北朝鮮イスカンデルが西日本の一部を攻撃する場合の迎撃方法

北朝鮮イスカンデルが38度線に進出する特殊例の想定。Google地図より筆者作成

 イージスアショア無用論の一つに「北朝鮮は弾道ミサイル防衛を突破できる新型弾道ミサイルを開発した」、だから「新型弾道ミサイルを迎撃できないイージスアショアは無価値になった」というものがあります。

 確かに北朝鮮はロシア製イスカンデル短距離弾道ミサイルに酷似した新型弾道ミサイルを開発しました、これは低高度で機首を引き起こして滑空しながら飛行し、イージスBMDのSM-3迎撃ミサイルの最低迎撃高度よりも低く飛んで来て迎撃を掻い潜れます。

イスカンデルは基本的に日本攻撃用ではない

 しかしそもそもイスカンデルは確認されている最大射程が600kmと短く、東京まで飛んで来れません。

北朝鮮から東京まで最短の位置から半径600kmの円。Google地図より筆者作成
北朝鮮から東京まで最短の位置から半径600kmの円。Google地図より筆者作成

 日本の東京から北海道までの東半分の防衛を担当する秋田県のイージスアショアにとってはイスカンデルは無視してよい存在です。迎撃する相手はほぼノドン準中距離弾道ミサイルに絞られます。

 一方で射程600kmならば西日本の一部には届きます。しかし・・・

水色が福岡市から半径600km、緑色が広島市から半径600kmの円。Google地図より筆者作成
水色が福岡市から半径600km、緑色が広島市から半径600kmの円。Google地図より筆者作成

 黄色い線が北朝鮮と韓国の38度線付近の国境線、水色の線が福岡市から半径600km、緑色の線が広島市から半径600kmの円です。つまり北朝鮮から最大射程600kmのイスカンデルで両都市を攻撃しようとした場合、この円内の北朝鮮領内に前進配備する必要があります。

 しかしこれは現実的には有り得ない配置です。弾道ミサイルは数が少なく貴重な存在であり、なるべく安全な味方の後方に置いて生存性を高めて、後方に居る敵を狙い撃つものです。弾道ミサイル移動発射機は高価値目標と見做されて集中的に狙われるので、狙われやすい最前線に出て来る筈がありません。

イスカンデルが38度線まで前進する特殊事例での迎撃想定

 それでも可能性はゼロではないので、イスカンデルが38度線ぎりぎりまで前進配備されて日本を狙い撃つ非常に特殊な状況を想定してみます。すると山口県のイージスアショアのSM-3迎撃ミサイルでは迎撃できませんが、韓国の星州に配備された在韓アメリカ軍のTHAADで迎撃できることが分かりました。

イスカンデルが38度線ぎりぎりに展開した場合。Google地図より筆者作成
イスカンデルが38度線ぎりぎりに展開した場合。Google地図より筆者作成
  • イスカンデルは射程600kmで最大高度60km、SM-3(最低迎撃高度70km)を無効化
  • イスカンデルは射程450kmで最大高度40km、THAAD(最低迎撃高度40km)を無効化
  • イスカンデルは射程450kmでは日本に到達できず、弾道頂点付近をTHAADで迎撃可能
  • THAADの射程は一般に知られた数字で200km以上、計算では射程250kmを発揮可能 ※1
  • THAADのレーダーは横に死角が生じるが、後方の日本配備MDレーダーでカバー可能 ※2
  • 赤い円が半径600km、水色の円は内側が半径200km、外側が半径250km
  • 図には描き込まれていないが、PAC-3でも各都市を防衛可能(防御範囲は狭い)
  • THAAD自体の防衛はPAC-3が担当

 星州THAADは釜山防衛が主任務ですが、グアム行き弾道ミサイルと沖縄行き弾道ミサイルへの前方センサーとして機能する上に、西日本の一部を迎撃ミサイルによって防衛することが可能です。またその迎撃の際には星州THAADのレーダー死角を後方の日本に配備されている山口イージスアショアと京都経ヶ岬Xバンドレーダーがカバーし、システムを連接して遠隔操作を行い迎撃ミサイルを制御してリモート射撃を行います。

 韓国と日本の弾道ミサイル防衛システムが連携して、西日本の一部へ飛来するイスカンデルの迎撃が可能だと結論付けられます。弾道頂点付近ならばイスカンデルも複雑な機動はできず撃墜しやすくなります。これを見るかぎり星州THAADの配置は非常によく考えられているように思えますが、そもそもイスカンデルが38度線ぎりぎりに前進配備されるという想定自体が戦術的に先ず有り得ないので、アメリカ軍は其処まで考えて配置しているわけではないと思います。

 北朝鮮の側からしてもイスカンデルは韓国攻撃用の短距離弾道ミサイルであり日本攻撃用には全く考えていないでしょう。ある程度の展開範囲の余裕を持って北朝鮮から福岡を攻撃するには射程800kmは用意したいですし、大阪攻撃なら1000km(スカッドER)、東京攻撃なら1300km(ノドン)は必要となります。最前線の38度線からぎりぎり届くという射程では全く実用的ではないのです。山口県のイージスアショアが担当するのは東京から沖縄までの日本の西半分で、スカッドERやノドンが主な相手となります。

 なおイスカンデルは日本攻撃用ではないが、イスカンデルの技術を応用した射程1300kmの新型ミサイルが開発されたらどうするという指摘に対しては、過去の関連記事をご覧ください。

【関連】北朝鮮のイスカンデル対処方法とイージス用新型迎撃ミサイル「SM-3 HAWK」

 敵が新型攻撃ミサイルを開発するなら味方も新型防衛ミサイルを開発すればよいだけです。イージスアショアのMk41VLS(垂直発射機)は様々な種類のミサイルを発射することが可能です。そして北朝鮮は東京まで届く準中距離以上の弾道ミサイルでは機動再突入体ないし滑空翼体を搭載した新型をまだ開発着手していないようなので、盾と矛の開発競争にはまだ時間的余裕があると言えます。

※1 出典:Science & Global Security Volume 11, 2003- Issue 2-3 ”THAAD-Like High Altitude Theater Missile Defense: Strategic Defense Capability and Certain Countermeasures Analysis”

サイエンス&グローバルセキュリティ掲載論文「THAADのような高高度戦域ミサイル防衛:戦略的防衛能力と特定の対策分析」より
サイエンス&グローバルセキュリティ掲載論文「THAADのような高高度戦域ミサイル防衛:戦略的防衛能力と特定の対策分析」より

※2 山口県むつみイージスアショアと京都府京丹後市経ヶ岬アメリカ軍Xバンドレーダーが韓国星州アメリカ軍THAADとシステム連接可能、遠隔操作によるリモート射撃を行える。

THAAD用Xバンドレーダー「AN/TPY-2」は非回転AESA。レーダー捜索範囲500kmの場合。Google地図より筆者作成
THAAD用Xバンドレーダー「AN/TPY-2」は非回転AESA。レーダー捜索範囲500kmの場合。Google地図より筆者作成