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ドイツワインを囲んだ豊かなライフスタイルの過ごし方 その2

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト

今年の夏、「モダンドイツワイン」「ライフスタイル」をテーマにドイツのワイン生産地(ラインヘッセン、ミッテルライン、ラインガウ、プファルツ地方)のワイナリーを巡りました。(画像はすべて筆者撮影)

前回に続いて、ドイツワインを囲んだ豊かなライフスタイルの過ごし方その2をお届けします。今回はプファルツ地方のワイナリー、ヴィノテークの様子をお届けします。

プファルツ地方は、フランクフルトから車で1時間強、南北に「ドイツワイン街道」が縦断している地です。ドイツのトスカナ地方として知られる温暖な地で日照時間も長くぶどう栽培に最適の立地条件を満たしています。

ワインの特徴は赤、白、スパークリングなどに加え、メジャーなブドウ品種からドイツ固有品種まで。1回の訪問で多種のワインを楽しめます。

プファルツ地方で最も古いワイン生産村ツェレを訪ねて

プファルツ地方で最も古いワイン生産村ツェレの「シュウェーデハイムワイナリー」を訪問。同ワイナリーのヴィノテークには、ツェレの隣町メルスハイムに醸造所を構える「フルワイナリー」の若手醸造家クリストファーさんも同席して、2つのワイナリーのワインを数種類試飲しました。

ツェレは石灰岩の豊富な土壌、北部の冷涼な気候、太陽の暖かい日差しに恵まれた地。なんと1300年以上前にすでにこの地でブドウを栽培していたそうです。1日の日照時間が長いこともあり、個性的なワインに最適な条件が整っているそうです。

シュウェーデハイムワイナリーは、現在シュテファンさんとゲオルクさん(画像上)兄弟が中心となり運営。プファルツ州の最北端、つまり最も涼しい地域で栽培されたブドウから、クリアなミネラル感のあるワインが生産されています。

1340年から続く老舗のフルワイナリーは伝統的なファミリービジネスとして、ツェル周辺地域と石灰岩が豊富なメルスハイムの土地に、約14ヘクタールのブドウ畑を栽培しているそうです。運営者は父トーマスさんですが、現在クリストファーさん(画像上)を中心にワイン造りをしているそうです。

ドイツ国内で最も古い要塞ノイライニンゲン城跡へ

次は、ノイライニンゲン城に向かいました。

ラインランド・プファルツ州プファルツの森の東端にある、バード・デュルクハイム地区のノイライニンゲン。廃墟の城壁は、中世の城下町ノイライニンゲンの中心的な存在でした。

ドイツ国内で最も古い要塞で、フランスのイル・ド・フランスの城を手本に建てられ 、1250年、ライニンゲン伯爵フリードリッヒ3世の時代に完成しました。円形の壁で囲まれた大きな中庭があり、その内側に建物が取り付けられていたそうです。

この城はその後勃発したドイツ農民戦争でフランスが破壊し、それ以来廃墟となっています。

古城の中にあるバッテンベルクワイナリーへ

城跡を後に、宿泊先のバッテンベルクホテルへ向かいました。オーナーのシュラゥト家はバッテンベルクにブドウ畑を持ち、ワイン醸造とホテルの経営を手がけています。(画像下・ホテル入口にて)

15ヘクタールのブドウ畑から、環境にやさしい方法で栽培され、熟練の技で醸造された素晴らしいワインを提供しています。品種とエレガンスを備えたリースリング、果実味とボディを備えた赤ワイン、そして独自のスパークリングワインや高貴なブランデーなどの豊富な品揃えです。

バッテンブルク城は1240年、前出フリードリッヒ3世により建てられたものの、ここもドイツ農民戦争でフランス軍に破壊されました。紆余曲折を経て1951年、シュラゥト家が城跡地を買い、2010年よりユリアン氏が2代目経営者となり、ワイナリーは2012年に設立したそうです。

晴天日には、バルコニーにあるテラスからフランクフルトやハイデルベルクまで見渡すことができます。(テラスは金曜日と日曜日だけ営業)

中世の趣が息づく街フラインスハイム周辺の散策

フラインスハイムは、プファルツ地方のバート・デュルクハイム地区にある人口約5000人の小さな街。旧市街を囲む中世の環状城壁は、プファルツ地方で最も美しく、最も完全な要塞のひとつと言われています。(画像・プファルツ選帝侯の権力を示す城壁の入り口・鉄の門)

城壁は、対立が絶えなかったライニンゲン伯爵家に対抗する防御の環として、プファルツ選帝侯によって築かれたものだそう。全長約1.3kmの城壁は、15世紀のものと思われる赤砂岩で造られ、もともとの高さは7~8mでした。

城壁内を歩くと、文化や歴史に触れることができ、同時に趣のある体験ができます。塔、優雅な門、狭い路地、ロマンチックなコーナーなど、いたるところで過去の時代を再現しています。

多くの塔や門がある中世の城壁がよく保存されていることと、バロック様式の市街地が特徴的で、改装された旧市街と相まって落ち着いた雰囲気でかつ華やかさが魅力です。

フラインスハイムでは幌馬車に乗ってブドウ畑を巡ることもできます。車内にはワイン、プレッツェル、ジュース、水など飲み物が完備されていて、緑豊かな自然を満喫しながらのワイン試飲は誕生日や特別記念日のイベント用に貸し切ることができるそうです。

その後、「カスナーシモンワイナリー」を訪ね、スパークリングワインを試飲。フラインツハイム周辺に3つのブドウ畑を有しています。1949年にマティルデ・カスナー氏、ウィリー・シモン氏により始まったワイナリーでペンションも経営しています。

次に向かったのはプファルツ地方で最も古いワイン生産者協同組合の一つヴァッヘンハイムにある「ウァッテンブルクワイナリー」です。

ヴァッヘンハイムは、特にリースリングやピノ・ノワールなど、比較的栽培の難しいブドウ品種にとって、理想的な条件が整っている地です。夏の日中の暑さと夜の涼しさが交互に訪れ、数百万年前の土壌構造が、豊かなアロマ、エレガンスとミネラル、パワーとボディの基礎を形成するユニークなテロワール(ブドウ畑を取り巻く自然環境要因)を提供します。

1900年、ワイン生産者家族によって設立されて以来、大規模な複数家族経営のワイナリーとして活動しています。

ワインバー、伝統と革新アイデアで人気のディートリッヒワイナリー

プファルツ地方グロースカールバッハでディートリッヒ家族の経営する醸造所「ディートリッヒワイナリー」。

現在はディートリッヒ兄弟(画像上左・弟ゲリットさん、右・兄アルンドさん)が中心となり運営しています。

彼らは伝統と革新的なアイデアを融合させたワイン造りを手がけ、新しい試みでこれまでにないブドウ種を配合した独創的なワインも多く、若者世代に大きな支持を得ています。

ヴィノテークとワインバー、その前に広がる芝生の広場は、パーティ会場として特に人気だそう。

総栽培面積25ヘクタールのブドウ畑は、ヴァイゼンハイム・アム・サンドとラウマーズハイムまでの温暖な地にあります。日照時間は年間1800時間以上と、ブドウ栽培に大変適した場所で、レモンや柑橘系の香りが漂う地中海の情緒を呼び起こすような地です。

ヴィノテークでは、イタリア産のハムやオリーブの盛り合わせ、フラムクーヘンを提供(画像上)しています。上質なワインだけでなく、見た目も味も素晴らしい軽食に感激しました。

ワイン試飲中、突然、寿司に合うワインがあるんですと、ディートリッヒ兄弟の秘蔵品を紹介してくれました。

リースリングとピノ・グリ(ドイツではグラウブルグンダーと言われています)品種を調和させ、スパイシーなアジア料理、特に寿司にマッチする白ワインです。リースリングは果実味、透明感、優雅さがあり、非常に心地よい余韻の甘味もあります。

この特別なワインは、ディートリッヒ兄弟とワイン販売業者ヴルゼレヒトのコラボレーションによって生まれたそうです。ドイツのリトル東京といわれるデュッセルドルフの和食店で飲めるそうです。来独する機会があったら是非試してください。

予約のとれない結婚式会場で話題のムスラーワイナリー

1831年からビッサースハイムで家族経営を続けている醸造所「ムスラーワイナリー」。1999年にトビアス・ムスラー氏が引き継ぎ、新しいワインの創造、素晴らしいヴィノテーク、高品質のワインと常にアイデアを持って、最高のワインと多くの素晴らしい時間を提供しています。ビッサースハイムやフラインスハイムをはじめ、計6か所でブドウの栽培をしています。

トビアス氏は2016年5月、40歳という若さでこの世を去りました。ワイナリーは彼の遺志を継ぎ、妻サビネさんを中心に運営中です。温かい従業員の支援の下で、ワインと人に接する温もりと喜びを提供し続けています。

多目的会場ルームのほか、屋外エリア、テラス、広い庭園で最大70名様まで収容可能です。また、豪華で広大なイトスギの木立(画像上)は、屋外での結婚式に最適なスポットとして注目を集めています。

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コロナ禍下ではZoomで ワイン試飲が頻繁に行われました。ですが、ワインメーカーと会話をしながら知識を深めることができるのは現地訪問ならではの魅力です。

観光客が出向くには、アクセスの難しいワイナリーも紹介しました。ですが訪独の途中で機会があれば、是非ワイナリーやヴィノテークに立ち寄ってみることをお勧めします。きっと新しい発見があるはずです。

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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