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台湾が中国に攻撃されても米国はウクライナ危機と同様、軍を送らない。しかし……

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国の習近平(Xi Jinping)国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 ロシア軍の侵攻を受けるウクライナが、米国などから次々に軍事支援を受けて抵抗を続けている。台湾の武力統一を念頭に置く中国とそれに構える台湾、さらに米国は、ウクライナ情勢から何を学び取っているのか。香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)の記事からひも解いてみたい。

◇「台湾の最良の防衛は、台湾人によるもの」

 台湾は中国と衝突した場合、自力で戦わなければならない。ただ、非公式ながら緊密な関係にある米国は、台湾に武器やその他の援助を提供するだろう――SCMPは、こうした軍事専門家の見立てを紹介している。

 ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、専門家の間では「台湾が中国から攻撃を受けた場合、米国はいかなる反応を示すのか」という議論が活発化している。

 台北で今月上旬に開かれたあるセミナーでは、ウクライナ情勢に関するアナリストの見解が紹介されている。

「ウクライナは小国だが、米国製の手持ち兵器ジャベリンや携帯式防空ミサイルシステム・スティンガーなどの小型兵器を使うことにより、はるかに大きな国からの侵略に対抗できている。このことを台湾に教えている」

「一方で、米国が台湾に明らかにしているのは『中国との戦闘において台湾を支援するために米国が軍隊を送ることは決してない』ということだ」

 台湾が中国に攻撃されても、米国は軍隊を送らない。これが専門家のコンセンサス――SCMPはこう断じている。

 米国がウクライナに与えたのは、簡単な武器と情報・衛星通信の援助だけ。だが、これによって、ウクライナはロシアの侵攻を一定程度抑止できただけでなく、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国を自陣に引き入れ、国際制裁によりロシアの国力を大きく低下させた。

 台北のシンクタンク「台湾国際戦略研究会」のマックス・ロー事務局長は「ウクライナ危機での最大の勝者は米国だ。したがって中台で紛争が発生した場合、米国がこのモデルを台湾支援に適用するというのははっきりしている」と話している。

 今月開かれた米上院軍事委員会の公聴会で、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が「台湾の最良の防衛は、台湾人によるものである」と示唆したことからも明らかだ。

 その際、ミリーは次のように語っている。

「ウクライナをみればわかるように、われわれは確かに台湾を助けることができる。また、中国が真剣に受け止めるべき多くの教訓がはっきり表れている」

 中国本土からの攻撃に対し、米国が台湾の防衛を助ける最善の方法を「台湾を占領することがいかに難しいかを中国にわからせること」と強調した。

◇武力行使よりもエネルギー封鎖

 中国は台湾を「本土と統一されるべき中国の省」とみなしており、その目標を達成するための武力行使も放棄していない。ただ武力行使はリスクが高く、展開次第では習近平(Xi Jinping)政権が揺らぐ恐れがある。それゆえ、中国は武力行使ではなく「エネルギー封鎖に打って出るのではないか」との指摘が出ている。

 封鎖によって台湾住民の生活に影響を与え、物価を押し上げ、孤立させ、統一交渉が現実的な選択肢となるようにする――というシナリオだ。

 台湾の国防部(国防省)は2021年版の国防報告書(国防白書)で「(中国人民解放軍が)既に、重要な港や空港、外部との航路を封鎖して海や空の主要なルートを遮断する能力を備えている。兵站の補給と作戦持続に影響を及ぼす」と指摘している。

 米国防総省も同年の米議会への報告書において「台湾に対する中国の行動方針」という項目で次のように記している。

「中国人民解放軍は、台湾の重要な輸入品を断つなどして海上と航空を封鎖し、台湾を降伏させる『共同封鎖作戦』を描いている」

「大規模なミサイル攻撃や台湾の島々の占拠を伴う合同封鎖を実施し、台湾を速やかに降伏させると同時に、必要であれば数週間から数カ月の封鎖作戦を実施できるよう航空・海軍の態勢を整えるだろう」

「中国側は、航空・海上封鎖作戦と並行して電子戦(EW)、ネットワーク攻撃、情報作戦(IO)を同時に展開して、台湾をさらに孤立させるであろう」

 台湾は天然ガスの大半を輸入している。主要港が封鎖されればどうなるか。

 台湾・淡江大の黃介正(Alexander Chieh-cheng Huang)准教授(戦略学)はSCMPの取材に、台湾の戦略的備蓄は液化天然ガスが約2週間分、原油が約90日分しかない、と説明している。「液化天然ガスが2週間分しかないなら、それは戦略的とは呼べない」(黃介正氏)という状況だ。

 中国は既に、南シナ海に人工島をつくって軍事拠点化を進めている。したがって、台湾海軍がエネルギー輸送船をエスコートするために、南シナ海の遠方まで航行する、ということは難しいという。

 シンガポール国立大リークワンユー公共政策大学院のドリュー・トンプソン(Drew Thompson)客員上級研究員はSCMPに、中国人民解放軍が封鎖をする際、台湾南部の高雄と、台湾最大の港を持つ北部の基隆の船舶を停止させるだけで商業輸送を妨害できる、と伝えている。それゆえ「台湾の周囲を“大きな鉄の輪”で覆う必要はない」(トンプソン氏)ということになる。

 だが、中国が台湾封鎖に打って出た場合、中国は国際社会からの経済制裁を覚悟する必要がある。そうなれば、中国を含む世界経済が大きな打撃を受けることになり、国際社会の流動化は避けられない。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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