17時退社で10年連続増収の化粧品会社 社員の半数はママ、「ベビーシッター代」を会社負担に

10月31日の朝礼後の様子

8時30分に始まった朝礼。社員たちは皆、ハロウィーンの仮装に身を包んでいる。銀座にある化粧品会社ランクアップでは、毎年恒例となった光景だ。同社は全社員45人中、43人が女性。そのうち21人がワーキングマザー。仕事帰りに飲み会や打ち上げを行えない代わりに、社内コミュニケーションの一環として、全社をあげてハロウィーンを楽しんでいる。

筆者が同社に初めて取材したのは2年前。この2年間で、同社では出産した女性が新たに6人。売上高59億円だった2年前からさらに伸び、今年9月期は約90億円となる見込み(創業から10年連続の増収)だ。海外事業への展開にも力を入れ始めている。

【2年前の記事】長時間労働は本当に必要? ほとんどの社員が17時に帰る年商59億円の化粧品会社

「17時退社で売り上げ増」が話題を呼び、この2年間で多くのメディアに取り上げられたが、同社では「17時退社」以外にも、さまざまな制度や福利厚生がある。社員に聞いてみると、中でも、子どもが病気になった際に利用できる「ベビーシッター制度」が好評のようだ。

■会社負担のシッター代、月に50万円を超えることも

2年前の取材時は育休中に子どもと一緒にハロウィーンに参加していた川口さん(35)。昨年から復帰し、今年の9月からは「新しいことをしてみたい」という希望が通り、販売促進部から製品開発部のマネージャーへ異動したそうだ。

「2年前と比べて、個々人の権限がさらに増えました。いいと思ったことは自分でどんどん進められる。社長が『挑戦』を打ち出してくれているからだと思います。売り上げも目に見えて伸びているので、やりがいがあります」(川口さん)

川口さんは7月から2週間に1回、平日の夜にビジネススクールで学んでいる。スクールの費用(3カ月で約16万円)は会社負担だ。

「学んでみたいことがあると社長に話してOKをもらいました。同じ講座を受けている人が社内で5~6人ぐらいいます。久しぶりに脳が活性化している感じ。視座を上げて、もっと会社の役に立てればと思っています」(川口さん)

ハロウィーンで仮装する川口さん(中央)
ハロウィーンで仮装する川口さん(中央)

普段は16時までの時短勤務だが、スクールに通う日は早く帰宅した夫が子どもを見てくれるという。そんな川口さんが「本当にありがたい」と話すのが、ベビーシッター制度だ。ランクアップでは、子どもの病気で保育園に預けられない際のベビーシッター代、1回につき約2万円を会社負担としている(自己負担額は1回300円)。

急な発熱など、病気の際は子どもを保育園へ預けることができない。免疫力がまだない乳児や幼児は急な発熱がつきものだが、そのたびに会社を休めば業務が滞ってしまう。朝は元気だった子どもが午後になってから熱を出し、保育園から呼び出しがかかることもある。数ヶ月に1~2日なら休めても、月に何日も休むとなると……。「また子どもの病気?」と同僚や上司から嫌な顔をされた、大事な打ち合わせの前日に子どもの具合が悪そうでハラハラする……といった話は、「ワーキングマザーあるある」だ。

「シッター制度のおかげで、子どもの病気のたびに会社を休まなければいけないという精神的な負担がなくなりました。子どもに対しては申し訳ない気持ちがあるけれど……。ママ友に聞いても、会社を休むか親に預けるか、自分でベビーシッターを頼むかのどれか。会社が負担してくれるというと驚かれます」(川口さん)

繰り返しになるが、子どもに病気はつきもの。21人も母親がいれば、毎日誰かの子どもが熱を出しているのでは……? そう聞くと、広報担当の島田めぐみさんは大きく頷いて、「(シッター代にかかっている費用は)全体で月に2~30万円ぐらい。風邪の流行る時期は月に50万円を超えたこともあります」と教えてくれた。

「でも、制度がなければ会社を休むことになる。会社をまわすために必要な制度です」と言うのは、取締役の日高由紀子さん。日高さん自身、半年前に出産して復帰したばかりだ。

■ベビーシッター制度はうれしい! でも、負担はママばかりなの?

昨年長女を出産し、今年5月に育休から復帰した近藤さん(34)にも話を聞いた。4月の“慣らし保育”時には大きな体調不良もなく、ベビーシッター制度に登録しなくてもいけそうだと思ったという。しかし……。

「5月は問題なかったのですが、6月から突発性の発疹が出たりして体調を崩してしまいました。(長女の看病で)しばらく会社に行けなくて、先輩のママ社員に相談したら『シッター制度を使ってみたら?』って。7月からはシッター制度を利用することにしました」(近藤さん)

長女の具合が悪いときは、実家の母に頼むこともあった。自治体が行う病児保育にも登録していたという。しかし、母も仕事を持っており、毎回は頼みづらい。また、自治体の病児保育は診断書が必要で競争率が高く、申し込んでも利用できないことが続いた。

「(自治体の病児保育は)結局一度も使えませんでした。だから、会社のシッター制度があって本当に良かった。子どももシッターさんになついてくれています。(後輩がもし利用を迷っていたら)復帰後すぐからの利用を勧めます」(近藤さん)

2015年に一般財団法人日本病児保育協会が行った調査 (共働きの父母、それぞれ300人ずつを対象)によれば、子どもが病気になったときの対応で最も多かったのは「母親が仕事を休む」(62.7%)、次いで「祖父母に預ける」(24.8%)だった。「父親が仕事を休む」は7.8%、「病児保育サービスを利用する」は2.8%にとどまっている。

同調査では、「仕事を休むと職場に迷惑をかけると感じる」と回答した父親は43%であるのに対して、母親は68%と乖離があり、母親の心理的負担がより大きいこと。さらに、2002年に実施されたワーキングマザーに関する調査(調査実施:マクロミル)の「子どもの病気で遅刻や欠勤をすることがあり、周囲に迷惑をかけてしまう」(72%)と現状がほとんど変わらない水準であることを指摘している。

「他社の友だちの中には、子どもの病気で育休復帰から2カ月で有休を使い果たしてしまったママもいます。保育園に行ったら(病欠で)3分の1しか園児がいなかったり、保育園ママたちとの『全体ママLINE』に『うちの息子がRSウィルスにかかりました』って共有の連絡が入ったり、子どもが小さいうちは本当に急な病気が多い。でも、病気になったときに負担するのは結局ママ。パパたちは『出張』とか『会議』のひとことで済まされてしまうけど、本当は社会全体で考えないといけない問題かもしれない。時短申請はできても、子どもが病気のときにどうしよう、休めないのに……って思っているママはまだ多いと思います」(近藤さん)

子どもが生まれて初めて、「子どもってこんなに頻繁に熱を出すんだ」と気付く人も多い。管理職世代の男性の場合、妻が専業主婦のことも多く、そもそも「子どもの熱で会社を休まなければいけない気苦労」を知らない人も多い。病児保育、シッター制度の需要に気付いていない会社も多いのかもしれない。

岩崎社長自身も一児の母
岩崎社長自身も一児の母

今年のハロウィーンはマリリンモンローに扮していた岩崎由美子社長。YouTubeの動画を見てメイクを研究したという。いつも明るい岩崎社長が、サバサバとした口調でこう言った。

「うちの会社はママが多いからこういう制度があるって思われている。でも、パパたちがいる会社も半額負担してって思うこともありますよ(笑)。本当は、パパとママが半分ずつ半休を取れるといい。でも、現状ではまだ、パパが休むとクビになってしまうかもしれない企業がある。将来はパパも、子どもが病気のときに休める社会になりますように」