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厳しい残暑とまだ夏の南の海 温帯低気圧と熱帯低気圧と低圧部

饒村曜気象予報士
沖縄本島の南東方向にある熱帯低気圧の雲渦とその東の低圧部の雲(9月11日15時)

厳しい残暑といっても

 週明けの9月11日は、台風13号の通過後から続いている暖かくて湿った空気の北上によって、中国・四国や東海で雨が降りました。

 ただ、関東や東北など、日本の東海上の高気圧に覆われている地域では、晴れて気温が高くなりました。

 全国で気温が一番高かったのは、新潟県・新津の36.7度、次いで、秋田県・横手の36.7度など、13地点(気温を観測している全国915地点の約1パーセント)で最高気温が35度以上という猛暑日となりました。

 また、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが429地点(約47パーセント)と7〜8月の最盛期に比べれば大きく減っていますが、最高気温25度以上の夏日を観測したのが849地点(約93パーセント)と、高い水準です(図1)。

図1 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~9月11日)
図1 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~9月11日)

 9月12日は、猛暑日が0地点程度、真夏日が470地点程度、夏日が865地点程度と見積もられています。

 平年値より高い気温といっても、季節が進んで平年値そのものが下がっていますので、遅ればせながら、秋が近づいてきたといえそうです。

 熱中症は暑さだけでなく、湿度などとも関係しています。

 このため、熱中症対策に使われているのは、「暑さ指数(WBGT:Wet-Bulb Globe Temperature)」です。

 「暑さ指数」は、気温だけでなく、湿度、日射・建物や地面からの照り返し(輻射)などの熱も取り入れた数値であり、湿度7:輻射熱2:気温1の割合で算出されるように、湿度の高さが重要な要素となっています。

 熱中症で救急搬送される人を減らすため、環境省と気象庁は共同で「熱中症警戒アラート」を発表していますが、発表基準となっているのは、暑さ指数33以上の「極めて危険」であるときで、前日17時と当日5時に発表されます。

 令和5年(2023年)の熱中症警戒アラートの発表回数(前日17時と当日5時の発表をまとめて1回として集計)は、7月の前半までは前年、令和4年(2022年)より少ない発表回数で推移していたのですが、7月後半から急増しています(図2)。

図2 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))
図2 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))

 9月6日に熱中症警戒アラートが発表された地域は0となりましたが、これは、7月1日以降、68日ぶりでした。

 そして、その後は、9月10日に千葉県で発表されただけで、9月12日の前日予報でも、熱中症警戒アラートは発表とはなっていません。

 気温は高いのですが、湿度等が低くなって暑さ指数が小さくなったためです。

 令和5年(2023年)は、昨年、令和4年(2022年)の889地域を約36パーセント上回る1206地域の発表ということになりそうです。

 今年の暑さは、熱中症対策が大きな問題となった昨年以上に暑かったのですが、台風13号の通過によって終焉を迎えたともいえそうです。

東京の暑さの記録

 東京の最高気温は、6月下旬以降平年値より高い状態が続いており、7月10日に36.5度を観測し、今年初の猛暑日となりました(図3)。

図3 東京の最高気温と最低気温の推移(9月12日〜9月18日は気象庁、9月19日〜27日はウェザーマップの予報)
図3 東京の最高気温と最低気温の推移(9月12日〜9月18日は気象庁、9月19日〜27日はウェザーマップの予報)

 最高気温が平年値より高い状態は、台風13号が接近して雨となった9月8日に25.2度を観測するまで続きました。

 今年の猛暑日日数は、9月11日までで22日となっていますが、最高気温の予報からみて、これ以上増えないと思われ、それでも、これまでの記録を大幅に更新です(表)。

表 東京の猛暑日、真夏日、熱帯夜の年間観測日数
表 東京の猛暑日、真夏日、熱帯夜の年間観測日数

 また、今年の真夏日日数は、9月11日までで79日となり、これまでの記録を更新中ですが、最高気温の予報からみて9日程度は増えると思われます。

 熱帯夜日数(最低気温が25度以上の日)については、平成22年(2010年)の56日に次ぐ2位の51日となっています。最低気温の予報からみて、1日程度は増えるものの、記録更新にはならず、2位の記録になりそうです。

 夏の暑さを示す、猛暑日、真夏日、熱帯夜の記録をみると、いずれも2000年以降と、最近は記録的な暑さの年が多いことをしめしています。

 そして、今年は、このうち2つの記録を更新するという記録的な暑さでした。

南の海上の熱帯低気圧

 日本の南の海上では積乱雲が増えており、この活発な雲の塊に対応して、沖縄本島の南東海上には熱帯低気圧、マリアナ諸島の北の海上には低圧部ができています(タイトル画像、図4)。

図4 予想天気図(9月12日9時の予想)
図4 予想天気図(9月12日9時の予想)

 沖縄本島の南東にほとんど停滞している熱帯低気圧は、周辺部に発達した積乱雲がなく、台風に発達するかどうかは現時点ではわかりません。

 仮に、9月にこの位置で台風となった場合は、統計的には北上して西日本に接近する可能性があります(図5)。

図5 9月の台風の平均経路
図5 9月の台風の平均経路

 また、マリアナ諸島の北の海上には、低気圧(温帯低気圧)でも、熱帯低気圧でもない低圧部(周囲より気圧が低くなっているものの中心がどこかわからないというもの)があり、広い範囲で発達した積乱雲を伴っています。

 この低圧部のどこかで渦を巻き始めると、熱帯低気圧になり、台風に発達する可能性がでてきます。

 マリアナ諸島近海は、日本に大きな被害をもたらしてきた台風の発生海域の一つで、9月にこの海域に台風が発生すると、統計的には、北西進のち北東進して東日本に接近する可能性があります。

 まだまだ、日本の南の海上では夏が残っていますので、台風や、そのタマゴの熱帯低気圧、さらにそのタマゴを生むかもしれない低圧部には注意が必要です。

タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供資料に筆者加筆。

図1の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。

図4の出典:気象庁ホームページ。

図5の出典:饒村曜・宮澤清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計 月別発生数・存在分布・平均経路、研究時報、気象庁。

表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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