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北朝鮮の固体燃料ICBM火星18とロシアのICBMの類似点と相違点

JSF軍事/生き物ライター
左:北朝鮮KCNAより「火星18」、右:ロシア国防省より「RS-24ヤルス」

 北朝鮮の新型固体燃料ICBM「火星18」はコールドランチ方式を採用し、ミサイル発射筒(キャニスター)の中でガスを発生させて空中に打ち出した後にロケットに点火します。この際に水平状態で蓋を少量の火薬で吹き飛ばして外してから垂直に起立します。

北朝鮮・火星18のキャニスター蓋外し:参考動画

北朝鮮KCNAより2023年7月12日の火星18発射試験の動画キャプチャー(7月13日発表)
北朝鮮KCNAより2023年7月12日の火星18発射試験の動画キャプチャー(7月13日発表)

 この発射シークエンスは同じ車載移動式の固体燃料ICBMでは世界的に見ても一般的なもので、ロシア軍のICBM「トーポリM」や「RS-24ヤルス(トーポリMのMIRV型)」でも同様です。ただし異なる点があります。ロシア軍のICBMはコーン状のキャップの蓋の先までミサイルを詰めて収納しているのですが、北朝鮮の火星18はミサイルがキャニスターの中の奥の方に収納されています。

ロシア・RS-24ヤルスのキャニスター蓋外し:参考動画

ロシア国防省より2022年2月19日公開のRS-24ヤルスの発射動画のキャプチャー
ロシア国防省より2022年2月19日公開のRS-24ヤルスの発射動画のキャプチャー

 ロシア軍のミサイルの収納は先端がキャニスターから飛び出ているので、蓋がコーン状のキャップである理由が理解できます。またそのまま下に落とすとミサイルの先端が引っ掛かってしまうので、上部に仕込んだ火薬を起爆して上部側のみ勢いを付けて蓋を外す理由も理解できます。

 しかし北朝鮮の火星18の場合はミサイルが奥まって収納されているので、蓋をコーン状のキャップにする必要は本来はありません。真っ平らな蓋でも全く構わない筈です。また火薬を使って外す必要もありません、そのまま単純に切り離して下に落としても問題が無い筈です。なんとも不可解ですが、北朝鮮が本来は必要の無い構造を採用した理由については、可能性として以下が考えられます。

  1. 参考にしたロシアのICBMの蓋の構造をそのまま採用
  2. 火星18は将来ミサイル全長を伸ばした改良型を計画?

 そしてこのミサイルの収納の違いで、ミサイルの全長の推定値に影響が出て来ます。実は発射車両であるTEL(輸送起立発射機)の大きさは火星18(9軸18輪)の方がトーポリM/RS-24ヤルス(8軸16輪)より大きいのですが、上述のミサイルの収納の違いで、収めたミサイルの全長にほとんど差が無い可能性があります。

上:北朝鮮:火星18、下:ロシア:RS-24ヤルス

上:北朝鮮KCNAより「火星18」、下:ロシア国防省より「RS-24ヤルス」、比較用に写真は修正
上:北朝鮮KCNAより「火星18」、下:ロシア国防省より「RS-24ヤルス」、比較用に写真は修正
  • 火星18(TEL:9軸18輪)・・・ミサイルはキャニスターの奥に収納
  • トーポリM/RS-24ヤルス(TEL:8軸16輪)・・・ミサイルは先端まで収納

※写真は比較用に修正。上写真は傾きを補正して車体を水平に、下写真は左右反転。なお写真の大きさの比率は厳密ではなく、タイヤのサイズや運転席の天井高さを揃えたおおよそのもの。

 なお北朝鮮の弾道ミサイル用8軸16輪TELの初登場は2012年4月15日のパレードです。この当日(当時の記事)に正体は中国製のWS51200トラックではないかと推定されています。この8軸16輪TELは後にICBM「火星14」を搭載して2017年に発射試験を行いますが、同年に9軸18輪TELに搭載されたICBM「火星15」が登場して暫くすると、8軸16輪TELは火星14と共に姿を見せなくなります。

大は小を兼ねる=仕方なく載せている可能性

 そこで推測ですが「火星14は試験用で不採用」「火星15が北朝鮮初の実戦配備型ICBM」「8軸16輪TELは火星15用に9軸18輪TELに改造された」という説を唱えます。すると関連して次の仮説が用意できます。

  • 8軸16輪TELは現在は残っていない?
  • 火星18は8軸16輪用のサイズで設計?
  • 仕方なく今ある9軸18輪TELに搭載?

 この仮説を採用すると、火星18のミサイルがキャニスターの奥に収納されている理由の説明が可能です。そしてもしも火星18のミサイルがロシアのトーポリM/RS-24ヤルスと同じ大きさで設計されているとした場合、全長約22m・直径約1.8m・重量約46トンという数字になるでしょう。

火星18はトーポリM/RS-24ヤルスのそのままコピーではない

 上述のように火星18はトーポリM/RS-24ヤルスと大きさや形状はよく似ていますが、しかし細かい部分で異なるように見えます。まず発射シークエンスに違う点があります。

火星18の発射シークエンス:参考動画

 火星18とトーポリM/RS-24ヤルスの最大の違いはコールドランチ直後の第一段ロケットモーターへの本点火の過程です。火星18はコールドランチ後に底部カバーを側面ロケットで横に飛ばして外してから、第一段ロケットに点火しているように見えます。

  1. 蓋の切り離し
  2. キャニスター起立
  3. キャニスター基部左側からガス放出
  4. コールドランチ
  5. 気密リング連続分離(爆破ボルト)
  6. 底部カバー分離(側面ロケット)
  7. 第一段ロケットに点火

RS-24ヤルスの発射シークエンス:参考動画

 これに対してトーポリM/RS-24ヤルスはコールドランチされてミサイルがキャニスターから出て来たら、直ぐさま第一段ロケットに点火しているように見えます。

  1. 蓋の切り離し
  2. キャニスター起立
  3. キャニスター基部右側からガス放出
  4. コールドランチ
  5. 気密リング連続分離(爆破ボルト)
  6. 第一段ロケットに点火

火星18(화성18)とヤルス(Ярс)

左:北朝鮮KCNAより「火星18」、右:ロシア国防省より「RS-24ヤルス」
左:北朝鮮KCNAより「火星18」、右:ロシア国防省より「RS-24ヤルス」

 火星18とトーポリM/RS-24ヤルスはミサイルの大まかな形状はよく似ています。ただし「固体燃料三段式ICBMで第一段目だけ太い」という特徴はアメリカのミニットマンⅢも同じであり、設計としては定番でありふれた形状だとも言えます。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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