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「涙なしに読めない」コロナ論文 専門外の医師「手探りで治療」余儀なく 風評被害も…相模原中央病院

岡田有花フリーランス記者
相模原中央病院のWebサイトより

 新型コロナウイルス感染症の治療に当たった相模原中央病院の医師らが3月11日に公開した論文が、反響を呼んでいる。

 同院には、新型コロナウイルス感染症による肺炎で日本で最初に命を落とした患者が発病当初に入院していた。この患者を担当していた看護師の感染が2月中旬に分かり、同じ病棟の入院患者3人も発症し、院内感染の事例として注目を浴びた。

 論文には、入院患者の治療経過だけでなく、同院が置かれていた厳しい状況が書かれている。例えば、感染症専門病院へ重症者の転院を何度も依頼したが受け入れられず、専門外の医師が手探りで治療せざるを得なかったこと、風評被害により同院の職員というだけで世間から接触を拒まれたこと――などが記されており、「涙なしには読めない」「序文だけでも必読」などと反響を呼んでいる。

論文の冒頭より
論文の冒頭より

「風評被害にさらされた」「病院としての機能喪失」

 同院は外科が中心で、常勤の感染症専門医、呼吸器科専門医はいない。論文の筆頭著者も、同院の脳神経外科医だ。

 同院に2月上旬に入院し、別の病院に転院後に死去していた患者が、新型コロナウイルス感染症にかかっていたことが判明。これを受けて医療者や患者を検査したところ、2月中旬、この患者を担当していた看護師1人と、患者3人への感染が判明した。

 論文の序文によると、当時は市中で新型コロナ肺炎が発症し始めたころで、病態や治療法も分からなかったことから、「様々な憶測に基づく風評被害にさらされた」という。例えば、同院の職員というだけで世間から接触を拒まれたり、他院から非常勤医師の派遣を断られたりしたという。

 また、発症者が出た同院の病棟は新規受け入れを中止した上、発症者のいない他の2病棟も閉鎖し、外来を全面停止するなど、「通常の感染対策では考えられない状況にまで追い込まれ」「まさに病院としての機能を喪失する事態に」なったと振り返っている。

感染症専門病院への転院断られ、非専門医が手探りで治療

 患者3人のうち2人は重症化したため、2月下旬、感染症専門病院にへの転院依頼を再三にわたって行ったが、どの病院も、大規模病院であっても、「現時点での対応が困難」と、転院を拒まれたという。

 このため、常勤の外科医など専門外の医師が、非常勤の呼吸器内科医のアドバイスを受けながら「手探りで」治療することを余儀なくされた。また同院には感染症対応病床や陰圧室もないため、感染者全員を個室に隔離し、部屋への入室時には防護具を使い、職員全員で院内を消毒する――などの感染症対策を施した。その後、院内で発症者は出ていないという。

 論文の謝辞には、「病態もわからない不安要素が強い中で、感染伝播の危険を顧みずに積極的に感染対策、防御策を尽くしてくれた外科病棟看護師ならびにコメディカル(編注:医師・看護師以外の医療従事者)の諸氏に、心から謝辞を申し上げたい」と書かれており、当時の厳しい状況に、勇気を持って対峙した関係者の姿……対峙せざるを得ないほど現場の状況が逼迫していた様子が浮かび上がる。

フリーランス記者

1978年生まれ。京都大学卒。IT系ニュースサイト記者、Webベンチャーを経て、IT・Web分野を軸に幅広く取材、執筆するフリーランス記者。著書に「ネットで人生、変わりましたか」(ソフトバンククリエイティブ)。

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