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丸佳浩が長距離砲に。巨人移籍後も本塁打量産が期待できるスラッガー化の裏付け

岡田友輔プロ野球データの収集と分析/株式会社DELTA代表取締役
(写真:アフロ)

本塁打が激増しキャリアハイを記録。セ・リーグ最高の打者に

このオフ、プロ野球界ではビッグネームの移籍が相次いだが、なかでも丸佳浩の広島から巨人への移籍は特に大きなニュースだった。昨シーズンのセ・リーグMVPを獲得したほどの選手、リーグの勢力図に大きな影響を及ぼすことは間違いない。

丸は一昨年の2017年にもMVPを獲得するなど、優勝に貢献する素晴らしい活躍を見せていた。だがそこで立ち止まることなく昨シーズンは自身の打撃スタイルに大胆な変化を加えていたようだ。

2016年以降の丸は常に打率3割前後を残し、一般的には確実性を備えた中距離打者というイメージが強いかもしれない。そんな丸は昨シーズン本塁打を39本にまで増加させた。さらに打席に占める四球の割合は12.7%から23.0%に上昇。長打力だけでなく出塁力でも大きく数字を伸ばし、打者として総合的なスケールアップを果たした。

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空振り割合と比例して上昇した打撃成績

ただ細かくデータを見るとすべての指標が良い方向に変化しているわけではない。本塁打や四球は増加したが三振も増えている。打席に占める三振の割合は2017年の17.4%から23.0%まで悪化。これはセ・リーグの規定到達打者でワースト2位にあたる。本塁打の数とあわせて考えると今の丸はスラッガーという形容がふさわしいバッターなのだ。

昨シーズン、丸がスラッガーに変貌を遂げた様子は図1のグラフを見れば理解しやすい。これは丸の直近50試合ごとの成績を集計し、その推移を示したものだ。時期ごとの打撃成績の上下動を表していると思ってもらえればよい。例えばグラフの60試合目時点の値は11~60試合目の計50試合の成績を集計したものとなる。

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青いラインが示しているのは打席あたりの総合的な貢献度を表すOPS(On-base Plus Slugging percentage)だ。丸のOPSは2016年から常にリーグ平均以上の値で推移していたが、2018年に入るとそれがさらに上昇。過去2年に比べ高い値で推移していることがわかる。

一方、赤いラインはスイングに占める空振り割合を表している。丸は2016年からこの値をセ・リーグ平均(3年間の平均は20.8%)前後で推移させていた。しかし2018年に入ると空振り割合は右肩上がりに上昇。昨シーズンも終盤に向かうにつれて空振りが多くなっている。空振りが増えることは一見よくないことのように思えるが、丸の場合はこれが総合的な打撃成績の向上につながっているようだ。

浅いカウントで狙い球を絞り強振した2018年の丸

本塁打の増加とこれらの要素をあわせて考えると、丸はおそらく例年よりも強振するスタイルを採用していたのではないだろうか。空振りの増加と成績向上の関係をさらに探るため、丸がストライク投球にどのような反応を見せていたかをカウント別に見てみたい。まずどれだけ積極的にスイングを仕掛けるか、その割合を表したスイング率を図2の左にまとめた。

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これは2ストライク時において大きな変化はないものの、0・1ストライク時に2017年の67.8%から昨シーズンは59.9%にまで率を下げている。丸は浅いカウントで以前にも増してスイングを控えていた。

スイングに占める空振り割合、安打に占める本塁打割合はともに2018年に大きく数値を上昇させている。2018年に空振りを増やしながら、長打を増やし成績を向上させたのは前述のとおりだ。そして数値の上昇は2ストライク時よりも0・1ストライク時でより急激になっている。

これら3つのデータを整理すると丸は昨シーズン、狙い球を絞り込み、多くのカウントで空振りを恐れず強振するスタイルをとっていた様子が確認できる。強振については0・1ストライクでより顕著だったようだ。

外角の厳しいコースを捨て、真ん中の甘い球に狙いを絞る

「浅いカウントでの丸」にさらにフォーカスしたい。図3は0・1ストライク時のゾーン内の投球に対し丸がスイングしたものを赤、しなかったものを青で示したものだ。

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赤と青のプロットはランダムに散らばっているように見える。しかし注意深く見ていくとオレンジの枠で囲んだ外角のストライクゾーンぎりぎりのコースでは、2018年は2016-17年に比べてスイングを示す赤いプロットが非常に少ないのがわかる。内角に関しても同様でストライクゾーンの枠付近に対しては積極的にスイングをしていない。スイングが集中しているのはど真ん中から真ん中低めだ。

これらのデータから昨シーズンの丸は0・1ストライクの浅いカウントにおいて、

・より真ん中に近い、甘い投球に絞り込む

・狙い球がきたら空振りを恐れず強くスイングする

こういったスタイルをとっていたことがわかる。狙い球の厳選や空振りを恐れない強振の意識が丸をスラッガーへと変貌させたようだ。おそらく三振の増加は長打を増加させるために必要なコストとして割り切っていたのではないだろうか。

スラッガー化により完成した丸の四球獲得サイクル

またこうした変化は長打面だけでなく、出塁面でのメリットも生んだ。丸はもともと非常に選球眼の良い打者であったが、昨シーズンはそれに甘いコースを高確率で長打にする能力も加わった。となると対峙する投手はゾーンぎりぎりの厳しいコースを狙って投げざるをえない。当然、そのようなコースに正確に制球し続けることはできないためボール球が増え、カウントが悪くなる。ストライクをとりにいきたいが真ん中に投げると長打の確率が高いため、厳しいコースを狙い続けるほかなく四球が増える。

丸は昨シーズンこのようなサイクルで四球を獲得しつづけ、最終的には歴代4位タイの130四球を記録した。空振りを恐れず強振するスタイルは丸の三振を増加させたが、それによってもたらされた長打と四球増加のメリットはそのデメリットをはるかに上回る。

昨年オフ、丸は国内FA権を行使し、巨人への移籍を決めた。ここ3年巨人は広島の後塵を拝していたが、その最も大きな差は得点力にあった。中でも特に大きな差をつくり続けてきたのが丸だ。昨シーズンの得点は広島が721に対し、巨人は625。スラッガー化した丸を擁する巨人打線はこの差を埋めることができるだろうか。

プロ野球データの収集と分析/株式会社DELTA代表取締役

1975年生まれ。2002年より日本テレビのプロ野球中継スタッフを務める。2006年にデータスタジアム株式会社に入社。統計的な見地から野球の構造・戦略を探求するセイバーメトリクスを専門に分析活動をおこなう。2011年に合同会社DELTA(2015年に株式会社化)を設立。プロ野球球団の編成サポートを行うとともに、アメリカで一般化しつつあった守備指標や総合指標の算出・公開など日本の野球分析を米国規格に近づけるための土台づくりにも取り組んでいる。球団との関係は年々深まっており、データ面からのサポートを中心に現在多くの球団とビジネスを行っている。

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