「性犯罪者は“マジック”で自己正当化する」 加害者臨床から見た“男が痴漢になる理由”

(写真:アフロ)

 以前取材した性暴力関連のイベントで、登壇者が「痴漢防止のためのポスターは『痴漢は病気です。犯罪者になる前に病院へ行こう』という内容ではどうか」と提案したことがあった。アルコール依存症やギャンブル依存症と同じように、「痴漢するスリルがやめられない」人が実際に存在する。性犯罪の加害者治療にあたる精神科医から「『痴漢は犯罪です』というポスターを見ても、痴漢加害者は『自分は優しく触っているから痴漢じゃない』と思い込んでいる」と聞いたことが、この提案の背景にあった。(詳細はこちらの記事)

 痴漢は依存症であり、病気。だから再犯防止ための治療が必要であると言われる。一方で、性被害の現場を知る人からは「病気と見なされれば免罪されてしまうことになるのでは。それが怖い」という声もある。

 今年8月に刊行された『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)は、痴漢や強姦など性犯罪の加害者臨床に携わってきた精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんが約12年にわたる経験を元に綴った一冊だ。斉藤さんは本書の中で、“普通の会社員”“普通のよき夫”が痴漢となる理由を解き明かしている。なぜ、性暴力に耽溺する人がいるのか。依存症と定義することで「免罪」される恐れはないのか。斉藤さんにインタビューをした。

 ちなみに、『男が痴漢になる理由』は各所で話題となり、すでにインタビュー記事が複数の媒体で行われている。このインタビューに「知りたいことが書いてないな」と思われた方は、記事末尾に関連の記事をまとめているので、そちらもぜひ。

■「仕事を頑張ったから痴漢していい」加害者の身勝手な理屈

――加害者は痴漢行為でストレスを発散できることを何らかのきっかけで学習してしまう。『男が痴漢になる…』を読んで、それが「痴漢になる理由」の1つと理解しました。

斉藤:私が治療で関わっている加害者に話を聞くと、電車内での痴漢行為を目撃したことが「きっかけ」となるケースも少なくありません。「ああいう風にやっていいんだ」「女の子もそんなに嫌がっていないように見えるじゃないか」と自分勝手に解釈して、「自分も」となる加害者は少なくありません。

――さらに、「自分は今週仕事を頑張ったから触っても許される」とか「冤罪もあるんだから自分は触ってもいい」とか、他人からすると意味不明であまりにも身勝手な理屈をつけて加害することが書かれています。自分でノルマを決めて「目標人数に達していないからあともう1人触らなければ」という人のケースについては、ちょっともうなんと言ったらいいか……。

斉藤:彼らは真顔で「仕事を頑張ったから許されるだろう」って言うんですね。痴漢する理由はストレスっていうと違和感や憤りを覚える人もいるかもしれません。ストレスなんてみんな感じているのに、そんなことが理由になるのかと。でも実際に加害者たちに話を聞くと、仕事関係でのストレスを感じ、その対処行動で加害をするというケースが圧倒的に多いです。

――人によってはゲームやスポーツでストレスを発散するけれど、彼らは痴漢で。

斉藤:彼らはストレスへの対処行動の選択肢が非常に少なく、日常を黙々と過ごしています。発散するスキルがなくて、ただ朝と夜の満員電車で痴漢をする。一見真面目で勤勉な人が多く、痴漢する際も正の字で手帳に回数を記録するとか、「勤勉に」痴漢している人もいます。

■「反省してほしい」は効果が薄い

――それは他の性犯罪でも同じですか?

斉藤:強姦の場合も仕事のストレスという人もいますが、私の印象だと、強姦の場合は根源的に女性への劣等感や恨みを持っている人が多く、あとは自暴自棄ですね。自死を選ぶかどうするか……というくらい追い詰められているときに「死ぬぐらいだったら強姦してやろうか」と。大学生の集団強姦のような場合は、また違うと思いますが。

――私も実際に子どもの頃から被害に遭っているので、「普通の社会人や学生に見える人」が痴漢などの性犯罪をするっていうのは全く意外ではなく、むしろよく知っています。ストレスを発散することに、どうして他者を使わなければいけないのか。自分の頭の中で何が起こっているのか、ちゃんと考えてほしいな……と思ってしまいます。

斉藤:そこは実際の加害者臨床のエビデンスと噛み合わないところで、「もっと反省しろ」とか「取り返しのつかないことだと思っているのか」っていう問いかけには残念ながらあまり意味がないです。まず最初にアプローチするところは行動変容です。行動を変えて、再犯しないための効果的なスキルを再教育、再学習していく。再犯しない生活が送れていても、根本的に女性に対する女性蔑視、男尊女卑的な考え方が変わっていない人はいます。

――行動変容のためには、反省や内省は必ずしも必要ではない?

斉藤:そこはいったん保留にするというイメージですね。変化の順番に関する問題です。行動変容とは、盗撮の場合だったらスマートフォンからカメラ機能を外すとか、痴漢だったら満員電車に乗らなくていい職業選択をするとか、倒錯的なサイトを見ることがトリガー(問題行動への引き金)になって加害行為をする人であれば、そういうサイトを見ないとか。そうして日々のリスクマネジメントを地道に積み重ねていくと、必ず自分自身の問題行動のことを考えるので、時間はかかりますが自身の認知の歪みにも向き合うことになります。まず行動面の変容に重点をおいて、その土台がある程度出来てから内面の変容にアプローチしていくのが加害者臨床における『変化のステージモデル』です。このことを一般の人にも知ってもらいたいです。

――アルコール依存症の人でたとえると、まずはアルコールを飲みたくなるような場所に近づかないようにして、自分の内面を考えるのはその後で……というようなイメージでしょうか。

斉藤:アルコールや薬物依存症治療の場合、まずその物質を止めることが先決です。素面で生きることになると、なぜアルコールや薬物が必要な生き方だったのか、その人の生きづらさの問題が出てくる。物質自体がしっかり止まってから2~3年は、その人の成育歴に関わる過去のトラウマ体験には中途半端に触れないほうがいいというのが原則です。それより早く、ましてや治療者と関係性が出来ていない中で興味本位に触れてしまうと、再発リスクが上がるので中途半端に触れないほうがいいといわれています。それと似ているかもしれませんね。

■「もし自分の家族が性被害に遭ったら相手の男を殺す」と言う性犯罪加害者

――痴漢行為を「依存症」「病気」と捉えてしまうと、「病気だから仕方ない」と免罪することにつながってしまうかもしれず、それが怖いと言う人もいます。

斉藤:現在の裁判では、性嗜好障害や性依存症という病気だから責任能力が争われるかといったらそれはまずありません。そしてそのことは本人にもちゃんと話します。「過剰な病理化はあなたの加害行為を隠ぺいする機能があるので、それは常に意識してプログラムに取り組んでください」「これは反復する性加害行為につけられた病名であって、病気だから仕方ないと許されることは、この問題に関しては一切ない」と断言します。そこは必ず伝えないといけない。

――性犯罪の被害者は、被害と向き合うことを余儀なくされて苦しみます。自分が悪かったのではないかとか、自分なんて生まれなければ良かったのではと思ってしまうことすらある。繰り返しになってしまいますが、そういう深刻な加害行為をしたということを、やっぱりいつかはきちんと理解してほしいです。

斉藤:そうですね。彼らは、被害者の心情や自分のしたことが相手にどのような深刻な影響を与えるかということへの想像力が貧困です。自分が性被害に遭うことを想像するのは難しいのかもしれないけれど、それにしても想像すること自体を自分の中でストップさせているかのようです。それは恐らく、理解しようとすることを無意識のうちに止めているのだと思います。彼らに、「あなたの大切な人が同じような被害に遭ったらどう思いますか」と聞くと「相手の男を殺しに行きます」と答えることがあります。でもそこで止まってしまうんですよ。「ということは、自分も殺されてもおかしくないことをした」というところまで想像が及ばない。

――気付きたくない防御が働くのでしょうか?

斉藤:恐らくそうでしょう。殺されてもおかしくないことをした事実は認めたくないので、指摘しても話を巧妙にずらしていきます。世間一般にもよく性加害や被害を軽く表現する人がいますが、そういう人もどこかで想像力を働かせたり理解したりすることを止めようとしているのではないかと思います。

■加害者たちが持つ男尊女卑思考

――本書の中には、痴漢行為の背景には女性蔑視や男尊女卑の考え方があるという指摘があります。性犯罪者の男尊女卑思考はどんなところから読み取れるのでしょうか。

斉藤:本人たちはほとんど無意識にそういうフィルターを持っています。女性をモノのように、記号のように見る。くり返す痴漢行為の中で女性を自分より下の存在と考えることが自動思考、習慣になっている。性犯罪やDVをしない男性もこの類の思考を持っていますが、実際に行動化する人はこれが非常に強いと思います。

――自分の欲望を勝手にぶつけていい対象だと思っている?

斉藤:そうですね。本の中では、すべての男性が痴漢になる潜在的リスク、つまり加害性を内在していると書きました。聞くところによると編集部内でもこの意見に男性側から反発や抵抗があったようですが、これは加害者臨床ではよくある反応です。その人の核心部分に触れると反発や抵抗が起こる。加害者臨床ではこのような反応を効果的に使い、自らの認知の歪みに気づかせるようなアプローチを行います。

――男性に限らず、自分の加害性に向き合うのは大変なことだと思います。

斉藤:私はDVの加害者臨床にも15年程携わっていますが、DV加害者の中にある根本の問題は「恐怖」です。自分より力の弱い女性から反発されたり、裏切られたりすることが怖い。だから暴力でコントロールしようとします。つまり暴力は加害者側の「恐怖への防衛」として機能しています。性犯罪者もDV加害者と似ている部分があって、自分の存在が否定される、見捨てられるのを過剰に恐れる、そういう感情のパターンを持っている人が多い。でも「男は強くあるべきだ、弱みを見せてはいけない」という社会的な刷り込みや共通認識があるため、「自分は恐怖や不安を感じている」と、その弱さを認めると崩壊してしまう。崩壊しないため、それを過剰防衛するために加害行為に及びます。何重にも自分を守っているから、それに気付いて言語化するのが難しいのではないかと思います。このあたりが、私が考える「暴力」の本質です。

■加害者は“マジック”を使う

――私は自分にももちろん加害性はあると思っているのですが、斉藤さんは自分の中にも加害性はあると思いますか。

斉藤:ありますね。加害性を自覚していないと、加害行為をしている人と向き合う作業はバランスが取れなくなります。彼らはよく“マジック”を使うんですよ。自分の責任を軽くしようとしたり、相手が悪かったからやったとか責任転嫁したり、そういう話を巧妙に作り上げる。私も男性なので、知らないうちにその巧妙に仕組まれたストーリーに近寄っていく自分がいることに気付きます。定期的に被害者支援の方々にお会いしたり、被害者の方の話を聞いたりして自分の中にあるバランス感覚を見直していかないと天秤が崩れてしまいます。それが加害者臨床の中で最も難しいバランス感覚です。

――なるほど。

斉藤:私自身も、他の人を虐げることで自分が安全な場所に行けるならそうしてしまいたいとか、弱いものをいじめることで自分自身の安心を得たいという欲求は明確にあります。それは加害者と同じ気持ちなので、それが自分の中に確かに存在すると言葉にしていかないと知らないうちに取り込まれてしまう怖さがあります。でも加害性を否定したい人もいるでしょうし、気付いていない、気付きたくない人ももちろんいる。認めること自体が非常にしんどいことなので、だから反発や抵抗があるのかなと思います。

■ウソをつく加害者、ウソつきだと思われる被害者

――痴漢で捕まったときに「やりました」と素直に認める人と、認めない人は何が違うのでしょうか。

斉藤:大体、みんな最初に捕まったときは否定します。家族はもちろん冤罪だと思っているし、本人も認めません。でも二度三度捕まるうちに、認めざるを得なくなってきます。

――今年、痴漢を疑われた人が線路を逃げる事件が相次ぎましたが、その後捕まった1人は痴漢の前科がありました。裁判で裁判官から「お医者さんに診てもらう必要があると分かりますか?」と聞かれ「自分で治せると思っている」と答えたそうです。参考記事:相次ぐ線路飛び降り逃走 逮捕者のひとり『痴漢冤罪ではなかった』男が公判で述べた『飛び降りた理由』

斉藤:私たちのクリニックで性犯罪の治療プログラムを受けた人は12年間で1116人。これは氷山の一角だと思います。犯罪白書で上がっている数でしか世間は見ない。どれだけの人が被害届を出しておらず、示談で不起訴になっているか。性犯罪の場合、暗数が大多数をしめている以上、あの数字はまったくあてにならないと考えています。

――先日、警察や医療関係者向けの性犯罪に関する講演を聞きました。その中で海外での研修ビデオが流れたのですが、まず「被害者はウソをついているのではありません」と説明が入ったのが印象的でした。被害者はPTSDによって記憶が混乱したり部分的に記憶を失ったりしてしまうこともあります。時系列で話せないこともある。それを取り調べる人が「本当か?」と疑ってしまう。被害者が被害内容をうまく話せないこともある一方で、加害者が“マジック”を使って自分の正当性を第三者に信じ込ませるのは怖いことだなと思います。

斉藤:現在信じられている、性犯罪の被害者像もとても偏っていると思います。未だに派手な化粧をしていた、露出の多い服を着ていたとか、過去に水商売をしていたとか思っている人もいますが、加害者は「大人しそうで被害を訴えなさそうな人」を選びます。そこにある社会の認識も変えていかないといけません。

――以前、被害者の方に取材をしたとき、「性犯罪は女性問題と言われるけれど、99.5%の加害者が男性なのだから本当は男性問題」と仰っていました。

斉藤:性犯罪は男性の問題です。加害者の割合が五分五分だったら違うと思いますが、加害者はほとんどが男性ですから。繰り返しになりますが、「自分より下にいるはず」の女性が自分の存在を脅かすことについて男性は恐怖を感じています。彼らはくり返す加害行為で何を守ろうとしているのか。その本質的な問題に気付き、見て見ぬふりをせず、見たくないものから目を背けないという覚悟が加害者臨床で大事な部分だと思っています。

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斉藤章佳(さいとう あきよし) 精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。 1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざま々なアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。また、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。 著者に『性依存症の治療』、『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)がある。その他、論文多数。

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