Yahoo!ニュース

ラニーニャ現象の昨年とは一変、今年はエルニーニョ現象で台風発生が少ない年 来れば困るが来ないと水不足

饒村曜気象予報士
台風発生の兆候がない熱帯域(11月30日15時)

エルニーニョ現象

 エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域東部の海面水温が平年より0.5度以上高くなり、その状態が1年程度続く現象です。

 逆に、同じ海域で海面水温が平年より0.5度以上低い状態が続く現象はラニーニャ現象と呼ばれ、それぞれ数年おきに発生し、ともに、日本を含め世界中の異常な天候の要因となり得ると考えられています。

 今年、令和5年(2023年)は、春まで2年半も続いていたラニーニャ現象が終わり、すぐにエルニーニョ現象が始まっています(図1)。

図1 東部太平洋赤道域の海面水温偏差の推移(0.5度高いとエルニーニョ現象、0.5度低いとラニーニャ現象)
図1 東部太平洋赤道域の海面水温偏差の推移(0.5度高いとエルニーニョ現象、0.5度低いとラニーニャ現象)

 それも、平成26年(2014年)から平成28年(2016年)にかけて発生した非常に強いエルニーニョ現象(スーパーエルニーニョ現象)並みの、エルニーニョ現象となると考えられています。

 エルニーニョ現象が発生すると、偏西風が日本付近で北に蛇行し、暖かい空気が列島を覆いやすくなるため、暖冬になる傾向があります。

 実際、8年前の平成27年(2015年)の冬は暖冬で、12月の新潟県湯沢町のスキー場は、草が生い茂ったゲレンデとなっていました。

台風は去年と今年で様変わり

 エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、世界中の異常な天候の要因となるだけでなく、台風の発生数や発生海域が変わるとされています。

 気象庁ホームページでは、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象と台風との関係は表のようにまとめています(表1)。

表1 エルニーニョ現象・ラニーニャ現象発生時の台風の特徴(気象庁ホームページより)
表1 エルニーニョ現象・ラニーニャ現象発生時の台風の特徴(気象庁ホームページより)

 昨年、令和4年(2022年)はラニーニャ現象の最中でしたが、台風の発生数はほぼ平年並みの25個で、発生位置は北東にずれて発生していました(図2)。

図2 ラニーニャ現象が発生していた令和4年(2022年)の台風発生海域(丸数字は台風番号)
図2 ラニーニャ現象が発生していた令和4年(2022年)の台風発生海域(丸数字は台風番号)

 このため、日本近海で発生する台風が多くなり、台風が発生するとすぐに日本に影響したということが多々ありました。

 エルニーニョ現象が発生した令和5年(2023年)は、現時点までに台風は16個ですが、発生位置は平年より南東にずれて発生していました(図3)。

図3 エルニーニョ現象が発生した令和5年(2023)の台風発生海域(丸数字は台風番号、台風8号は日付変更線を越えてた北太平洋西部に入ったことによる発生)
図3 エルニーニョ現象が発生した令和5年(2023)の台風発生海域(丸数字は台風番号、台風8号は日付変更線を越えてた北太平洋西部に入ったことによる発生)

 そして、平年であれば11月末までに24個位発生していますので、今年はこれまで、台風の発生数がかなり少ないということができます(表2)。

表2 令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値(接近は2か月にまたがる場合があり、各月の接近数の合計と年間の接近数とは必ずしも一致しない)
表2 令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値(接近は2か月にまたがる場合があり、各月の接近数の合計と年間の接近数とは必ずしも一致しない)

台風の発生が少ない年

 気象庁は、昭和26年(1951年)以降の台風について統計をとっていますが、それによると、11月末までで一番少なかったのは平成22年(2010年)の14個です(表3)。

表3 11月末までの少ない台風発生数のランキング
表3 11月末までの少ない台風発生数のランキング

 そして、今年、令和5年(2023年)は16個と、歴代3位の少なさでした。

 現在、日本海には寒気の吹き出しを示す筋状の雲が多数発生していますが、日本の南海上には、積乱雲の塊がありません(タイトル画像)。

 台風どころか、台風のタマゴである熱帯低気圧のもととなる積乱雲の塊もないのです。

 このため、すぐに台風が発生する可能性が小さく、12月もしばらくは、台風の発生がなさそうです。

12月に発生する台風

 昭和26年(1951年)以降、昨年(2022年)までの72年間で、12月に発生した台風は1.15個しかありません。

 ほとんどの年が1個前後の発生です(図4)。

図4 12月に発生した台風数(昭和26年(1951年)~令和4年(2022年))
図4 12月に発生した台風数(昭和26年(1951年)~令和4年(2022年))

 最多でも、昭和27年(1952年)の4個であり、12月中旬以降に最多タイの4個発生したとしても、台風の年間発生数は20個どまりであり、平年の発生数25.1個に大きく届きません。

 令和5年(2023年)は、台風発生が少なかった年に確定しそうです。

 筆者は、過去に12月の台風について調査したことがありますが、ほとんどの台風は、北緯10度位の低緯度を西進して、日本への影響はまずないと考えられます(図5)。

図5 12月の台風の平均経路
図5 12月の台風の平均経路

 ただ、西進してきた台風の一部が、北上して小笠原諸島に接近する可能性はゼロではありません。

西日本の渇水

 現在、西日本を中心に渇水状態となっていますが、その原因は、9月以降に台風の接近がほとんどなく、台風の雨によってダムの水が蓄えられていないことにあります(図6)。

図6 秋から初冬(9月1日から11月29日)の降水量の平年比
図6 秋から初冬(9月1日から11月29日)の降水量の平年比

 琵琶湖は、大阪、京都、兵庫の約1450万人の生活や産業を支えていますが、この琵琶湖が標準的な水位より65センチ低くなっています。滋賀県では水位低下連絡調整会議を設置しましたが、さらに低下が進み、75センチ低くなった場合は、渇水対策本部会議を設置し、取水制限などを行うとしています。

 また、広島県でも太田川上流にある4つのダムを合わせた貯水率は、平年であれば60パーセント程度あるのに対し、40パーセントを下回って渇水状態になっています。このため、広島県内でも取水制限が実施された平成6年(1994年)以来の渇水になるのではないかと懸念されています。

 さらに、愛媛県では、渇水レベルを非常体制の5から注意体制の1まで5段階に分けていますが、現在は警戒態勢の2として、連絡会議を設置し、節水PRを開始しています。

 などなど、西日本各地で、渇水の影響が出始めています。

 気象庁が11月30日に発表した1ヶ月予報では、東日本〜西日本の太平洋側では、この時期としては雨量が多いとなっています。

 しかし、もともと雨が少ない12月です。平年より多いといっても、渇水状態を解消するにはいたらず、現在の渇水がさらに深刻化する懸念があります。

 台風が接近・上陸すると大きな災害が発生しますので、多くの人は台風が来ないことを願います。その通りで、台風は来れば困るものです。

 しかし、その反面、台風による雨は、貴重な水資源にもなっています。

 来れば困るが、今年のように全く来ないと水不足で苦労する、というのが台風です。

タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供。

図1、図2、図3、図4、図6、表1、表3の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図5の出典:饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁。

表2の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事