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「強」対「強」の悪循環――朝鮮半島の緊張が高まれば、北朝鮮の核能力はより高度化する

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
北朝鮮のミサイル発射を公開した10日付労働新聞(筆者キャプチャー)

 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は10日の党創立記念日にあわせた紙面で、この半月の間に繰り広げた各種ミサイル実験に関する記事を一挙に公開した。朝鮮半島をめぐり、日米韓と北朝鮮が「強」対「強」を繰り返して緊張が高まっている。この状況が続けば、北朝鮮に核・ミサイルを高度化させる口実を与えることになり、朝鮮半島は「統制のきかない紛争地域」と化すおそれも排除できない。

◇党の指導のもと

 10日付の労働新聞はフロントページに党創立記念日を慶祝する記事を、9~10面にも関連行事に関する情報を、それぞれ掲載した。その間の2~8面を割いて、9月25日から10月9日にかけて実施した一連のミサイル発射に関する記事を、多数の写真とともに載せた。党創立記念日の成果としてミサイル能力向上、つまり軍事力強化が位置づけられている。

 北朝鮮では最近、党の指導下にある国家(国防省)が朝鮮人民軍を動かす――という方向性を打ち出している。党創立記念日まで続けられた一連のミサイル発射も「党の成果」として誇示することで、こうした方向性を明確にしている。実際、一連のミサイル発射は、党中央軍事委員会が先月下旬に手配した「相異なる水準の実践化された軍事訓練」と伝えられている。

◇各種弾道ミサイル実験

 労働新聞の紙面には、朝鮮人民軍戦術核運用部隊の軍事訓練として実施された、この2週間で7回発射された各種弾道ミサイル実験の詳細が記され、すべてを金正恩(キム・ジョンウン)総書記が指導したとされる。

 その詳細は次のように記されている。

▽9月25日:北朝鮮北西部の貯水池水中発射場で戦術核弾頭搭載を模擬した弾道ミサイル発射訓練

▽9月28日:韓国の飛行場を無力化させる目的での戦術核弾頭を模擬搭載した弾道ミサイル発射訓練

▽9月29日と10月1日:兵器システムの正確性と威力を確証した多様な種類の戦術弾道ミサイル発射訓練

▽10月4日:日本列島を横切って、4500キロの太平洋上の設定された目標水域を打撃するようにした新型地上対地中・長距離弾道ミサイル

▽10月6日:超大型ロケット砲と戦術弾道ミサイル命中打撃訓練

▽10月9日:敵の主要港打撃を模擬した超大型ロケット砲射撃訓練

 北朝鮮は今回、多様な時間帯・場所から弾道ミサイルを発射していた。これについて、金総書記は「任意の時刻、不意の状況下でも迅速で正確な作戦反応能力と核状況対応態勢を高度に堅持している」と強調している。

 金総書記はまた「任意の戦術核運用部隊にも、戦争抑止と戦争主導権獲得というとても重い軍事的任務を課することができるとの確信をさらに持つことになった」と述べている。一連のミサイルに小型核弾頭の搭載が可能だという点を強調したものと考えられ、いつでも「核による威嚇」ができる点を前面に押し出した。

 米韓について、金総書記は「今、この時刻も敵のせわしい軍事的動きが感知されている。米国と南朝鮮(韓国)政権のこのように、持続的で意図的であり、無責任な情勢激化行動は、やむを得ずわれわれのさらなる反応を誘発させるだけだ」と警告した。

 金総書記は、朝鮮半島で「強」対「強」の局面が続く限り、核能力をさらに強化していくという考えを明示した。米国の対北朝鮮政策に変化が見られない限り、小型核弾頭の開発と威力を高めるため、今後、7回目の核実験も敢行する意思を示したものといえる。

 さらに「敵が軍事的威嚇を加えるなかでも、相変わらず対話と交渉を云々し続けているが、われわれには敵と対話する内容もなく、またそのような必要性も感じない」と強調し、米国の方針転換が対話再開には必要である点を強調した。

◇「異なる北朝鮮」

 一連の訓練で北朝鮮が誇示したものを考えてみる。

 まず、「いつ、どこでも弾道ミサイルを発射できる実戦能力」だ。実戦を想定し、米軍の原子力空母の動きなどにあわせて弾種を変え、その運用を確かめていたようにみえる。また、深夜時間帯の発射で日米韓の動きを見極めつつ、3カ国の政府や軍を疲弊させるという意図も見え隠れする。

 次に「量産・配備された兵器の運用能力」。一連の発射は、新型兵器の技術開発ではなく、量産段階のミサイルの運用に焦点を当てているようだ。

 また、今回のミサイル実験を通して、専門家の間では「異なる北朝鮮」という言葉が使われている。

 以前なら、米韓合同軍事演習の際、北朝鮮側は緊張し、対応を控えるという一面があった。ところが最近は「相手が圧迫するならこちらもそれに対応する」という方式に変わったようだ。北朝鮮が恐れるはずの米海軍原子力空母ロナルド・レーガンを中核とする空母打撃群が朝鮮半島近くで共同訓練をしても、時間を置かずに反応した点でもこれが明確になっている。

 北朝鮮にはおそらく、「自国は核保有を法制化した国であり、核の後ろ盾がある。米国を恐れる必要はない」と考えているのだろう。それゆえ、米韓が自国を敵視するような軍事演習をする場合、自分たちも直ちに対抗し、それにあわせて核能力をさらに高度化させる、という考えをはっきりさせている。

 朝鮮半島では最近、「強」対「強」による応酬が繰り返され、悪循環に陥っている。事態の安全管理という視点が見えにくくなっている。朝鮮半島が紛争地域となるのを避けるためにも、関係国の自制と外交努力が必要になっている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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