捕まらない加害者、責められる被害者 子どもの性被害を可視化していくために

(写真:アフロ)

「“小児性愛”や“性的いたずら”という表現があります。私はこの2つの言葉は使わないんです。小児性犯罪か、小児性暴力という言葉を使っています。彼らは口をそろえて言います。『これは性教育だ』と。『優しく教えてあげてるんだから犯罪じゃないよ』『子どももいずれセックスを経験するときがくる』。“セックス”っていう表現を使うんですね。『その前に僕が教えてあげる』と思っている」

 7月19日に東京・港区のホールで行われた「性犯罪をなくすための対話」で、斉藤章佳さんはこう話した。斉藤さんは精神保健福祉士・社会福祉士として、15年前から性犯罪やDVの加害者臨床を行っている。

 「性犯罪をなくすための対話」は、斉藤章佳さんと、弁護士の上谷さくらさん、臨床心理士の齋藤梓さんらが始めたイベント。性犯罪をなくすために、加害者臨床と被害者支援、双方の専門家が意見を交換することが目的だ。筆者は、このイベントの運営と司会を務めている。

(参考)性犯罪はなくせるか 「加害者側」と「被害者側」が対話する意味

■「純愛だから」と思い込む小児性犯罪者

 この日のテーマは「小児性犯罪 前編」。子どもの性被害の実態や現状の問題点を加害者臨床と被害者のケア、司法の観点からそれぞれが語り、9月に予定されている後編で、現在の取り組みや対策を議論する予定だ。

 冒頭の斉藤さんの話はこう続く。

「(加害者は被害者に対して)『ちょっと教えてあげたんだ』と非常に上から目線です。『いずれ経験するから』と」

 斉藤さんはこれまでも、講演や著書の中で性犯罪加害者の中にある「認知の歪み」を指摘してきた。自分の加害行為を正当化するために、「そんなところを歩いていた被害者が悪い」などと、被害者に責任を転嫁する加害者がいる。小児性犯罪者の場合は、「(自分の子どもへの思いは)純愛だから」「いずれ大人になったらセックスをするのだからボクが優しく教えてあげる(今してもおかしくない)」と考えていることがあるという。

「『ペドフィリアは別格なんですよ』。これは以前担当していた小児性犯罪者の言葉です。『その常習性と衝動性は、他の性倒錯と比べて群を抜いている。好みの子どもを見つけると、まるで吸い込まれるように近づいてしまう』と。私はこの言葉を忘れたことはありません」

(参考)「性犯罪の中でも小児性犯罪は別格である」私が見た依存症治療の現実(iRONNA)

■性被害に遭った子どもからのサイン

 続いて壇上に立った齋藤梓さんは、幼少期に被害に遭ったケースについて、中学、高校と成長するに連れ、自分の被害を自覚するようになることがあり、被害後30年経ってもフラッシュバックがあることは珍しくないと説明した。

「子どもの性暴力被害は稀ではありません。そして適切なケアがなければ、影響は人生に及ぶということがあります」

 被害に遭った子どもをケアするためには、子どもの被害に大人が気づく必要がある。加害者から口止めされるなどして、大人に言わないことが非常に多いためだ。しかし、子どもは被害に遭ったことを隠そうとするため、大人が気付くことはとても難しい。子どもからの「サイン」となるトラウマについて、齋藤さんは、

・「喉がつまった感じ」「お腹がぐるぐるする」など呼吸器系や胃腸系の症状を訴える

・おねしょが治まっていた子がおねしょをするようになる

・一人で眠れなくなる

・ベタベタと甘えるようになる

・かんしゃくを起こすようになる

・登園・登校を渋る

 などを挙げた。もちろん、これ以外の徴候を示す子どももいる。

「小さい頃の被害は忘れると言われることもありますが、概ね3歳以上の場合、すごくショックな経験がきれいに記憶からなくなるということは、ほとんどないと思ったほうがいいと思います」

■子どもを責めず、話を聞いて

 また、思春期の場合に多いのは、

・自傷行為(リストカットや髪の毛を抜くなど)

・スマートフォンを手放せなくなる

・「だるい」と頻繁に口にする

・アルコールなどへの依存や、家出や万引きなどの問題行動

・性的な問題行動(不特定多数との性行為や、年下の子どもへの性加害)

 など。一見、怠けや非行行為に見えても、「頭ごなしに怒るのではなく、何か困ったことがあるのかなと声をかけてあげることが大事」。また齋藤さんは、被害に遭った子どもを責めずに信じて話を聞くことの重要性を強調した。

「たとえば子どもたちがSNSで出会った人についていって被害に遭ったということであっても、(被害者である子どもが)ルールを違反したことと(加害者である大人が)法律を違反したというのは明らかに違います。子どもたちがルールを違反したとしても、子どもたちが暴力にさらされていいということではありません」

「親御さんはすごく心配だし不安なので、『なんでそんな場所へ行ったの』とか『なんでそんな格好をしてたの』って言いがちなんですけれども、子どもたちはただでも自分を責めているので、それ以上何も言えなくなってしまいます」

■巧妙な犯人は捕まらない

 最後に登壇した弁護士の上谷さくらさんは、「性犯罪にはいろんな種類がありますが、ただどれもちょっと(量刑が)軽いんじゃないか」と指摘。加害者臨床や被害者支援の現場から見えてくるのは、圧倒的な暗数の多さだ。初めての犯行で捕まる加害者は少ない、すなわち捕まった時点で過去にも犯行を繰り返している場合が非常に多いというのが、現場を見てきた人たちの実感だ。

 また犯行が発覚したとしても、痴漢など「条例違反」で裁かれる範囲の性犯罪の場合、常習でも「1年以下の懲役、または100万円以下の罰金」と定める自治体が多く、さらに「1回目、2回目はだいたい起訴猶予。3回目ぐらいでようやく略式起訴。4回目でやっと裁判になるかどうか、裁判になっても執行猶予判決で、5回目ぐらいで実刑になってようやく刑務所に行くかどうか。私の実感では、そのぐらいです」(上谷さん)。

 斉藤さんや上谷さんが危惧するのは、再犯率が高いこと、そして犯行が徐々に計画的になり、エスカレートしていくことだ。

「巧妙な人ほど捕まらない」(上谷さん)

「リサーチ力が本当にすごい。いろいろな方法を使い、ターゲットの子どもが一人になる時間帯を把握しようとする」(斉藤さん)

 たとえば今年5月に起きた新潟市の事件で逮捕された23歳の会社員は、過去に条例違反で書類送検されていたと報道されている。

「性犯罪というのは、加害者の犯罪性向が進んでいることが特徴だと思います。痴漢行為など条例に任されている部分についても、全国統一の法律にする必要があるのではないかなと考えます」(上谷さん)

■子どもが被害を訴えた場合の相談先は?

 会場から出た質問と、登壇者の回答の一部を以下にまとめる。イベント時に時間が足りず、後日個別に回答してもらったものもある。

Q:小児性犯罪を知ったとき、あるいは子どもが訴えた場合の相談先はどこが良いのでしょうか。警察に言ってもきちんと聞いてもらえなかったり、対処してもらえない場合はどうしたら良いのでしょうか。

A:(齋藤梓さん)性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターや、全国被害者支援ネットワーク傘下の被害者支援センターでは、電話相談を受け付けています。どこにどのように相談していいか分からないときに、相談先の紹介をしたり、今行うことを一緒に考えたりします。警察にどのように伝えるかは、弁護士相談が役に立つかもしれません。東京の三つの弁護士会が合同で行っている犯罪被害者の電話相談もあります。

Q:同性への小児性犯罪(男性から男児へ、女性から女児へ)や、女性から男児への小児性犯罪の場合、及ぼす影響の特徴は何かありますか。

A:(齋藤梓さん)被害後の心身の様々な変化は、加害者の性別に関わらず生じます。加えて、男性から男児への性犯罪では、被害後に「本当は、自分は男の人が好きなのではないか」「相手はそれを見抜いて、自分にこんなことをしたのではないか」など男児のセクシュアリティの混乱が見られます。また、男児の被害は、周囲の大人が想定していないために見逃されやすく、発見されても軽視されやすい傾向があり、それによって心理的ケアの提供が遅れる場合があります。女性が加害者の場合、被害者が女児であっても男児であっても、やはり見逃されやすく軽視されやすい傾向があります。心理的ケアの必要性は、加害者の性別、被害者の性別で変わることはありません。

■日本は“小児性愛”に寛容?

Q:子どもの頃に性虐待を受け、大人になってから加害者にせめてもの謝罪を求めたいと思ったとき、有効な環境はあるのでしょうか(弁護士に相談できるかなど)。

A:(上谷さくらさん)正直なところ、有効な環境というのは思いつきません。弁護士に相談はできますが、客観的な証拠がなかったり、目撃者がいなかったり、ということであまり実のある相談にはならない場合が多いように思います。ただ、弁護士同伴で、その加害者に面談したところ、罪を認めて謝罪したという例もあったと聞いていますので、弁護士に相談してみるのはひとつの方法だと思います。

Q:日本社会がやや“小児性愛”に対して寛容すぎるように感じるのですが、そういったことも背景事情たり得るのでしょうか。

A:(斉藤章佳さん)子どもを性的対象として見るということに寛容すぎるという側面とともに、子どもへの性的接触が、その後の被害者の人生にどのような甚大な影響を及ぼすのかが全く知られていません。また、当クリニックの小児性犯罪者は、成人の性的パートナーを愛好し続けながらも適切な接触を得るのに慢性的に挫折しているため、習慣的にその代理行為として子どもに向かう者が多数をしめています。つまり、遺伝的要因や先天的要因ではなく「コミュニケーション障害」が発症のきっかけになっているのです。この小児性犯罪の問題を、同世代異性との対等なコミュニケーションの問題として捉えなおす視点も重要だと思います。

■「被害者の回復」とは

Q:被害者のPTSDの「回復」とはなんだと思われますか。私はEMDR(※)の治療を終結しましたが、「回復した」という実感がありません。(※眼球運動を利用することでPTSDのケアを行う心理療法)

A:(齋藤梓さん)お一人お一人にとっての「回復」の定義が異なるので、難しい問題だと思います。例えば、トラウマに焦点化した心理療法自体の目指すPTSDからの回復は、フラッシュバックや回避、過覚醒といった症状が軽減し、自責感などの認知が緩和され、バランスのよい考え方に変化することです。心理療法を実施した場合、PTSDの診断にかからない程度まで回復する方も多いですが、以前よりも生活を送りやすくなったけれどいろいろな不調がまだ残っている方もいらっしゃいます。しかしそれとは別に、私自身が考える「回復」は、トラウマの記憶が整理されて、自分自身の人生を生きていくことができることではないかと考えています。記憶を消すことはできませんが、記憶に振り回されずに、自分で自分の生活や生き方を選んでいけるよう、心理専門職として取り組んでいきたいと考えています。

Q:兄妹など家族間での性虐待の場合、被害者がそれを親に伝えても、親がそれを受け入れられない状況がある。加害者の将来の加害行動を止めたいけれど、ほかの家族のサポートを受けられないような場合、どのようなステップをふむと良いのでしょうか。

A:(斉藤章佳さん)家庭内性虐待の加害者の治療プログラムに関しては、日本ではもっとも手付かずの領域です。当クリニックにも、現在までの約13年間で2~3名しか相談にきた加害者がいません。さらに定着率も悪いです。これについては、初期介入として被害者側の視点や、法律的な介入の視点が重要であると思います。その上で、加害者が刑事手続きのルートに乗って初めて臨床場面で出会うということになります。

■子どもにはいつから教える?

Q:小児性犯罪者は、いわゆるロリもののポルノを見ているのでしょうか。またこのようなポルノが犯罪を抑制するという意見もありますが、この点はいかがでしょうか。

A:(斉藤章佳さん)小児性犯罪者も、痴漢も、盗撮も、レイプも約8~9割がそれぞれの性倒錯に該当するアダルトサイトやポルノを日常的に見てマスターベーションをしています。このような媒体が、犯罪を抑制するという議論は以前からありますがエビデンスがありません。では、逆に助長するのかということになりますが、それぞれの性倒錯で問題行動を始めたきっかけを当院でヒアリングすると、「サイトやポルノを模倣して」というタイプは実は少数派です。一方で、常習化した加害者の問題行動の引き金には確実になるというのは当院のヒアリングによる調査で明らかになっています。

Q:小児性愛者が世の中に存在するということを自分の子どもに教えるべきだと思うのですが、何歳頃に教えるべきでしょうか。

A:(齋藤梓さん)少なくとも保育園や幼稚園の時から、「プライベートゾーン」の話や、「プライベートゾーンを触る人、触りたいという人がいたら保護者に言うこと」「嫌な時は嫌だと言っていいこと」は伝える必要があると思います。

A:(斉藤章佳さん)小児性犯罪者の存在を教えることについては、小学校1年生~がいいと思います。なぜなら、加害者が対象にしている年齢層でもっとも多いのが小学校1~3年生の低学年だからです。あとは、どのような言葉やツールを使用して彼らに伝えていくかが重要だと思います。

■第4回は9月13日

性犯罪をなくすための対話 第4回小児性犯罪(子どもの性被害)後編

申し込みURL https://teamkamitani4.peatix.com/

【日時】 2018年9月13日(木) 19:00~21:00(開場18:30)

【会場】 港区男女平等参画センター(愛称「リーブラ」)1Fリーブラホール 東京都港区芝浦1-16-1 みなとパーク芝浦

【主催】チーム上谷 【協力】港区立男女平等参画センター リーブラ