ドイツワインの産地に見る温暖化の恩恵と弊害・味や生産量はぐっとアップする一方で課題も浮上

リュ―デスハイムぶどう畑とライン川の壮大な眺めは息をのむ美しさ(筆者撮影)

今年7月、ドイツの気温は42.5度に達して、気象観測史上最高の新記録となった。2018年も猛暑で農作物被害は大きな話題となった。水不足でライン川の水位が下がり、一部遊覧船や物資運搬船の運航を停止せざるを得なかった。

こうした猛暑は、地球温暖化の影響だとみられている。ドイツ環境省の報告では、国内における1961年から1990年の平均気温に比べて、2018年は2.3度上がっているという。

一方で昨年はドイツワインの当たり年だった。地球温暖化の恩恵を受け、収穫ぶどう品質は完熟し、高品質のワインが生産された。ワインの質だけでなく、生産量もぐっと上がった。2018年は、17年比で38%も増えた。これは、1999年以来の好記録だ。

しかも最高の品質プレデカートワインは、前年比で37%も生産量が増加した。2018年の全生産量は、白ワインが66%、赤ワインが34%だった(ドイツ連邦統計局統計)。

白品種リースリングのぶどうは粒が小さめ。シュロスフォルラーツにて(c)norikospitznagel
白品種リースリングのぶどうは粒が小さめ。シュロスフォルラーツにて(c)norikospitznagel

これまでドイツのワイン産地は北限と言われていたが、温暖化によりその風景が変わりつつある。ドイツを代表する白品種リースリングワインの生産地として知られるラインガウ地方を訪ね、日本で大人気のリューデスハイム、エーベルバッハ、そしてシュロスフォルラーツでは地球温暖化とワイン生産についてお話を伺った。(画像はすべて筆者撮影)

リースリングの産地ラインガウ地方

ドイツのワイン生産地は13地区ある。その中でもリースリングの産地として有名なのがラインガウ地方だ。ドイツワインの最高級品種リースリングの全生産量のうち栽培比率も高く、その輸出量も多い地域だ。

ラインガウ地方は、モーゼル地方に次ぐ国内第二位の白ワイン生産地。青が白ワイン、アカが赤ワインの生産量比率(ドイツ連邦統計局2019年)
ラインガウ地方は、モーゼル地方に次ぐ国内第二位の白ワイン生産地。青が白ワイン、アカが赤ワインの生産量比率(ドイツ連邦統計局2019年)

ラインガウ地方は、ヘッセン州の州都ヴィ―スバーデンの南からリューデスハイム北部に至るライン右岸を指す。北へ流れていたライン川がこの地方で向きを変えて西へ向かって流れる。そして南向きのぶどう畑とライン川の水面から反射する光と太陽の恵みをたっぷり受けてぶどうがよく育つ地域だ。

ニーダーヴェルドから眺めるライン川は何度見ても圧倒される美しさ(c)norikospitznagel
ニーダーヴェルドから眺めるライン川は何度見ても圧倒される美しさ(c)norikospitznagel

この地方のワインは、しっかりした、そしてさっぱりした酸味、果実味豊かな味わいが特徴。酸味が豊かな辛口(トロッケン)と中辛口(ハルプトロッケン)の白ワイン用品種リースリング、そして赤ワイン用品種ピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)の産地として知られる。

リュ-デスハイム・つぐみ横丁とワイン酒場

つぐみ横丁はまるで大都会のラッシュアワーのような混雑ぶり(c)norikospitznagel
つぐみ横丁はまるで大都会のラッシュアワーのような混雑ぶり(c)norikospitznagel

リュ-デスハイムは、ユネスコ世界遺産指定のライン渓谷中流上部にあるワイン畑に囲まれた小さな街。ワイン醸造の歴史は1000年以上もさかのぼる。街の観光ハイライト「つぐみ横丁」は、全長150メートル程の路地。この通りの両側にはワイン酒場が軒を連ね、ライブ音楽やワインを楽しむ客たちの話声があちこちから聞こえてくる。

ライン川河畔にもぶどう畑が連なる(c)norikospitznagel
ライン川河畔にもぶどう畑が連なる(c)norikospitznagel
リューデスハイム産のブランデー「アスバッハ」を用いた地元ならではのコーヒー(c)norikospitznagel
リューデスハイム産のブランデー「アスバッハ」を用いた地元ならではのコーヒー(c)norikospitznagel
ドイツ帝国発足を記念して建てられた「ニーダーヴァルト記念碑」(c)norikospitznagel
ドイツ帝国発足を記念して建てられた「ニーダーヴァルト記念碑」(c)norikospitznagel

エバーバッハ(エーベルバッハ)修道院ワイン

薔薇の街として知られる街エルトヴィレにあるエバーバッハ修道院は、12世紀初頭に設立された旧シトー派会カトリック教会だ。中世の修道士たちは、森とワインぶどう畑が広がるラインガウ渓谷にあるこの修道院で自給自足生活を送った。

歴史的ワインセラーで時を忘れる (c)norikospitznagel
歴史的ワインセラーで時を忘れる (c)norikospitznagel
是非試飲したいエバーバッハのリースリングワイン (c)norikospitznagel
是非試飲したいエバーバッハのリースリングワイン (c)norikospitznagel

同修道院のワイナリーは900年の歴史を誇る。ぶどう栽培面積250ヘクタールを所有し、ワインはリースリング、ピノ・ノワール、ピノ・ブランク、ピノ・グリスを造っている。ワイン試飲やガイドツワーも体験したい。院併設レストランで料理と共にここならではのワインを味わう来客が絶えない。

修道院中庭で静寂を満喫する (c)norikospitznagel
修道院中庭で静寂を満喫する (c)norikospitznagel

また、この修道院は、ショーン・コネリー主演の映画「薔薇の名前」の撮影地としても知られる。14世紀の修道院を舞台にした暗くて重苦しい空気に包まれた惨事をテーマにしたミステリー映画は今も話題を集めている。当時の修道士の寮などの見学もできるうえ、宿泊施設20室も提供している。

修道院教会は映画「薔薇の名前」の撮影シーンとなった。イベント会場としても好評 (c)norikospitznagel
修道院教会は映画「薔薇の名前」の撮影シーンとなった。イベント会場としても好評 (c)norikospitznagel

シュロスフォルラーツ 地球温暖化の恩恵と弊害

シュロスフォルラーツ(フォルラーツ城)は、800年の歴史を誇るワイナリー。ぶどう栽培面積80ヘクタールに白品種リースリングだけを栽培し、高品質ワインを生産している。かつては個人オーナーのワイナリーだったが、現在はヴィ―スバーデンに本拠を構える銀行が所有し、経営と維持管理を行っている。

シュロスフォルラーツ入口にて・左側本館はイベント会場として人気(c)norikospitznagel
シュロスフォルラーツ入口にて・左側本館はイベント会場として人気(c)norikospitznagel
グライフェンクラウ男爵一家の邸宅だった(c)norikospitznagel
グライフェンクラウ男爵一家の邸宅だった(c)norikospitznagel

フォルラーツ城は、ワイン造りを始めたグライフェンクラウ男爵の邸宅だった。小さな湖に面した塔がその邸宅だったが、子供17人と一緒に暮らすには狭くなり、敷地内に本館を増築した。銀行の所有となってから本館は、イベント会場や婚姻役場として貸し出している。

2年前エバーバッハ醸造所からフォルラーツ城へ転職したマネージャーのラルフ・ベンゲル氏 (57) にお話を伺った。

ラルフ・ベンゲル氏(c)norikospitznagel
ラルフ・ベンゲル氏(c)norikospitznagel
フォルラーツでは発泡ワイン「ゼクト」も造っている(c)norikospitznagel
フォルラーツでは発泡ワイン「ゼクト」も造っている(c)norikospitznagel

2018年は猛暑で、ぶどうの収穫は例年よ3週間ほど早い8月上旬だった。しかし白品種のリースリングは、ゆっくりと風味が増していき、酸味を持つ晩熟種のため、本来は栽培時期が少し遅い方がよい。理想は10月上旬の収穫だ。だが、温暖化によりその収穫時期も今後変わっていくだろう。ぶどう栽培では、これまで葉を切り日が最大限果実に当たるよう配慮した。だが、日照時間が長くなるにつれ、葉を最小限剪定しぶどうに日陰ができるようにした。そうすることで早期完熟を避けることも可能になる。

温暖化により、かつて想像もできなかった地方でぶどう栽培ができるようになった。例えば、最北端のズュルト島、そしてメクレンブルク・フォアポンメルン州でも造られている。ワインの品質も味もますます向上していくのはありがたいが、これまで存在しなかった害虫の被害も昨年初めて体験した。

干ばつやカビ菌耐性品質の改良も試行錯誤中だ。猛暑に対応可能なリースリングのクローンについても作業が始まっている。ガイゼンハイム大学と協働し、情報の収集も行っている。

またドイツワイン協会(DWI)によると、ドイツは世界最北端のぶどう栽培地のひとつと言われ、長年日照時間や気温の変動でぶどう収穫とワインの品質に大きな影響を受けていた。栽培における年間日照時間は、少なくとも1300時間必要だと言われる。

ところが年々気温が上昇しており1990年代と比較すると、欧州の気候は南に300キロほどずり落ちたような感じと、気象台専門家は分析する。つまりドイツワインは地球温暖化の恩恵を受け、さらにドローンや携帯アプリケーションを用いてぶどうの栽培管理や品質を一定に保つなどIT技術を導入することで高品質のワインが続々と市場に出回るようになった。

白品種のリースリングは、通常平均気温が13度から18度が最適だといわれている。そのため寒冷な地域で栽培できた。一方赤ワイン、例えばピノ・ノワールは14度から16度が最適気温で、その温度幅が狭いため、特に気候変動の影響を受けやすいとされていた。気温の安定に伴い、今後はドイツの赤ワインの成長が期待されている。

DWIの分析では、「かつてはピノ・ノワールは生産量が少なく、国内で消費されることが多かったため、輸出は難しかった。だが今後はピノ・ノワールをはじめ、赤ワイン全般の生産量も着実に増え続け、海外でも入手できる可能性が高くなるだろう。それに伴い、リースリングだけでなく、ドイツ産赤ワインもさらに注目を集める」という。

ワインは造り手の個性が現れる商品だといわれる。今後どんなワインが市場に出てくるのか楽しみだ。