米ミサイル防衛局(MDA)は極超音速滑空兵器を迎撃するミサイル「GPI(Glide Phase Interceptor)」計画を進行中です。開発計画はレイセオン、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンの3社が受注したと2021年11月19日に発表され、競争試作で有望なものが採用される予定です。レイセオンはSM-3改造、ロッキード・マーティンはTHAAD改造を用意すると伝えられています。

 GPI計画はイージス艦に搭載することを前提としており、高度70km以下の目標に対応することを目指しています。弾道ミサイル迎撃用の大気圏外迎撃用ミサイル「SM-3」が高度70km以上を担当しているので、GPIによって迎撃手段の隙間を埋めることが目的です。

GPI迎撃シナリオ解説動画:米ミサイル防衛局(MDA)

 滑空段階迎撃シナリオではイージス艦とHBTSS早期警戒追尾衛星が綿密に連携します。MDA解説動画に登場する以下の用語について詳しくは「ローンチ・オン・リモートとエンゲージ・オン・リモート」をご覧ください。

  • Engage on Remote (EOR)、遠隔交戦:エンゲージ・オン・リモート
  • Launch on Remote (LOR)、遠隔発射:ローンチ・オン・リモート
  • Cued Organic 、基本的な情報伝達(自己レーダーのみで探知)

 この迎撃シナリオでは、EORはHBTSS衛星からの射撃諸元の取得だけで目標と交戦します。LORはHBTSS衛星からの探知情報で迎撃ミサイルの発射を前倒しして、目標をイージス艦の自己レーダーで捉えた後に誘導します。目標が弾道ミサイルよりも低く飛ぶ極超音速滑空ミサイルの場合は、地上レーダーで捕捉できる範囲が弾道ミサイルよりも遥かに狭くなるので、捕捉と追尾をHBTSS衛星に大きく頼る必要があります。

 弾道ミサイル迎撃(BMD)と滑空段階迎撃(GPI)の対応迎撃高度の違いは以下の通りです。大気圏外用は極超音速滑空兵器に対応できません。大気圏内用は最終突入段階ならば極超音速滑空兵器に対応可能ですが、落ちて来る寸前を狙うので広域防空はできません。

  • GBI・・・迎撃高度70km以上(大気圏外用)
  • SM-3・・・迎撃高度70km以上(大気圏外用) ※艦載
  • THAAD・・・迎撃高度40~150km(滑空段階の限定対応可能)
  • GPI・・・迎撃高度70km以下(下限は不明) ※艦載
  • SM-6・・・迎撃高度24km以下(大気圏内用) ※艦載
  • PAC-3・・・迎撃高度22km以下(大気圏内用)

 迎撃ミサイルは大気圏内用と大気圏外用で対応高度の隙間があり、高度25~70kmの範囲が「宇宙と大気の狭間」となっています。この高度では空気が薄いながらも存在するのですが、空力操舵だけでは小さな目標に細やかな精密誘導を行うには空気が薄すぎて無理があります。このためサイドスラスターや推力偏向ノズルなどの噴射で機動制御を補佐する必要があり、GPIは空力操舵と噴射制御の両方を組み合わせる方式になると考えられています。

 高度25~70kmの「宇宙と大気の狭間」に限定的な対応ができる迎撃ミサイルはTHAADがありますが(ただし高度40km以下には対応できない)、本来THAADは弾道ミサイル迎撃用で極超音速滑空ミサイルを想定していなかった設計です。終末段階(降下突入時)ならば極超音速滑空ミサイルは単純に落ちていくだけで弾道ミサイルとほぼ差が無いのでTHAADでも十分に対応できますが、それより遠いポイントでの迎撃は難しいでしょう。極超音速滑空ミサイルは中間段階(滑空段階)で跳躍滑空し大きく動きますので、THAADでは限定的な対応しかできません。

 THAADの迎撃弾頭には操舵翼が無くサイドスラスターのみで噴射制御するので、細かい微修正は得意ですが大きく動く目標には対応しきれないのです。

 射程延伸型のTHAAD-ERも計画されていますが、GPIにそのまま採用はされません。GPIは極超音速滑空ミサイルに対抗するため、THAADよりも大きく動ける機動性と、THAADよりも低い高度にも対応したい考えなのでしょう。その為に空力操舵+サイドスラスターは必要になります。

Missile Defense Agency (MDA) 2020 Office of Small Business Programs (OSBP) Virtual Conference [PDF資料]

米ミサイル防衛局資料よりHGV(極超音速滑空体)GPI(滑空段階迎撃)のコンセプト絵
米ミサイル防衛局資料よりHGV(極超音速滑空体)GPI(滑空段階迎撃)のコンセプト絵

 2020年の米ミサイル防衛局の資料にGPI迎撃弾頭のコンセプト絵が登場していますが、形状はTHAAD迎撃弾頭の最後部に操舵翼を追加したものでした。実物のGPI迎撃弾頭がこの形状でそのまま出て来るとは思えませんが、コンセプトの方針をうかがうことができます。