AV出演強要被害 テレビ出演を偽装しての撮影、出演者が自殺したケースも

記者会見の出席者

東京を拠点に活動するNPO法人ヒューマンライツ・ナウがアダルトビデオの出演強要被害について調査報告書を公表。これに関する記者会見が3月3日に行われた。

調査報告書はヒューマンライツ・ナウのHPでも確認することができる。

ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害 調査報告書

販売後、自殺に追い込まれたケースも

報告によれば、2009年に設立されたPAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)に寄せられた相談件数は、2012年の1件から2014年には32件、2015年には81件。2016年はすでに20件ほどの相談があるという。相談件数は同会の存在が知られるようになるにつれて増え続けている。相談内容は、「AV出演強要」(13件)、「AV違約金」(12件)、「AVに騙されて出演」(21件)、「AV出演を辞めたい」(4件)、「過去のAVを削除したい」(20件)など。女性からの相談が多いが、ゲイビデオに出演した男性からの相談もあったという。

具体的な相談例として報告されたのは6例。6例のうち1例は、昨年違約金裁判を起こされた出演女性が勝訴したケース(参考:AV違約金訴訟・意に反して出演する義務ないとし請求棄却。被害から逃れる・被害をなくすため今必要なこと)。このほかの被害のうち、3例について下記に要約する。

■暴力的な撮影が行われたケース

知人から「グラビアモデル」の事務所に紹介すると言われX社と面接。専属モデルになることが決まったが、面接でAVの話は一切出なかった。X社の紹介でY社の面接へ。性体験の有無などを質問され戸惑った。Y社の作品に出ることが決定したが、仕事内容は知らされていなかった。撮影開始直前にX社からAVであることを知らされ拒否したが、キャンセルには高額の違約金が発生すると言われ、応じざるを得なかった。1本目の撮影終了後に契約の解除を申し出たが、違約金をちらつかせるなどして出演を強要。

撮影内容は次第に過激になり、以下のような行為も行われたが、事前に内容が知らされることはなかった。

・撮影のため1日12リットル以上の水を飲まされる

・避妊具を付けない複数人からの挿入行為

・避妊具を付けず肛門と膣への挿入行為

・膣内に男性器に見立てた管を通し大量の卵白などの液体を何時間も続けて流し込まれる

・下半身をむき出しのまま、上半身は木の板囲いによって固定され、身体的自由を奪われたまま凌辱を受ける

・多数に及ぶ無修正動画への出演強要

全裸のままスタジオから逃げたこともあったが、そのたびに監督らから怒鳴られ撮影が強行された。一連の撮影の結果、膣炎、性器ヘルペス、カンジタ、ウイルス性胃腸炎、円形脱毛症、うつ病、男性恐怖症、閉所恐怖症などを発症。今もAVが販売され続けている事実から逃れるため整形手術を繰り返している。

■自殺に追い込まれたケース

スカウトマンから声を掛けられて勧誘。スカウトマンは女性が気の弱い性格であることを見抜き、取り囲んで説得。出演の許諾を得た。断り切れずに出演した直後に強く後悔したが、すでに次回の撮影も決まっていたため出演せざるを得なくなった。辞めたがっていることを知った会社側は矢継ぎ早に出演させ、半年ほどの間に複数のAVが制作された。その後、会社との契約を解除、被害者支援団体に相談し販売停止交渉を弁護士に依頼することを決意したが、実際に依頼する直前に自殺。

■テレビ出演を偽装して撮影されたケース

路上で「深夜番組のロケ。素人モデルさんをメイクアップして小悪魔的コスプレイヤーになっていただく企画」「出演すれば謝礼金も支払う」と声を掛けられ、その場で承諾。ロケバスで書類へのサインと身分証明書の提示を求められたが、しっかりした会社だと思ったことやロケバス内に女性もいたことから安心し、暗くて読めないまま書類にサイン。学生証を渡した。

その後、コスプレに着替えて撮影が開始され、徐々に卑猥な質問や体にさわる行為が繰り返された。恐怖のあまり身動きがとれなくなり、そのまま複数の男性から性交され、その様子が撮影された。

「身体管理に関しては自己責任」という契約内容

「暴力的な撮影が行われたケース」について、どのような契約書があったのかを質問したところ、ヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子氏、PAPS世話人の宮本節子氏らから次のような回答があった。

「このケースについては契約書が被害女性に渡されていない。契約書が女性に渡されないケースは多い。『こんな契約書が家にあったら人に知られちゃうから預かっとくね』などと言われる場合もある」

「したがって、このケースでどのような契約が結ばれたかはわからないが、多くの場合、契約書には出演の際の具体的な内容は書かれていない。『AV』とだけ書かれていたり、『AV』と書いていないこともある」

「契約書には『身体管理に関しては自己責任』と書かれていることもある」

また、ヒューマンライツ・ナウ副理事長で千葉大学教授の後藤弘子氏は次のように話した。

「契約書は本来、弱い立場の者を守るためのもの。契約書をたてに嫌がる人に対して出演を強要することは許されない」

先述した昨年の違約金裁判でも、「アダルトビデオへの出演は、原告が指定する男性と性行為等をすることを内容とするものであるから、出演者である被告の意に反してこれに従事させることが許されない性質のものといえる」と判決で指摘されている。

「自殺に追い込まれたケース」については、「相談者の自死を確認したのはこのケースだけだが、相談者からの相談が途絶え連絡が取れなくなるケースは少なくない。相談者たちがどうしているのかわからないケースはある」と追加で説明があった。

「テレビ出演を偽装して撮影されたケース」について、女性をスカウト・契約したのはプロダクション(マネジメント会社)とメーカー(制作販売会社)のどちらかと質問した。通常の場合、女性はプロダクションと契約を結ぶことが多いが、このケースではメーカーとの契約だったという。

制作会社社員「プロダクションの契約には関知していない」

筆者は、昨年の違約金裁判の後、あるAV制作販売会社の社員と話をしたことがある。その社員に違約金裁判で女性が勝訴したことを話すと、「驚いた」と口にした。以下がその際に聞いた内容の要約だ。

「AVの制作販売会社で、無理に女性を出演させるようなところは自分の会社も含めてないと思う。そんな危ない橋は渡らない。ただ、プロダクションから連れて来られる女性がどういった説明をされているのか、どんな契約なのかは関知していない」

「撮影日当日に女性が撮影が来なかった場合、スタッフや場所代などの経費はプロダクション会社に請求する」

「車の中で撮影するAVが流行った時期があった。それはホテルなどで撮影するよりも安上がりだから。また、路上したスカウトした女性の場合、ホテルなどに移動するまでに『やはり出たくない』と言われてしまうことがある。気持ちが変わらないうちに撮影する意味でも車での撮影は便利」

報告書では、「なお、真に自由な意思でAVに出演するケースもあると考えられるが、本調査はあくまで、AV出演の課程で発生している人権侵害事例に着目し、その解決について提言をしようとするものである」という一文がある。筆者も、自分の意志でアダルトビデオに出演したり、AV女優(俳優)としての活動を望む人については、何か問題があるとは思わない。

ただ、撮影が出演者の意図に反するかたちで行われた場合、それは人権侵害であり、出演者のダメージが非常に大きいことは想像に難くない。契約の際にAVであることを明かさなかったり、気の弱さにつけこんだり、言葉巧みに勧誘して気持ちが変わらないうちに撮影してしまおうといったことは、そのリスクを考えればあってはならないはずだ。

現代において、一度撮影されて流通してしまった映像を完全に回収することは困難だ。撮影内容はもちろんだが、AV出演に関してのリスクを真摯に話しておくことも必要だろう。筆者はこれまでにAV女優の方や制作者に何度か取材したことがあり、良識のある制作者はそうしていると考えてきたのだが、違うのだろうか。例が適当かはわからないが、タバコには「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります」といった警告表示が義務付けられている。会見に出席した角田由紀子弁護士は「契約書の内容が非常に巧妙で、弁護士など法律の専門家が関与しているとしか思えない。普通の人がパッと見せられて、読み解ける内容ではない」と話したが、こういった騙すためのような巧妙な契約書ではなく、制作側が出演者に出演にあたってのリスクを説明し、撮影にあたって充分な配慮をすることを約束し、その上で了解を取るのは最低限必要なことだと感じる。

出席者の一人から「制作の背景には需要の問題がある。需要の問題は社会問題にされてこなかった。需要を喚起するばかりでブレーキのない状態は問題がある」という発言があった。出演を強要するようなやり方をしてまで制作が続けられるのは「需要」があるからに他ならない。

また、会見に出席した一人、NPO法人ライトハウスの藤原志帆子氏は「『来週発売されてしまうので止めたい』というような緊急の相談が来ることもたびたびある。警察に相談しても、契約書を受け取っていなかったり、サインしてしまっているなら介入できないと言われてしまう。出演してしまった人は『自分が悪い』と思ってしまう人も多いが、そういう人たちがようやく支援団体につながり始めている。それでもまだ氷山の一角」と話した。

報告書では、現在の消費者法(消費者法制、特定商取引法、消費者安全法)の定義にあてはまらないことなどを指摘し、内閣府と国会議員に対して法律に下記のような意を盛り込むことを要望している。

●内閣府・国会議員に対して

AV強要被害に関する必要な調査を行い、AV強要被害の被害者を保護・救済できるよう、必要な法改正案を検討準備すること。法律には以下の内容を盛り込んでください。

・監督官庁の設置

・不当・違法な勧誘の禁止

・違約金を定めることの禁止

・意に反して出演させることの禁止

・女性を指揮監督下において、メーカーでの撮影に派遣する行為は違法であることを確認する

・禁止事項に違反する場合の刑事罰

・規約の解除をいつでも認めること

・生命・身体を危険にさらし、人体に著しく有害な内容を含むビデオの販売・流布の禁止

・意に反する出演にかかるビデオの販売差し止め

・悪質な事業者の企業名公表、指示、命令、業務停止などの措置

・相談および被害救済窓口の措置

性犯罪被害報道のジレンマ

会見では、記者らから、被害報告のあるメーカーやプロダクションの名前や、自殺した女性の年代(年齢)を聞く質問があがった。回答は、「メーカーやプロダクション名の公表は現段階では考えていない」というものだった。また、女性の年代についても伏せられた。「被害を受けた人たちに関する情報は報告書にあるものが限界。これ以上の情報を公開した場合、被害者に直接取材が及ぶことを恐れている」という理由だった。

被害者たちを撮影した映像は実際に販売されており、今もまだ流通しているものがあることを考えると、被害者情報については極めて慎重にならなければならないのはわかる。記事から被害者を特定するような動きが起こらないとも限らない。

ただ、記事を書く側からすると、記事に書くか書かないかは別として、実際に被害者本人の声を直接聞かなければ確かめられないこと、判断できないこともあると感じる。さらに言えば、被害者が実際にいることを確かめていないのに記事を書いていいのかという思いがある。契約書の内容についてもそうだ。だがこれは、地道な取材を行い、被害者支援団体からの信頼を得ることで成し遂げるべきなのだろう。

一つ感じるのは、性犯罪報道のジレンマについてだ。たとえば、性犯罪被害の報道については、被害者の情報は極力伏せられるし、場合によっては被害内容や被害に至るまでの経緯、加害者の情報さえも伏せられることがある。それは被害者を守るためである。しかしそのことが、報道の内容を曖昧にし、誤解やあらぬ詮索につながってしまうこともある。

また、次のようなこともある。『リベンジポルノ』(弘文堂)などの著書がある渡辺真由子氏に取材した際、次のような話を伺った。

渡辺:私がテレビ局にいたとき、1人暮らしの女の子のマンションで性犯罪事件がありました。女友達が泊まりがけで遊びに来て、朝方友達が鍵をかけずに帰ったのを狙ってストーカーが押し入り、被害者を暴行したんです。こういう手口があることを、ぜひニュースで取り上げたかった。でもテレビ局の場合は、映像がないとニュースにならないんです。特に性犯罪は現場の映像が撮りづらいんですよ。普通は事件現場を撮影しますが、被害者のマンションを映したら特定されてしまうからそれは絶対にできない。そうすると映像がないので、その時点でニュースにできないということでカットされてしまう。そういうケースが今もおそらくたくさんあって、ひどいことが起きていてもテレビで報じられることは少ないのではないかと思います。(インタビュー「リベンジポルノを利用した強制売春も…“恥ずかしさ”が被害者を沈黙させる」より)

出典:ウートピ

被害者を守るための情報を伏せることは必要だが、それが性犯罪を見えづらくすることにもつながっている。性犯罪被害者は、なぜ名乗り出ることができないか。それは性犯罪被害に遭うことが「恥」だと考えられているからであり、被害者が「隙があった」「被害にあう方も悪い」と責められることがるからだ。

以前、実名を出して活動をしている性犯罪被害者の女性に話を聞いたことがある。彼女は、「私はラッキーなケースだった」と言った。「海外に住んでいるとき、知らない男に家の鍵を壊されて侵入され、レイプされた。被害を立証しやすいケースだった」と。たとえば知人や家族、元パートナーから被害を受けたような場合などは、被害の立証が非常に難しく、「あなたにも隙があった」と落ち度を指摘されてしまう。性犯罪被害は、知らない人からよりも知っている人からの方が多いにも関わらず。

性犯罪被害者への偏見をなくし、性犯罪被害をなくすためには、性犯罪被害が今も起こっていることを伝えることが必要だ。しかし、その情報は被害者を守るために伏せられることがある。被害に遭った人がなぜ声を上げることができないかといえば、そこには彼ら彼女らへの偏見があるからだ。被害者に何の落ち度もなくても、「恥」の烙印を押されてしまうのだ。

性犯罪被害をタブーにせず、被害に遭った人が自ら語りたいと思うのであれば、語ることのできる社会に変えていくことが必要だと考えている。

ライターでフェミニストです。主に性暴力、働き方、教育などの取材・執筆をしています。著書『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)。やわらかめの記事はこちら→https://ogatama.theletter.jp/

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