なぜ「強制性交等罪」? その理由と疑問の声、新たな取り組みも

■「強 姦罪」が「強制性交等罪」に変わった理由

3月7日、性犯罪に関する刑法の改正法案が閣議決定しました。約110年ぶりの性犯罪刑法改正です。改正点はいくつかありますが、一つが「強 姦罪」の名称が「強制性交等罪」に変わったことです。なぜ名称が変わったのか、また、この名称変更についての問題点を指摘する声があることをご存知でしょうか。

まず、なぜ名称が変更されたのかについて。これまでの「強 姦罪」は、被害者は女性のみでした。これが今回の改正法案では、男性も被害対象となります。正確に言えば、「膣性交」の強要のみだった「強 姦」の定義が、「口腔性交」「肛門性交」まで広がることになりました。「口腔性交」「肛門性交」の強要は、これまで強制わい せつとして裁かれていました。

ただし「強 姦」には、もともと「女子を姦淫する」という意味があり、男性の被害をカバーしない言葉であるため、今後は罪名を「強制性交等罪」と改めることになりました。

見過ごされ、軽視されがちだった男性の被害や、膣性 交ができない子どもに代替手段として口腔性 交を行わせるといった被害も「強 姦」と同等に裁かれることになります。また、これまで「懲役3年以上」だった法定刑が「懲役5年以上」に引き上げられました。執行猶予は懲役3年以下の場合につくため、この引き上げにより執行猶予がつきづらくなったという意味もあります。これらの点から、今回の改正は「性犯罪刑法の厳罰化」と言われています。

■「強制性交等罪」への懸念、理由は

こういった改正を評価する声がある一方で、残る問題点を指摘する声もあります。実は、2014年からの検討会で議論された9つの論点のうち、改正法案に盛り込まれたのは4点のみでした(※記事末尾に詳細)。

また、「強制性交等罪」という改称に対する疑問の声もあります。3月15日に東京・永田町の衆議院第二会館で行われた、10~20代を対象とした院内集会「キャンパスレ イプを止めよう!~お互いを尊重する性のあり方を考えよう~」で、改正案の問題点と改善点を解説した弁護士の角田由紀子さんは、次のように話しました。

角田由紀子弁護士
角田由紀子弁護士

「新しい罪名では『性交』という言葉を使っているが、これで良いのか。(性交と強 姦という)この2つの行為は、外形的によく似ているので混同されてきました。加害者は『あれは強 姦ではなくセ ックス(性交)なんです』と主張する。同意があったと反論をするわけですが、(性交という言葉は)その反論に手を貸してきたのではなかったか。(強 姦と性交は)全く違うものだということを、もう少し明確になるように変える必要があるのでは」(角田さん)

角田さんは、2014年11月から2015年8月にかけて行われた「性犯罪の罰則に関する検討会」に出席していた委員の一人です。英語の場合、「性交(intercourse)」と「性的暴行(sexual assault/criminal sexual conduct)」は明確に分けられていることも例に挙げ、

「性交と性暴力とを同じ一つの線の上で考える。これはこれまでの誤解をそのまま引きずるのではないか」

とも話しました。

私が以前取材したサバイバー(性犯罪被害者)のひとりは、「レイ プはセ ックスではなく暴力」「レイ プは身体を武器として使う暴力」と表現しました。彼女がわざわざそう言わなければならなかった理由は、性交と性暴力は同じと認識されることがまだ多いからです。「減るものではない」といった、被害を軽視した発言が被害者に浴びせられることがあるのも、こういった認識が背後にあるからと感じます。

■大学生を対象とした同意のワークショップ

性交と性暴力を分けるのは両者の同意の有無です。しかし、昨年相次いで報じられた大学生の集団強 姦のような事件でも、加害者が「同意だと思っていた」と主張することはしばしばあります。「同意」とは何なのか。3月15日の院内集会「キャンパスレイ プを止めよう!」では、大学生たちが同意について考えるワークショップに取り組みました。

ワークショップの様子
ワークショップの様子

このワークショップはイギリスの大学でオリエンテーションとして行われているものです。アメリカやイギリスでは2000年代頃からキャンパス内での強 姦事件の多発が問題視され始め、「同意教育」の啓発が始まったといいます。

たとえば次のようなシナリオを読んで、あなたはどう考えるでしょうか。

Scenario1

大学3年の秋、そろそろ真剣に就活について考えなくてはいけない。周りにはインターンにすでに受かっている友達もいて、焦り始めていた。

そんな中、同じゼミの社会人の先輩に食事に誘われた。就活についてアドバイスをもらうチャンスだと思い、喜んで返事をした。先輩は大学近くのおいしいレストランに連れて行ってくれた。就活に関する悩みも優しく聞いてくれ、アドバイスももらい、少し不安が和らいだ。

食事とお酒が進むにつれて、先輩がどんどん上機嫌になっていき、やがてお互いのプライベートに話題がいく。恋愛事情について根掘り葉掘り聞かれ、この人酔うとめんどうくさいなと思いながら、適当に笑ってやり過ごした。せっかくだから次の店に行こうという話になり、レストランを出た瞬間。

急に抱きつかれ、キスをされそうになった。びっくりして腕を振り払ったら、先輩が戸惑った顔をした。別れ際に、「二人きりで食事に来たんだから、好きだと思われても仕方ないよ」と少し怒った口調で言われた。

参加した大学生たちは、男女を交えたグループをつくりディスカッションを行いました。このシナリオに出たのは次のような意見です。

「男性と女性の間でお互いの意思を確認する手続きを取られていない。女性が笑ってやり過ごしたことを男性が都合よく受け取っている」

「女性側は『あなたと恋愛関係を持ちたくない』ということははっきり言葉にしていない。ただ、先輩後輩という力関係があるので、女性は適当に笑ってやり過ごすしかなかったのかもしれない」

「このシナリオでは男女の指定が書いていない。先輩がリアクションを取ったということで、先輩を男性、後輩を女性と勝手に想像していた。そこに偏見があるのかなと思った」

このほか、「同意」もしくは「拒否」を示す際に、言葉と態度、もしくはその両方、どのように示すことが最も現実的で誤解が少ないのかなどについて話し合われました。

■大学生が考えた「同意の定義」

画像

このあと、同じように2つのシナリオについて話し合い、最後にそれぞれが考えた「同意の定義」をグループごとに発表しました。7つのグループから発表された定義は次の通り。

  • 「対等な関係の人が話し合ってお互い納得のいく結論に至ること」
  • 「その行動を取った後にお互いの気持ちがどうなっているのか、行動した後のお互いの気持ちがどうなるのかにお互いが寄り添い尊重している状態
  • 自分とは異なる他者を認めた上で、コミュニケーションを通じてお互いを尊重すること」
  • 「相手を一人の人間として、互いが互いを知り合うこと。その方法は言語・非言語を問わない
  • 「同意とは判断能力を有する両当事者が言動によって伝え合うこと」
  • 「意識がある状態であることが前提。(人間関係には)必ず強弱の立場があるので、必ず弱い立場の人に意思決定のチョイスがある状況で決めるのが同意」
  • 「意思表示能力と判断能力を持つ対等な立場の個人の間において双方向的なコミュニケーションによって成るもの」

主催団体のひとつ、「ちゃぶ台返し女子アクション」の大澤祥子さんは、学生にこう伝えました。

「(海外でキャンパスレ イプが)社会問題化したのは、20代が声を挙げたことが大きかった。このワークショップを皆さんの大学に持ち帰っていただいて、新勧の時期などに同意について考える機会を持ってほしい。日本でも同意を考える機会を増やしていければ」

性に関する同意は「暗黙の了解で良い」と思われていることもありますが、個人によって認識の差があります。性暴力を未然に防ぐ対策の一つとして、同意のワークショップが広がるといいなと感じています。

最後に、以前の記事でも引用した「同意」に関する動画を貼ります。イギリスの警察が制作したもの。

(※)2014年から検討会で議論された下記の論点のうち、改正法案に盛り込まれたのは(1)(4)(8)と、(6)の一部のみ(太字部分)。

(1)性犯罪を親告罪とすることについて

(2)性犯罪に関する公訴時効の廃止または停止について 

※幼少期に被害に遭った場合、被害を自覚し加害者を訴えることができるまでに時間がかかることから改正が議論されたが、「(時間が経つと)証拠が散逸する」などの理由で見送られた。

(3)配偶者間における強 姦罪の成立について 

※現行刑法では強 姦罪の加害者に配偶者は含まれないという一文はないが、実際には配偶者を訴えることが非常に難しいことからフランス刑法にならい「婚姻関係にあっても」などの注意的な規定を設けるべきという意見があったが、「配偶者間の強 姦は犯罪となることは裁判官の中では当然の前提と考えられていると思われる」といった理由から見送られた。

(4)強 姦罪の主体などの拡大及び性交類似行為に関する構成要件

(5)強 姦罪などにおける暴行・脅迫要件の緩和

※抵抗できないほどの暴行・脅迫が要件となることで起訴されていない事件があることが指摘されたが、「疑わしきは被告人の利益」の原則を主張する声などによって見送られた。

(6)地位・関係性を利用した性的行為に関する規定の創設 

※監護者による性的行為に関する規定が新たに設けられた。一方で、雇用者と被雇用者、指導者・非指導者などの「関係性」についての規定は見送られた。

(7)いわゆる性交同意年齢の引上げ 

※現状では13歳。アメリカやカナダでは16歳であり、「諸外国と比べて低すぎる」「日本の子どもたちがヨーロッパと比較して成熟度が高いと言えない」という意見があったが、「子ども自身の意思決定によって性交まですることは十分あり得る」という意見や、児童福祉法や各都道府県の条例で処罰規定があるなどの意見により見送られた。

(8)性犯罪の法定刑法の見直しについて

(9)刑法における性犯罪に関する条文の位置について 

※性犯罪を人の心身の尊厳に対する罪と捉え直すのであれば、殺人の章の次に置くべきではないかという意見があった。また、殺人は個人的法益に分類されているが、性犯罪は社会的法益の中に置かれていることへの問題提起があったが、章自体の編成については「性的なものをまとめているという意味で合理性がある」といった意見から見送られた。

参考:「性犯罪の罰則に関する検討会」取りまとめ報告書(平成27年8月6日/性犯罪の罰則に関する検討会)

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初の単著『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)発売中。ライターです。主に性暴力、働き方、教育などの取材・執筆をしています。カウンセラーではないので、ケアを受けていない方からの被害相談は基本的に対応できません。お仕事、講演のご依頼は、info.mapt7@gmail.com ※スタッフが対応します。NAVERまとめへの転載お断り。

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