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習近平、プーチンの両氏からオーラが消えたように思えるのは錯覚か

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
首脳会談の際、習近平氏に向けて手を振るプーチン氏=中国中央テレビキャプチャー

 中国の習近平(Xi Jinping)国家主席が30日、ロシアのプーチン大統領とオンラインで会談し、連携を誇示した。両首脳は今年2月の首脳会談で、両国が協力して国際社会の新秩序を主導するという考えを前面に押し出した。だがその後、ロシアはウクライナ侵攻で孤立を深め、中国も新型コロナウイルス対策が引き起こした混乱により、苦境に立たされている。追い込まれたように映る両首脳からは、かつてのようなオーラが消えたような印象がある。

◇苦境の中露

 両首脳は今年2月の北京冬季五輪を機に開いた会談で「無制限の協力」を宣言し、米欧に挑戦する姿勢を鮮明にした。ともに、力による一方的な現状変更も辞さない構えを見せ、世界のパワーバランスに変化が生じるのではないかという懸念が関係国に広がった。

 だが、ウクライナ侵攻に対して西側諸国が厳しい経済制裁を課すと、ロシア経済は大きなダメージを受け、時間の経過とともに深まっている。半導体の調達が制限され、軍事システムを支える産業の基盤を維持することも困難になりつつある。

 外交的にも孤立を深める。北欧のスウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)への加盟の手続きを進め、欧州連合(EU)はウクライナとモルドバを加盟候補国とした。ロシアの「影響圏」といわれる中央アジア諸国でも最近、「ロシア離れ」が指摘されている。

 こうした苦境のなか、プーチン氏は経済や外交の安定を保つため、中国への依存度を高めている。

 だが、中国側も問題は山積している。

 習近平主席は異例の中国共産党総書記3選を果たし、党指導部を自身に近い人物で固めて権力を集中させた。ただ、その過程で妥協も強いられ、必ずしも権力基盤が盤石とはいえない。

 また「習近平氏の成果」として大々的に宣伝されてきた「ゼロコロナ政策」が挫折し、新型コロナ感染者が爆発的に増加したことで、習近平氏の指導者としてのイメージが大きく損なわれた。

 外交・安全保障面でも、中国の軍事力強化の動きに西側諸国は懸念を強め、それが連携強化や先端半導体の対中規制、日本や韓国を含む各国での防衛費増額を引き起こすことになった。パンデミックとウクライナ侵攻により、習近平氏肝いりの巨大経済圏構想「一帯一路」構想にも苦境が拡大している。

 中国には今、ロシアを支援する余裕はないはずだ。また支援すれば、経済制裁を受ける恐れもある。「(中国は)プーチン氏に全面的に肩入れして制裁のリスクを負うことも、プーチン氏を見捨てて欧米に対抗する重要な同盟国を失うリスクを負うこともできない」(米紙ニューヨーク・タイムズ)わけだ。

プーチン露大統領に向かって手を振る中国の習近平国家主席(中国中央テレビのホームページより筆者キャプチャー)
プーチン露大統領に向かって手を振る中国の習近平国家主席(中国中央テレビのホームページより筆者キャプチャー)

◇習近平氏のプーチン氏への影響力は限定的か

 こうした状況のなか、今回の首脳会談が開かれた。

 中国中央テレビ(CCTV)の報道は、習近平氏がプーチン氏に向かって手を振る場面から始まり、これに笑顔のプーチン氏が手を振って応じる様子が伝えられる。

 中国外務省の発表によると、習近平氏は「激動する国際情勢において、中露は常に本来の協力精神を堅持し、戦略的決意を維持、戦略的協力を強化しなければならない」と呼びかけたという。この際、今年1~11月に中露間の貿易が過去最高を記録し、主要分野の協力プロジェクトが着実に実施されていると強調している。

 また、ロシアに対する制裁を強化する米欧を念頭に「封じ込めや弾圧は支持を得られず、制裁や干渉が失敗に終わることは、繰り返し証明されている」と訴えた。

 両首脳は、ウクライナ情勢について意見交換し、習近平氏は「ロシア側が『外交交渉による紛争解決を拒否したことはない』と言っていることに中国が注目し、これを評価した」と述べた。そのうえで「中国は引き続き、客観的かつ公平な立場を堅持する」と強調したうえ、ウクライナ危機の平和解決に向けて協力する姿勢を示した。

 米欧の指導者の中には、習近平氏がプーチン氏に戦争をやめるよう説得すべきで、そのための努力を尽くせと求める声がある。習近平氏とプーチン氏は個人的な信頼関係があると言われる一方で「習近平氏の力を過大評価すべきでない」という見方もある。

 友好関係にあるロシアが弱体すれば、中国は単独で米国と向き合うことになる。それゆえ、習近平氏としてはプーチン氏が追い込まれる事態を見過ごすことはできないという事情もある。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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