国連安保理決議で北朝鮮の弾道ミサイル発射が禁止されたのは2006年から
国連安保理は北朝鮮に対し弾道ミサイルの発射を禁じています。逆に言えばその他のミサイルの発射は別に禁止されていません。北朝鮮が巡航ミサイル(対艦ミサイル)を発射しても韓国やアメリカが探知していながら反応しないのは別に隠しているわけではなく、違反ではないので騒ぐ必要が無いからです。
国際連合安全保障理事会決議第1695号
国連安保理が北朝鮮に初めて弾道ミサイル発射の禁止を言い渡したのは、日本が非常任理事国の立場から積極的に主導して2006年7月15日に採択された国連安保理決議1695号からになります。その後も北朝鮮に対する新しい非難決議が出る度に毎回のように引き継がれて、2017年12月22日に採択された国連安保理決議2397号にも記載されていて現在も有効です。
「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」という広い表現の意図は、宇宙ロケットの開発と称して弾道ミサイル技術を開発する行為を禁じる為です。
なお「ミサイル発射モラトリアム」とは、北朝鮮が1998年にテポドン1号を無通告で発射し日本列島を超えて国際的に大問題となり、翌1999年に北朝鮮が弾道ミサイル発射のモラトリアム(一時停止)に同意した件を言います。
北朝鮮は2004年までミサイル発射モラトリアムが有効である旨を繰り返し発言して来ましたが、2005年にモラトリアムの無効を宣言し、翌2006年にテポドン2号を発射。これで国連安保理が招集されて北朝鮮に発射の非難と今後の発射の禁止が言い渡されました。以降、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合は射程に関係なく国連安保理決議違反となります。
弾道ミサイルと巡航ミサイルの戦略的価値の違い
弾道ミサイルのみ禁止して巡航ミサイルは野放しでは事情を知らないと奇異に映るかもしれませんが、北朝鮮自身も弾道ミサイル開発に全力を投入し長距離の対地巡航ミサイルを全く開発しようとせず、巡航型のミサイルは短距離の対艦ミサイルくらいしかなかったのでこれまで問題ありませんでした。
※ただし、2021年1月9日の朝鮮労働党の党大会報告で突如として「中長距離巡航ミサイル(중장거리순항미싸일)」の開発計画が名称のみ紹介されており、現状では全く正体不明のその存在の性能次第では、国連安保理決議に巡航ミサイルが追記される可能性も有り得ます。
※追記:その後実際に北朝鮮が対地用の巡航ミサイルを試射。
これはイランが欧州を敵に回さないように核開発を途中で寸止めし弾道ミサイル開発での射程2000km自主規制を設けつつ、対地用の巡航ミサイルやプログラム飛行型自爆ドローンの開発にも注力しているのと対照的です。
核弾頭の運搬用兵器の向き・不向き
北朝鮮は核兵器とその運搬手段である弾道ミサイルの開発に全力を投入し、巡航ミサイルやドローンにはあまり力を入れて来ませんでした。何故なら小さなドローンには核弾頭は搭載できないからです。そして巡航ミサイルに核弾頭を積もうとした場合は小型化が要求されます。巡航ミサイル自体を大型化すれば大型の核弾頭でも積めるじゃないかと思われそうですが、不必要に巨大な巡航ミサイルなど見つかりやすい上に大して速くなく、簡単に撃墜できる鴨撃ちの的になってしまいます。
迎撃突破力の高さ・低さ
たとえば冷戦時代の初期に巨大な大陸間巡航ミサイルという種類の兵器が米ソで一時期だけ開発されていましたが、大陸間弾道ミサイルの登場で直ぐに消えてしまいました。この大陸間という長い射程で比べた場合、弾道ミサイルと巡航ミサイルでは速力で優に10倍の差があるのです。迎撃突破力は圧倒的に高速な弾道ミサイルの方が高いのは自明なことでした。これは弾道ミサイル迎撃システムがある現在でも言えます。巡航ミサイルよりも弾道ミサイルの方が遥かに迎撃し難いのです。
ただし弾道ミサイルの方が大きく重く高価になります。ゆえに諸外国は弾道ミサイルと巡航ミサイルを組み合わせて配備します。しかし北朝鮮は弾道ミサイルの開発に偏って注力してきました。全ては可及的速やかに核抑止力を完成させるためでした。
このように弾道ミサイルは核弾頭とセットで組み合わされることで巡航ミサイルとは別格の戦略兵器になります。ゆえに国連安保理は弾道ミサイルを特別扱いしました。北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを持とうとしたのは、世界の平和と安定にとってあまりにも危険だったからです。
※追記:極超音速滑空ミサイルの扱い
極超音速滑空ミサイルは弾道ミサイルの推進ロケット部分を加速用のブースターとして流用しているので、国連安保理決議が北朝鮮に禁止した「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」に触れます。
弾道ミサイルの弾頭を滑空弾頭に置き換えたものが滑空ミサイルなので、滑空ミサイルは弾道ミサイル技術を利用した派生型の兵器と見做されます。