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イスラエル軍がレーザー兵器「アイアンビーム」を実戦投入したというデマが流れる。しかし同兵器は未完成

JSF軍事/生き物ライター
イスラエル軍より「アイアンビーム」 ※実際にはこのレーザー兵器は可視光ではない

 10月16日早朝(日本時間)、「イスラエル軍がレーザー防空システムのアイアンビームを実戦投入した!」という動画がSNSに大量に出回りましたが、例によってゲーム動画(Arma3)を本物と偽ったものでした。アイアンドーム(迎撃ミサイル)のゲーム動画をアイアンビーム(レーザー兵器)の実戦映像だと偽装していたのです。

 既に偽情報の監視を行うBBCモニタリングのオルガ・ロビンソン氏がゲーム動画(Arma3)だと見破って指摘済みです。

和訳:「これはイスラエルの「アイアンビーム」レーザー防空システムが作動しているのではなく、「Arma3」というビデオゲームの映像です。」

Olga Robinson (@O_Rob1nson)

 なお上記のものとは別に他にもう一つアイアンビーム(レーザー兵器)の実戦映像だと称する動画が出回っていましたが、こちらは実際にはアイアンドーム(迎撃ミサイル)の実戦映像でした。

 またイスラエル公共放送KANの軍事特派員イタイ・ブルメンタール氏はアイアンビームが実戦投入されていないことを国防当局者に確認しています。

和訳:国防当局者への確認によると、今夜集団で「スタートレック」ドキュメンタリーが流布されたが、レーザービームを使用したロケット弾の迎撃は行われていなかった。」

Itay Blumental (@ItayBlumental)

※スタートレック:アメリカの有名なSFテレビドラマ

アイアンビームは開発中で未完成、投入不可能

 そしてイスラエル最大のポータルサイト「ワラ(Walla!)」の2023年10月16日記事には、レーザー兵器のアイアンビームが未完成であり、2025年の実戦配備を目指して開発中であることが説明されています。つまり現在のガザ紛争には投入不可能です。

和訳:イスラエル国防省と防衛企業はレーザー迎撃システムの特定の部品を試験する予定である‐これが今日(日曜日)、ワラが学んだことである。システム「マゲン・オー(アイアンビームのこと)」はまだ運用することは出来ません。予定されているこれは、システムを動作させる前の「湿った」部品試験です。(筆者注:ここでのヘブライ語の「湿った」の意味は日本語だと「実地」に相当する言い回し)

先月にイスラエル軍関係者は、2025年末にこのシステムがガザ地区周辺で運用可能となり、2027年末までにレバノン国境を含む同地域に4セットのレーザーシステムが配備される予定だと語っていました。

出典:ワラ(Walla!)、2023年10月16日記事 ※ヘブライ語

  • 英語名称:アイアンビーム(鉄の光線)
  • ヘブライ語名称(旧):ケレン・バルゼル(鉄の光線)
  • ヘブライ語名称(新):マゲン・オー(光の盾)

※アイアンビームの英語名称は変更は無いが、ヘブライ語名称はケレン・バルゼルからマゲン・オーに変更されている。

※ヘブライ語の「光」の発音はオーまたはオールまたはオルであり、カタカナ表記はブレが存在する。よってマゲン・オールやマゲン・オルでもよい。

※レーザー兵器であるアイアンビームはロケット弾迎撃システムだが、ラファエル社から公表されている有効射程は数百mから最大数kmと短い。出力は100kW級。ラファエル社の公式サイト→ IRON BEAM - Rafael

※アイアンビームが使用するレーザーの波長は可視光ではないので肉眼では視認不能。

IRON BEAM(ラファエル社YouTubeアカウント)

※アイアンビームを開発担当するラファエル社のイメージ映像

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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