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ウクライナ軍が揚陸艦「コンスタンチン・オリシャンスキー」と偵察艦「イワン・フルス」の撃破を追加報告

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ国防省の報告より揚陸艦3隻と偵察艦1隻を撃破(戦果確認中)

 3月24日発表でウクライナ国防省は、23日から24日夜間にロシア海軍黒海艦隊の拠点セヴァストポリに大規模なミサイル攻撃を仕掛けて、ロプーチャ級大型揚陸艦「ヤマル」と「アゾフ」の2隻への攻撃が成功したと主張、他に黒海艦隊の通信センターと幾つかのインフラ施設を攻撃したと主張していました。

関連:ロシア海軍揚陸艦「ヤマル」と「アゾフ」をウクライナ軍が巡航ミサイルで撃破か(2024年3月25日)

 ただし現時点まで視覚的に揚陸艦の損傷を確認できる報告は無く、通信センターらしき建造物に爆発で大穴が空いていることが衛星画像で確認されている程度です。3月25日にウクライナ国防省情報総局(GUR)は「揚陸艦ヤマルは上甲板に穴が空き右舷に傾いた」と追加報告しましたが、視覚的な証拠は出されていません。

 そして3月26日になってウクライナ国防省は、23日から24日夜間のセヴァストポリへのミサイル攻撃でさらに2隻の敵艦船への攻撃に成功していたと追加発表しています。揚陸艦「コンスタンチン・オリシャンスキー」と偵察艦「イワン・フルス」にミサイルが命中したとしていますが写真や映像など証拠の提示はなく、視覚的な確認はまだ取れていません。

元ウクライナ揚陸艦「コンスタンチン・オリシャンスキー」

ウクライナ国防省より大型揚陸艦「コンスタンチン・オリシャンスキー」、艦番号U402
ウクライナ国防省より大型揚陸艦「コンスタンチン・オリシャンスキー」、艦番号U402

 ロプーチャ級揚陸艦「コンスタンチン・オリシャンスキー」は元々ウクライナ海軍の所属でしたが、2014年のロシア軍によるクリミア侵攻でドヌズラフ湖(海と繋がっている)で鹵獲され、以降はロシア海軍に編入することなく部品取り用としてセヴァストポリの岸壁に繋がれていました。(※このため2022年2月24日開戦直前時点でのロシア海軍黒海艦隊の揚陸艦13隻の勢力数にはカウントされていない)

 2022年2月24日にロシア軍がウクライナに全面侵攻を開始してから約2年経ち、ウクライナ軍の最近のセヴァストポリ攻撃が行われる前の時点で既に、ロシア海軍黒海艦隊の揚陸艦は「サラトフ」「ミンスク」「ノヴォチェルカスク」「ツェーザリ・クニコフ」の4隻が撃破されています。このうち3隻は廃艦ないし沈没で永久損失が確定ですが、「ミンスク」は上部構造物が破壊されましたが船体は貫通しておらず、修理が可能かもしれないと復帰の計画が検討されていました。

 その「ミンスク」の修理方法として、部品取り用として員数外である「コンスタンチン・オリシャンスキー」の上部構造物を、同じロプーチャ級揚陸艦の「ミンスク」に移植すれば直せます。もし移植が無理であっても「コンスタンチン・オリシャンスキー」の欠けた部品を元に戻して復帰させれば揚陸艦の補充ができます。

 そのような計画が検討されていると報道され、ウクライナ軍はそれを潰そうと攻撃を仕掛けました。元は自分たちの船を利用されないために。

 ウクライナ国防省は「(奪われてから)10年が経ちましたが、正義は回復された」と宣言しました。奪われた船を敵に利用されないために自分たちで処分したのです。また攻撃にはネプチューン対艦ミサイルを使用したと説明があり、以下のことが分かりました。

  • ネプチューン対艦ミサイルに対地攻撃可能な改造型がある
  • ネプチューン対地型の射程は推定で300km以上ある
  • 攻撃に海軍の地対艦ミサイル部隊が参加した

 岸壁に係留されている揚陸艦を攻撃できるということは対地攻撃能力があることを意味しています。またセヴァストポリからウクライナ側の最前線まで最短230kmありますが、現在の勢力図では最短コースで飛ぶと陸地の上を飛ぶ航程が多くなるので発見されやすく、見付かり難い洋上を飛行するコースでは射程300km以上が欲しいので、迂回飛行をする余裕などを見て射程400km程度の射程を持っていると推定します。

 そして3月24日にウクライナ空軍司令ミコラ・オレシチュク中将が「空と海は同じ色だ! パイロットと水兵の戦果に感謝する!」とSNSに投稿した意味の答え合わせ(空軍と海軍の共同攻撃)となっています。

 揚陸艦「コンスタンチン・オリシャンスキー」はソ連時代の1985年に就役した艦であり、1991年のソ連崩壊後の1996年にウクライナ海軍所属となり、2014年にロシア軍に奪われました。

  • 露語:コンスタンチン・オリシャンスキー(Константин Ольшанский)
  • 宇語:コスチャンティン・オリシャンシキー(Костянтин Ольшанський)

 艦名の由来のソ連軍人はウクライナのハルキウ(ハリコフ)出身なので、おそらく本人はロシア語話者だったのでしょう。この艦はロシア語でもウクライナ語でもどちらでも読んでいいと思いますが、この記事ではロシア語読みで表記することにしています。

偵察艦「イワン・フルス」

ウクライナ国防省よりロシア偵察艦「イワン・フルス」
ウクライナ国防省よりロシア偵察艦「イワン・フルス」

 偵察艦「イワン・フルス(Иван Хурс)」は、この戦争中の2023年5月24日に洋上でウクライナの自爆水上ドローンに襲撃され撃破されたと思われていましたが、2日後の5月26日にひょっこりと無傷のままセヴァストポリ港に戻って来たことがあります。

 戦闘艦ではなく固定武装は14.5mm機関銃が2基しかないのに幸運にも襲撃を切り抜けたことがある「イワン・フルス」ですが、今回はどうだったのでしょうか。ウクライナ側は攻撃が成功したとしか言っていないので、仮にミサイルが命中していたとしても大破したとは限らず、当たり所によっては小破で済んでいる可能性もあります。

 3月23日から24日の夜間にセヴァストポリに対して行われたウクライナ軍のミサイル攻撃は、ストームシャドウ巡航ミサイルとネプチューン対艦ミサイル(対地攻撃改造型)によって行われて、揚陸艦「ヤマル」「アゾフ」「コンスタンチン・オリシャンスキー(予備艦)」と偵察艦「イワン・フルス」の合計4隻にミサイルが命中したとウクライナ軍は主張しています。

 もし全て撃破していたら大戦果ですが、今のところはまだ視覚的に大きな損傷を負った艦船は確認されていません。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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