核態勢見直しによる日本への核持ち込みは有り得るのか

米海軍の撮影。ロサンゼルス級攻撃原潜のMk45VLS。LRSO改は入らない可能性

 2月2日にアメリカのトランプ政権は新しい「核態勢の見直し(NPR)」を公表しました。従来と大きく異なる点は海軍の潜水艦向けに長射程の小型核兵器を2種類用意する事で、これはロシアが近年、INF条約(中距離核戦力全廃条約)の違反となる地対地巡航ミサイルを配備した疑惑に対抗する名目です。今後アメリカとロシアが話し合い、ロシアが問題の地対地巡航ミサイルの配備を取り止めたなら、アメリカは潜水艦向け長射程小型核兵器の開発を取り止める事に応じるでしょう。しかし現状では話し合いが成立する見込みは低く、INF条約は消え去った上で、全廃されていた海軍戦術核兵器が復活する可能性が高まっています。

 アメリカの新しいNPRは「ロシアの地上配備中距離核戦力に対して同じ種類のものではなく、海中配備長射程小型核で対抗する」というもので、前線に近い同盟国に新たな核兵器を配備する必要がありません。しかし恒久配備する事は無くても、潜水艦に搭載できる以上は同盟国の港に寄港した際に一時的な核持ち込みの懸念が生じてしまいます。そこで核持ち込みの可能性が何処まで高まるのかを考えてみます。

低出力核弾頭搭載型トライデントは核持ち込みを気にしなくてよい

 トランプ政権の新たなNPRで新開発される小型核のうち、一つは戦略原潜用の戦略核兵器であるトライデントD5水中発射弾道ミサイルの核弾頭を小型低出力のものと換装して、戦術目標に撃ち込もうというものです。威力を変えただけで射程は従来のものと同様に推定で最大1万kmを超える為、前線付近の海域まで進出する必要性はありません。しかも長射程の弾道ミサイルには実用上の最低射程が存在しているので、あまり接近して撃つ事がそもそもできません。仮に飛翔時間短縮の目的で前進する場合があったとしても、東アジアではグアム近海までしか出て来たりはしないと考えられます。

LRSO改造・潜水艦用水中発射核巡航ミサイル

 もう一つは一旦は全廃したトマホーク巡航ミサイル核攻撃型の後継となる新しい潜水艦用水中発射核巡航ミサイルですが、興味深い点として、空軍の戦略爆撃機用に新開発される空中発射巡航ミサイル「LRSO」を海軍の攻撃原潜向けに改造する決定で、核トマホークの直接的な復活ではない事が挙げられます。今も現役である通常攻撃型トマホークを核攻撃型として改造した方が少ない労力で簡単に用意できるのに、それを敢えて選択しなかった事については理由がある筈です。

LRSO巡航ミサイルはサイズが大きく、搭載艦が限定される可能性

 LRSOは元々、空軍の戦略爆撃機用の空中発射巡航ミサイルなのでサイズが大きく、海軍が従来使っているVLS(垂直発射ランチャー)には入らない可能性があります。これまでの戦略爆撃機用の空中発射巡航ミサイル「ALCM」や「ACM」は実際にトマホークより直径が大きく、後継のLRSOも同様のサイズになるでしょう。つまり海軍向けLRSO改は、わざと従来のVLSに入らないサイズにして、搭載艦を限定してしまう事を政治的な利点としている可能性があります。多くの艦艇が搭載している汎用VLSに収納できる場合、それら全てに核持ち込み疑惑が生じてしまいますが、物理的に搭載できる潜水艦が限定されるなら、これさえ来なければ同盟国での寄港反対運動も起きようがありません。

  • 空軍向けLRSOの時点でトマホークと同サイズにする・・・性能面で不利になるので、空軍が同意する可能性は低い。
  • 海軍向けLRSO改造時点で小型化する・・・一から作り直しに等しく、それならばトマホーク再改造を選択した方が早い。
  • LRSO改はトマホークより大型化する・・・現時点で最も可能性が高い。

 理由としては政治的な理由だけでなく、戦術的な理由も当然あるでしょう。トマホークは古い設計でステルス性能は高くなく、防空能力の高いロシアや中国を相手にした場合は碌に通用しない懸念があります。最新ステルス設計の巡航ミサイルが必要だったのではないでしょうか。

 LRSO改が実戦配備する頃には、アメリカ海軍のオハイオ級改造SSGN(巡航ミサイル原潜)が退役し、ヴァージニア級攻撃原潜に4つの巡航ミサイル発射モジュールを追加した新型艦で任務を引き継ぐ予定です。このモジュールは1つあたり7本のトマホークを搭載可能ですが、これをLRSO改を4~5本搭載できるモジュールと換装すれば、運用面でもそれほど労力が増える事は無いでしょう。場合によっては寄港前の洋上でモジュールのハッチを開けてLRSO改を搭載していないとアピールする事も可能です。

日本は核持ち込みを拒否するが、韓国は歓迎

 アメリカが核巡航ミサイル搭載潜水艦を限定しようとする場合、この背景には東アジアの同盟国の核持ち込みに対する温度差が大きい事が挙げられます。日本は非核三原則「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」を掲げていますが、韓国では地上基地への核兵器配備の是非については議論があっても、核搭載艦の寄港に対する忌避感が殆ど無く、政府はむしろ巡回配備を望んでいるくらいです。そもそもLRSO改の予想される射程(3000~4000kmと推定)を考えれば日本海に入る必要すらなく韓国に寄港する意味はありませんが、寄港しても同盟関係が悪化せずむしろ良好になるのであれば政治的な効果を期待して実施する選択肢も生じ得ます。アメリカは核巡航ミサイル搭載潜水艦を物理的に外から見て分かるように限定し、日本と韓国で核持ち込みを使い分ける意図があるのかもしれません。