ただしエラーのあとは…残念。
素晴らしい当たりの右前打2本を放った西田選手。ただしエラーのあとは…残念。

古屋監督も「岩貞には、どうしてもフォアボールがついて回るね。2回から5回はよかったのに。ボール自体はだいぶ強くなってきたと思うよ。ここ2、3試合では一番よかった。やっぱりフォアボール、そこが課題。ライバルもファームに降りてきているから、自分で自分の首を絞めないように」と、立ち直りながら6回の失点につながった先頭の四球に苦言を呈しています。

続けて野手について「中谷は極端なボールを振らなくなった。打率が残っているから自信もあるんだろう。江越もそうだけど、センターから右の打球が多いしね。引っ張ったらおかしくなる。西田はエラーしたあとの2打席がね。エラーしたあとの凡打は、そんなつもりじゃないんだろうけど、へこんで見える。そのへんは切り替えてね。やってしまったことは仕方ないので。(打撃に関して)技術はあるんだから精神的な強さもほしい」と総括。

好調・中谷、「ありのままで」植田

中谷選手は2打数2安打で打率を.362まで上げ、2位の中日・松井佑選手(.321)との差を広げています。この日も2つ四球を選んだ通り「ボールはよく見えているので」とのこと。好調の要因として「打席で変なことを考えないからだと思います。フォームのこととか、打球を飛ばそうとか。力みもないです」という言葉がありました。掛布DCがいつも言っているように、そろそろいかがでしょう?と思ってしまいますね。

プロに入って初めての甲子園の試合に「雰囲気がいいですね」という植田選手。
プロに入って初めての甲子園の試合に「雰囲気がいいですね」という植田選手。

最後に植田選手。プロでは初めての甲子園(3月のオープン戦でベンチに入ったものの、試合は中止)なので、感想を聞いてみました。昨年夏以来の甲子園はどう?「久しぶりといっても2試合しかやってないんで、そんなに」。それはまあそうですけど。「でもいい雰囲気ですね。鳴尾浜とはまた違いますね」とニッコリ。登場曲が『アナと雪の女王』で大ヒットした『Let it go』…だと思ったら日本語バージョンだった!「そら日本語でしょ。英語はダメです」。そうなんですね。

中日の先発・朝倉投手について「名前は知っています」という植田選手。5回に3球三振を喫し「あれは無理。カットボールかな」と言っていました。22日もテレビ中継があるから、ヒットを打ってください。「え、テレビあるんですか?」「きょうもあったよ」「マジっすか!」という会話をしながら去っていったルーキー。まさかテレビカメラが気になって力んでしまう……なんてことはないでしょう。ハートの強さは大物ですから。

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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