6月30日、ロシア軍は2月24日の開戦初頭に占領したズミーニー島から撤退しました。

 ウクライナ軍は4月14日にロシア海軍の巡洋艦モスクワを撃沈した後に島への攻勢を強め爆撃を繰り返し、ロシア軍はなんとか島を維持しようと増援の短距離地対空ミサイルを複数送り込んでいましたが、最後にはウクライナ軍は本土海岸線ぎりぎりまで自走榴弾砲を進出させて島を砲撃。ロシア軍はこれを戦闘機の爆撃での排除に失敗(おそらくウクライナ軍の本土側の地対空ミサイルを恐れたため)、島から撤退となりました。ただしウクライナ軍はまだ上陸していません。島を維持するとなると逆に今度はロシア軍の攻撃目標となるので、当分は島は無人のままでしょう。

 そして翌7月1日、ロシア軍は島に残してきた自軍装備を焼き払って処分しようと、2機のSu-30SM戦闘機が爆撃にやって来ました。

 赤外線カメラの映像を撮影したのは推定になりますが、ウクライナ軍のバイラクタルTB2無人機です。高性能なカメラで数十km遠方から島を監視飛行していたところに、ロシア軍の戦闘機が爆撃に来たのを観測したという状況が推定できます。

 ロシア軍の戦闘機はウクライナ本土側の長距離防空システムを警戒しているのか、低空で侵入し、そのせいで爆撃精度がかなり悪くなっているようです。

白リン爆弾ではない

 なおウクライナ軍のザルジニー総司令官はテレグラムの投稿でこのロシア軍の爆撃映像について「白リン爆弾による爆撃」としていますが、爆弾の種類は間違いです。そもそもロシア軍は航空機搭載型の攻撃用の白リン弾を保有していません。

 映像を見る限りおそらく使われたのは通常爆弾で、複数投下したうちの1発が目標に命中して、弾薬か燃料に誘爆している様子のように見えます。

Сьогодні близько 18:00 з аеродрому Бельбек пара літаків Су-30 ВКС ЗС РФ двічі нанесла авіаційний удар фосфорними-бомбами по острову Зміїний, де нібито «завершили виконання завдань».

「今日18:00頃、ロシア空軍のSu-30戦闘機の2機がベルベック航空基地を出撃して白リン爆弾で2回の爆撃をズミーニー島に実施し、「任務を完了した」と伝えられています。」

出典:Головнокомандувач ЗСУ

※ベルベック航空基地はクリミア半島にあるロシア空軍の飛行場。

 「遺棄装備を焼きに来た→焼夷弾だ→白リン弾だ」、という間違った説明が行われています。単純ミスというよりは意図的なプロパガンダ宣伝ではないでしょうか。過去(2004年、2009年)に西側の反戦平和運動で”悪魔化”された白リン弾という兵器をロシアが使ったということにすれば、ロシアを悪者にできるという目論見なのでしょう。

  • 2004年 イラク、ファルージャ(白リン弾)
  • 2009年 パレスチナ、ガザ(白リン弾)
  • 2011年 シリア内戦(テルミット焼夷弾)
  • 2014年 ロシア、ウクライナ東部侵攻(テルミット焼夷弾)
  • 2015年 シリア内戦(テルミット焼夷弾)
  • 2020年 ナゴルノカラバフ(テルミット焼夷弾)
  • 2022年 ロシア、ウクライナ全面侵攻(テルミット焼夷弾)

※最近10年間で焼夷兵器を大量使用しているのは主にロシアだが、マグネシウム-テルミット系の焼夷弾が複数種類と、シリアでテルミット系に加えてナパーム系の焼夷弾の使用が確認されているが、白リン弾は使用されていない。なお燃焼温度はマグネシウム-テルミット系が焼夷兵器の中で最も高温で、摂氏2000~3000度に達する。

 しかしそもそもの話として白リン弾は発煙弾の場合は特定通常兵器使用禁止制限条約で禁止されている対象ではありません。しかも条約で禁止されている攻撃用に設計された焼夷兵器だとしても、使ってはいけないのは人口密集地域での空中からの投射なので、市民が誰も住んでいない島に対して焼夷弾を使おうと何ら問題にはなりません。

 ウクライナ軍は「ロシア軍が白リン弾を使用した」と間違った説明を行う必要性が全くありませんでした。このウクライナ側のプロパガンダの宣伝戦はずっと以前から行われ続けています。ですが、何でもかんでも白リン弾扱いするレッテル貼り行為はもう止めるべきだと思います。外国のメディアもウクライナ当局の発表を右から左に伝えるのではなく、内容が正しいか精査する必要があるでしょう。

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