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記録的な猛暑を止める決定打になるかもしれない日本の南の熱帯低気圧、台風9号・10号発生か

饒村曜気象予報士
日本の南の熱帯低気圧に対応する2つの雲といくつかの積乱雲の塊(8月23日12時)

北海道も含めた全国的な猛暑

 太平洋高気圧が日本の東から日本列島に張り出し、北日本を中心に晴れて気温が高くなり、北海道は記録的な猛暑となっています(図1)。

図1 地上天気図(8月23日12時)
図1 地上天気図(8月23日12時)

 8月23日に全国で気温が一番高かったのは、新潟県・長岡で39.0度、次いで、山形県・浜中の38.9度、山形県・酒田と秋田県・大館の38.8度でした。

 北陸や東北の日本海側が最高気温のランキング上位にはいっていますが、特に目立つのは北海道の暑さです。

 8月23日の札幌の最高気温は36.3度と、これまでの最高気温の記録である平成6年(1994年)8月7日の36.2度を上回りました。

 札幌では明治10年(1877年)に観測を開始していますので、146年間で一番の暑さということになります。

 これまで、札幌で35度以上の猛暑日を観測したのは、8月23日の猛暑日で13日となりますが、明治・大正・昭和時代では5日しかありません。

 平成になってから4日、令和になってから4日と、近年特に増えています。

 8月23日に全国で最高気温35度以上の猛暑日を観測したのが129地点(全国で気温を観測している914地点の約14パーセント)、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが718地点(約79パーセント)、最高気温25度以上の夏日を観測したのが902地点(約99パーセント)でした(図2)。

図2 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月23日)
図2 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(5月1日~8月23日)

 今年、一番多くの猛暑日を観測したのが8月3日の290地点(約32パーセント)、一番多くの真夏日を観測したのが7月29日の847地点(約93パーセント)、一番多くの夏日を観測したのが8月18日の912地点(約100パーセント)です。

 これらに比べれば、観測した地点数は減っていますが、高い数値であることには変わりがありません。

 8月24日も、北陸や東北の日本海側を中心に気温が高くなり、秋田県・横手や新潟県の新潟・長岡・高田では最高気温が38度の猛暑日の予報です(図3)。

図3 最高気温の予想の分布(8月24日)
図3 最高気温の予想の分布(8月24日)

 また、猛暑日は全国の120地点程度、真夏日は700地点程度、夏日は900地点程度と見積もられています。

 全国的に厳しい暑さは、8月24日も続く見込みです。

熱中症警戒アラート

 熱中症は暑さだけでなく、湿度などとも関係しています。

 このため、熱中症対策に使われているのは、「暑さ指数(WBGT:wet-bulb globe temperature)」です。

 「暑さ指数」は、気温だけでなく、湿度、日射・建物や地面からの照り返し(輻射)などの熱も取り入れた数値であり、湿度7:輻射熱2:気温1の割合で算出されるように、湿度の高さが重要な要素となっています。

 「暑さ指数」の利用上の目安として、33以上:極めて危険、31以上~33未満:危険、28以上~31未満:厳重警戒、25以上~28未満:警戒、25未満:注意となっています。

 熱中症で救急搬送される人を減らすため、環境省と気象庁は共同で「熱中症警戒アラート」を発表していますが、発表基準となっているのは、暑さ指数33以上の「極めて危険」であるときで、前日17時と当日5時に発表となります。

 熱中症警戒アラートは、注意喚起の情報であり、当日5時に気温が低くなる予報となっても、前日の予報は取り消されませんので、当日5時の発表は前日17時発表と同じか、それ以上ということになります。

 8月24日の前日予報では、北陸から北日本を中心として18地域に発表となっています。

熱中症警戒アラートの発表地域(8月24日の前日予報)

【北海道】上川・留萌、石狩・空知・後志、網走・北見・紋別、十勝、胆振・日高

【東北】青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島

【関東・甲信】千葉

【北陸】新潟、石川

【近畿】京都

【中国】広島

【九州南部・奄美】宮崎

【沖縄】沖縄(沖縄本島地方)

 令和5年(2023年)の熱中症警戒アラートの発表件数(前日17時と当日5時の発表をまとめて1回として集計)は、7月の前半までは前年、令和4年(2022年)より少ない発表回数で推移していたのですが、7月後半から急増し、8月24日には、前年の発表回数の年間累計である889地域を超えています(図4)。

図4 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))
図4 熱中症警戒アラートの発表回数の累計(令和4年(2022年)と令和5年(2023年))

熱中症が問題となった前年以上のペースで熱中症警戒アラートが発表となっていますので、引き続き、熱中症対策をお願いします。

東京都心の猛暑日

 東京(東京都心)の最高気温は、6月末から35度に迫るようになり、7月10日に今年初の猛暑日となっています。

 以後、8月23日までに猛暑日は21日となっており、昨年、令和4年(2022年)に記録した16日という記録を大幅に更新中です。

 そして、今の所、猛暑日の年間日数を24日まで記録を伸ばすという予報になっています(図5)。

図5 東京の最高気温と最低気温の推移(8月24日~30日は気象庁、8月31日~9月8日はウェザーマップの予報)
図5 東京の最高気温と最低気温の推移(8月24日~30日は気象庁、8月31日~9月8日はウェザーマップの予報)

 東京都心の今年の最高気温は、7月26日の37.7度です。

 また、真夏日は7月6日以降継続しており、予報の出ている9月8日まで65日連続すると思われます。

 また、最低気温が25度以上の熱帯夜も8月2日以降連続しており、9月6日まで36日連続するという予報です。

 最高気温、最低気温ともにほとんどが平年より高く、たまに下がって平年並みです。

厳しい暑さはいつまで

 記録的な猛暑を止める決定打になるかもしれないのが、日本の南の熱帯低気圧の動向です。

 太平洋高気圧が南から張り出してくる例年の夏と違って、日本の南は気圧が低くなっており、所々で発達した積乱雲の塊が存在しています。

 このうち、四国沖と沖縄の南海上、マリアナ諸島近海には雲が渦を巻いています(タイトル画像)。

 四国沖の雲の渦は、温帯低気圧に対応していますが、もともとは日本の南から北東進してきた熱帯低気圧でした。

 温帯低気圧に変わりましたが、熱帯由来の暖かくて湿った空気を持ち込みましたので、西日本を中心に大気が不安定となり、所々で大雨になっています。

 このため、西日本の記録的な暑さは一服し、例年通りの夏の暑さになっています。

 また、沖縄の南海上と、マリアナ諸島近海の雲の渦には、それぞれ熱帯低気圧に対応しています。

 このうち、マリアナ諸島近海の雲渦は、次第に渦を取り巻く積乱雲が増えており、台風9号に発達するかもしれません。

 昔、筆者が調べた8月の台風の平均的な経路では、マリアナ諸島近海の台風は、いろいろな経路で北上してきます(図6)。

図6 台風の8月の平均経路図
図6 台風の8月の平均経路図

 西進したのちに北上して関東の東海上を北上するもの、北上して西日本の南海上に達したのち本州南岸を東進するもの、西日本の南海上から東シナ海へ入って北上するもの、いろいろなケースがあります。

 マリアナ諸島近海で台風9号が発生した場合は、進路予報が難しい台風になりそうです。

 ただ、北上してきた場合は、先行する熱帯低気圧と相まって、記録的な猛暑を止める決定打になるかもしれません。

 とはいえ、記録的な暑さを止めたとしても、大きな災害をもたらす可能性があり、どちらになっても困った現象となります。

 また、沖縄の南の熱帯低気圧も、台風になりそうです。

 台風になれば、台風10号です。

 台風になった場合は、統計的には東シナ海を北上してきますので、台風9号の動きと相まって、油断できない台風になるおそれがあります。

【追記(8月24日8時30分)】

 気象庁は8月24日4時13分に、沖縄の南(フィリピンの東)の熱帯低気圧に対して、今後24時間以内に台風に発達すると発表しました。このため、本記事とは順序が異なり、こちらのほうが先に台風9号になりそうです。そして、マリアナ諸島近海の熱帯低気圧が台風10号になる見込みです。

【追記(8月24日10時50分)】

 気象庁は8月24日10時31分に、マリアナ諸島近海の熱帯低気圧が24時間以内に台風に発達すると発表しました。台風が相次いて発生することになります。

【追記(8月24日17時00分)】

 8月24日15時に沖縄の南で台風9号が発生しました。今後発達しながら南下し、フィリピンの東でほとんど停滞する見込みです。

令和5年(2023年)の台風

 現在、東部太平洋赤道域の海面水温が平年より高くなるというエルニーニョ現象が発生しています。

 今年の春までは、東部太平洋赤道域の海面水温が平年より低くなるというラニーニャ現象が2年半という長きにわたって続いていましたので、様変わりです。

 エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、赤道域で積乱雲の発生場所が変わり、台風の性質などが変わり、地球規模で異常気象が発生するとされています。

 気象庁ホームページでは、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象と台風との関係は表1のようにまとめています。

表1 エルニーニョ現象・ラニーニャ現象発生時の台風の特徴(気象庁ホームページより)
表1 エルニーニョ現象・ラニーニャ現象発生時の台風の特徴(気象庁ホームページより)

 昨年、令和4年(2022年)はラニーニャ現象の最中でしたが、台風の発生位置は北東にずれて発生していました。

 このため、日本近海で発生する台風が多くなり、台風が発生するとすぐに日本に影響したということが多々ありました。

 エルニーニョ現象の今年、令和5年(2023年)は、これまで台風の発生数が少なく、台風9号と10号が連続発生しても、8月末までに13個という平年並みには及びません(表2)。

表2 令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値
表2 令和5年(2023年)の台風発生数と、台風に関する各種の平年値

 エルニーニョ現象発生時には、台風発生数が少なくなるという傾向が出ていそうです。

 また、これまでの8個の台風発生海域をみると、まだ例数は少ないのですが、南東側にずれていそうです(図7)。

図7 令和5年(2023年)の台風発生海域
図7 令和5年(2023年)の台風発生海域

 なお、台風8号は、北太平洋中部のハリケーンが西進して日付変更線を越えて北太平洋西部にはいってきたことによる発生で、他の台風とは違います。

 そうなると、気になるのは、表1にある「夏、最も発達した時の台風の中心気圧が平常時よりも低い傾向がある」というところです。

 事実、今年の台風2号は、フィリピン東海上で猛烈な台風に発達し、沖縄近海から日本の南海上を進んでいます。6月の初めということもあり、海面水温がまだ低く、勢力としては弱まりましたが、日本列島の梅雨前線に向かって広い範囲で大量の水蒸気を送り続けたことで、連続6県(高知・和歌山・奈良・三重・愛知・静岡)で線状降水帯が発生し大雨となりました。

 台風6号も、大型で非常に強い台風にまで発達しながら沖縄近海をゆっくり進んだため、沖縄では長時間にわたって暴風域に入り、沖縄本島では線状降水帯が発生して大雨となりました。

 その後、次第に進路を東よりに変え、8月8日以降は九州にかなり接近し、九州の西の海上から朝鮮半島付近に進んでいます。このため、熊本、宮崎、高知、大分、愛媛の各県でも線状降水帯が発生して大雨となりました。

 さらに、台風7号は、8月11日昼頃に非常に強い勢力で父島付近を通過し、その後台風は北よりに向きを変え、15日午前5時前に和歌山県潮岬付近に上陸しました。

 上陸後は自転車並みの速度で近畿を縦断し、兵庫県豊岡市付近から日本海を北上しました。鳥取県では、24時間で470ミリという、平年8月の3倍にあたる雨量が一日で観測され、大雨特別警報が発表となっています。

 エルニーニョ現象が発生している今年の台風は、最大限の警戒が必要と思われます。

タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供資料に筆者加筆。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図3の出典:ウェザーマップ提供。

図4の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。

図5の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図6の出典:饒村曜・宮澤清治(昭和55年(1980年))台風に関する諸統計 月別発生数・存在分布・平均経路、研究時報、気象庁。

図7、表1、表2の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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