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新型の弾道ミサイル防衛「SM-3ブロック2A」迎撃ミサイルが実戦配備へ

JSF軍事/生き物ライター
海上自衛隊よりイージス護衛艦「まや」から発射された「SM-3ブロック2A」

 11月21日、日本防衛省はイージス護衛艦「まや」及び「はぐろ」がハワイのカウアイ島沖で大気圏外用の弾道ミサイル防衛システムのSM-3迎撃ミサイルの発射試験を行ったことを報告しました。発射試験名称は2隻分を纏めて「JFTM-07 "STELLAR NIOH" (星の仁王)」です。

 なお護衛艦「まや」は新型の「SM-3ブロック2A」迎撃ミサイルを発射しており、この発射試験によって実戦配備を迎えることになります。日米共同開発の「SM-3ブロック2A」は2015年の第1回目の地上発射試験を終えた時には2018年に実戦配備予定だったので、計画は4年遅れで進行しています。

 この「SM-3ブロック2A」は従来型「SM-3ブロック1B」よりも直径が大きく拡大され性能は2倍以上となり、中距離弾道ミサイルの迎撃にも対応しています。最大迎撃高度は優に1000kmを超えており、限定された条件でなら長距離弾道ミサイルとも交戦可能です。

イージス護衛艦「まや」及び「はぐろ」のSM-3ミサイル発射試験等の結果について:防衛省(令和4年11月21日)

【イージス護衛艦「まや」の発射試験】

  • 11月16日(現地時間15日)、米国ハワイ州の太平洋ミサイル射場から、この試験を支援する米軍が標的である模擬弾道ミサイルを発射。
  • イージス護衛艦「まや」がSM-3ブロックⅡAを発射。SM-3ブロックⅡAは大気圏外において標的に命中。
  • ※ 日米共同開発された弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイル

【イージス護衛艦「はぐろ」の発射試験】

  • 11月19日(現地時間18日)、米国ハワイ州の太平洋ミサイル射場から、この試験を支援する米軍が標的である模擬弾道ミサイルを発射。
  • イージス護衛艦「はぐろ」がSM-3ブロックⅠBを発射。SM-3ブロックⅠBは大気圏外において標的に命中。

【イージス護衛艦「まや」及び「はぐろ」の追尾試験】

  • 11月21日(現地時間20日)、米国ハワイ州の太平洋ミサイル射場から、この試験を支援する米軍が標的である模擬弾道ミサイルを発射。
  • 護衛艦「まや」の探知情報を使用して、「はぐろ」がSM-3ブロックⅡAを模擬発射。これにより両艦が連携して弾道ミサイルを迎撃する機能を確認。

※11月21日のイージス護衛艦2隻が連携した追尾試験は「エンゲージ・オン・リモート(EOR:遠隔交戦)」の条件による弾道ミサイル迎撃の模擬試験です。標的である模擬弾道ミサイルは実際に発射していますが、SM-3ブロック2A迎撃ミサイルは実際には発射しない模擬発射で、イージス・システムのレーダー上でのシミュレーションによる訓練を行っています。

参考記事:弾道ミサイル防衛「ローンチ・オン・リモートとエンゲージ・オン・リモート」

Japan Missile Defense Flight Test Successful - U.S. Missile Defense Agency ※米ミサイル防衛局の発表

 JFTM-07発射試験のアメリカ側の発表。標的ミサイルの用意と発射や試験海域の提供はアメリカが行っています。SM-3ブロック2A迎撃ミサイルを用いた護衛艦「まや」の試験で使った標的は中距離弾道ミサイル標的「T4-E」。護衛艦「はぐろ」は短距離弾道ミサイル標的(名称不明)と巡航ミサイル標的「BQM-177A」の異種目標同時迎撃の統合防空ミサイル防衛(IAMD)試験。

 このSM-3ブロック2A迎撃ミサイルの実戦配備により、十分な数を装備することができれば、日本を狙う北朝鮮の準中距離弾道ミサイル「ノドン」を完封することも可能であり、グアムを狙う中距離弾道ミサイル「火星12」を迎撃することも可能です。(米本土を狙うICBMに関しては日本近海からの迎撃は困難)

 しかし北朝鮮は新たに極超音速兵器を開発中です。SM-3迎撃ミサイルは大気圏外用であり、「宇宙と大気の狭間」を飛んで来る極超音速兵器には対抗できません。そこでアメリカ軍では「極超音速兵器対応手段GPI(滑空段階迎撃ミサイル)」を開発中です。そして11月4日、「Inside Defense」誌は日米が極超音速兵器迎撃ミサイルの共同開発について協議中であると伝えました。

John Plumb, assistant secretary of defense for space policy, said Washington and Tokyo are in discussions about work on a hypersonic defensive missile, likely the Missile Defense Agency’s Glide Phase...

出典:U.S., Japan exploring possible co-development of hypersonic-killing guided missile | Inside Defense

 日米共同開発の大気圏外迎撃ミサイル「SM-3ブロック2A」が開発に成功し実戦配備されたその次は、極超音速兵器迎撃ミサイルの日米共同開発となるのでしょう。

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【日本海上自衛隊イージス護衛艦SM-3発射試験】

  • JFTM-01 "STELLAR KIJI" (星の雉):「こんごう」
  • JFTM-02 "STELLAR HAYABUSA" (星の隼):「ちょうかい」
  • JFTM-03 "STELLAR RAICHO" (星の雷鳥):「みょうこう」
  • JFTM-04 "STELLAR TAKA" (星の鷹):「きりしま」
  • JFTM-05 "STELLAR FUKUROU" (星の梟):「あたご」
  • JTX-06 "STELLAR SAMURAI" (星の侍):「あしがら」
  • JFTM-07 "STELLAR NIOH" (星の仁王):「まや」、「はぐろ」

※2007年12月17日のJFTM-01以来、15年を掛けて日本海上自衛隊イージス護衛艦8隻が全てSM-3迎撃ミサイル運用能力を獲得しました。ぞれぞれのイージス護衛艦はSM-3迎撃ミサイルを1発試射して適用を確認してから、基本的に1隻あたり8発を搭載して実戦配備されます。将来的には搭載数の増大も検討されています。

海上自衛隊よりイージス護衛艦「まや」から発射された「SM-3ブロック2A」
海上自衛隊よりイージス護衛艦「まや」から発射された「SM-3ブロック2A」

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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