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弾道ミサイルおよび極超音速兵器への迎撃対応改良計画「03式中SAM(改)能力向上」

JSF軍事/生き物ライター
アメリカ陸軍ホワイトサンズ・ミサイル実験場より日本陸上自衛隊の03式中SAM改

 2022年12月26日、防衛省は令和4年度の事前の事業評価を公開しました。その中に「03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上」の開発計画が掲載されています。

「令和4年度 事前の事業評価 評価書一覧」:防衛省

 陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾(改善型)(”03式中SAM(改)”と略す)を更に改良して能力向上させて弾道ミサイルと極超音速兵器の迎撃に対応させる方針は、これまで各メディアも既に報じていましたが、その詳しい開発計画の内容と予定表が書かれています。

我が国の周辺には、BMの保有数増加による量的優勢を利用した攻撃、あるいは、 HGV及び新型SRBMの開発によりミサイル防衛網の突破を企図していると考えられる国が存在することから、我が国を防護するために中SAM(改)能力向上が必要である。

この際、新型SRBM及びHGVへの対処能力を早期に強化する必要性から「早期研究開発分」を努めて早期に取得する必要がある。 また、HGV等への対処能力を強化し、より広域を防護する必要性から、早期研究開発分に引き続いて「新規研究開発分」を取得する必要がある。

出典:03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上:令和4年度・事前の事業評価(本文):防衛省

※BM(弾道ミサイル)、HGV(極超音速滑空ミサイル)、SRBM(短距離弾道ミサイル)

 03式中SAM(改)能力向上の開発計画は2種類を同時並行で進めて「早期研究開発分」が2026年(令和8年)、「新規研究開発分」が2028年(令和10年)までに開発完了する予定です。

・期待する量産単価

早期研究開発分 約170億円/0.25式(新規) 約40億円/式(改修)

新規研究開発分 約1100億円/式

出典:03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上:令和4年度・事前の事業評価(ロジックモデル):防衛省

03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上「早期研究開発分」

※ソフトウエア改修によるBM・HGV迎撃対応

 03式中SAM(改)能力向上の「早期研究開発分」はソフトウェア改修によって、高速目標である弾道ミサイルおよび極超音速滑空ミサイルの迎撃に対応させるものです。

 この資料の「式」とは陸上自衛隊の1個高射特科群の1式分のことで、4個高射中隊で構成されます。つまり「0.25式」とは1個高射中隊を意味します。※日本の自衛隊の特殊な数え方。

短距離弾道ミサイル(SRBM)に対応可能

令和4年度・事前の事業評価:防衛省より03式中SAM(改)能力向上「早期研究開発分」
令和4年度・事前の事業評価:防衛省より03式中SAM(改)能力向上「早期研究開発分」

※03式中SAM(改)能力向上の「早期研究開発分」は極超音速滑空兵器(HGV)と短距離弾道ミサイル(SRBM)に対応可能。

03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上「新規研究開発分」

※迎撃ミサイルの新型の開発?

 03式中SAM(改)能力向上の「新規研究開発分」はソフトウェア改修に加えて「より広域を防護する」と資料に書かれています。つまり従来型よりも射程を延長した新型が採用される可能性があります。

 ですが実は今回の資料には射程延伸型の迎撃ミサイルを新開発するとは具体的に書かれていません。そう読めなくもない記述があるというだけで推測の話になります。「早期研究開発分」がソフトウェア改修であることが強調されており、「新規研究開発分」がそうではないので、ハードウェアの変更があると推測できます。

 また量産単価では「早期研究開発分」が改修を含めているのに対して、「新規研究開発分」は新造の費用しか記述していないので、これもソフトウェア改修では対応できないハードウェアの変更があると推測できます。

 なお関係あるかどうか分かりませんが、現行の03式中SAM(改)に07式垂直発射魚雷投射ロケットのブースターを装着して射程延伸を図った「新艦対空誘導弾」が2023年中に開発試験を完了して2024年(令和6年)に正式採用予定となっています。これを陸上型に採用すると「より広域を防護する」は簡単に実装することは可能です。ただしそのような説明は公式には一切ありません。

関連:実用試験中の新艦対空誘導弾は2024年に海上自衛隊で装備化予定(2023年3月21日)

 03式中SAM改・能力向上「新規研究開発分」は迎撃ミサイルがどのような形状・仕様になるのか現状ではまだ分かっていません。仮にアメリカのパトリオット防空システムの「PAC-2 GEM-T(PAC-2誘導強化型・対戦域弾道ミサイル)」のような改修メニューならば、ミサイルの形状は変わらず中身の仕様が変わります。もしも「PAC-3」のようにサイドスラスターを備えた全く別物のミサイルの場合だと、予定されている開発期間が短過ぎるように思えます。

関連:03式中SAM改のBMD対応改修とPAC-3との関係性 ※2020年1月18日時点での推測記事

中距離弾道ミサイル(IRBM)に対応可能

令和4年度・事前の事業評価:防衛省より03式中SAM(改)能力向上「新規研究開発分」
令和4年度・事前の事業評価:防衛省より03式中SAM(改)能力向上「新規研究開発分」

※03式中SAM(改)能力向上の「新規研究開発分」は極超音速滑空兵器(HGV)と中距離弾道ミサイル(IRBM)に対応可能。また航空自衛隊のJADGE(自動警戒管制システム)との連接を行う予定。

03式中SAMシリーズ開発の流れ

  • 03式中SAM ※2003年正式採用
  • 03式中SAM(改) ※2017年正式採用
  • 03式中SAM(改)能力向上「早期研究開発分」 ※2026年開発完了予定
  • 03式中SAM(改)能力向上「新規研究開発分」 ※2028年開発完了予定

 03式中SAMは03式中SAM(改)の時点で使用する迎撃ミサイルが全く別のものに変更されています。03式中SAM初期型は操縦方式が「双翼操舵方式」と呼ばれているもので、操舵翼が2組み装備され同時制御して敵空中目標に向かい機動する特殊な方式でした。

陸上自衛隊より03式中SAMの初期型と改善弾の違い。説明は筆者が追記
陸上自衛隊より03式中SAMの初期型と改善弾の違い。説明は筆者が追記

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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