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北朝鮮「火星18」発射、金正恩総書記の娘の姿、今回は封印された?

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
金総書記と趙甬元書記(右)。その背後に妻・李雪主氏の姿がみえる=労働新聞より

 北朝鮮の朝鮮中央通信は13日、前日発射した弾道ミサイルを、多くの専門家が予想していた通り、「新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星18』型」と発表した。火星18発射は今年4月13日に続いて2回目だ。報道文では、ミサイルの性能に関する記述より、米国批判に多くが割かれている。

 一方、前回の火星18発射時に大々的に取り上げられていた金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の娘の姿が党機関紙・労働新聞の紙上には見当たらず、露出に神経を使っている様子がうかがえる。

◇ミサイルの記述に派手さがなく

 朝鮮中央通信の報道文をみると、今回の火星18発射は2回目ということもあって、ミサイルそのものに関する記述は相対的に少ない。

 ミサイルについて、1段は「標準弾道飛行方式」(30~45度の通常角度での発射)に、2、3段は「高角飛行方式」(ロフテッド軌道)に設定し▽最高高度6648.4kmまで上昇▽飛距離1001.2km▽4491秒(1時間14分51秒)間飛行▽日本海上の目標水域に正確に着弾――と伝えている。

 ミサイルは意図的に推力を調節しており、すべてを通常角度にする場合、1万5000km以上飛ぶと推定され、米本土全域を射程距離に置くことができるようだ。

 報道文は火星18を「核心兵器体系」として重視している点を強調したうえで「わが国の安全を守護する手段としての使命と任務を遂行することになる」と書き、一線部隊への配置・運用が近づいている点を示唆している。

 金総書記は、発射の結果に大満足したと記されている。

 一方、前回の火星18発射の報道では、金総書記の娘が多数の写真を使って紹介され、その存在が前面に押し出されていた。だが、今回は労働新聞に妻・李雪主(リ・ソルジュ)氏らしき人物が、金総書記や側近の趙甬元(チョ・ヨンウォン)書記の後方にかすかに写り、その近くに娘がいる可能性はあるものの、その姿は確認できなかった。

 北朝鮮としては、軍事偵察衛星の準備状況を金総書記と娘が視察し、その様子を大々的に報じたあと、打ち上げに失敗したという経緯もあり、公式報道での取り扱いに慎重になっていると考えられる。

◇27日は朝鮮戦争「戦勝」70年

 今回の報道文では、3分の2程度を米国批判に費やし、「なぜ打たなければならなかったのか」の理由を並べている。その主旨は「(米韓の)軍事的挑発行為が前例になく強まっている」「地域情勢を、史上初の核戦争接近に追いやっている」というものだ。

 今回の発射前に、金総書記の実妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長や国防省報道官は談話で「米空軍戦略偵察機が10日に(北朝鮮の)経済水域の上空を無断侵犯し、空中偵察行為を強行した」「繰り返される無断侵犯の際には、米軍が非常に危険な飛行を経験することになる」と警告を繰り返してきた。今回のミサイル発射は、この延長線上の軍事的行動と位置付けられている。

 また今月27日には、朝鮮戦争休戦から70年を迎える。北朝鮮は休戦の日を「(米国を破った)戦勝記念日」と位置付け、自国の存在感の誇示、国威発揚、内部結束を図ろうとしている。平壌ではこの日に合わせて大規模な軍事パレードの準備が進められているようだ。

 北朝鮮としては、自国の存在感を内外に誇示する必要がある。人工衛星の打ち上げ失敗以後、国際社会において北朝鮮の存在は目立たなくなり、ウクライナ情勢や米中対立のなかで埋没している感がある。北朝鮮としては、米国との軍事的緊張の高まりを強調し、国際社会の関心を引き付けたいという思惑があるため、今後もミサイル発射など、軍事的なデモンストレーションを繰り返す可能性がある。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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