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ウクライナ危機で気まずい中国、「米国が新型コロナと同様に偽情報」で批判かわす

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
プーチン露大統領(左)と習近平・中国国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナ情勢が緊迫するなか、中国が微妙な立ち位置にいる。ロシアへの支持を強調する半面、地域の不安定化を懸念する立場から自制も求めている。一方で米国批判は強めており、ウクライナ情勢に絡めて新型コロナ起源や人権問題などでの“反論”を試みている。

◇ウクライナ緊迫で中国は困惑

 北京冬季五輪開会式(4日)に際して訪中したプーチン露大統領が中国の習近平(Xi Jinping)国家主席と会談した際、中国側はロシア側の主張を支持する形で北大西洋条約機構(NATO)拡大に反対を表明し、両首脳の協力関係が新たな段階に達したことを強調していた。

 中国のバックアップを得たことで、ロシアがウクライナへの攻勢を強めている――こんな見方が広がった。

 だが、ウクライナ情勢が緊迫するにつれ、中国側から発信されるメッセージが慎重になってきた。

 中国の王毅(Wang Yi)国務委員兼外相は19日、独ミュンヘン安全保障会議で「あらゆる国の主権、独立、領土の一体性を尊重」「対話と協議を通じた解決」を強調し、ロシア側のウクライナ侵攻に自制を求めるような発言になった。

 王毅氏は22日にブリンケン米国務長官と電話で会談した際にも「ウクライナ情勢は悪化の一途をたどっている」との認識を示したうえ、「すべての当事者に対して自制」「対話と交渉を通じて状況を緩和」と強調している。

 そもそもウクライナは中国にとって重要な貿易相手国だ。欧州への玄関口であり、習主席が力を入れる巨大経済圏構想「一帯一路」のパートナーでもある。大規模な軍事衝突が起きれば、同国や欧州との関係は悪化し、米国から強い反発を受ける。それに引き込まれるように国際世論は中国に厳しいものになる。「中露」対「米欧」という分断の構図は中国にとって有利なものとはいえない。

 一方で、世界秩序をめぐって中国が西側諸国と競うなかで、ロシアは安全保障上のパートナーとして魅力的な存在でもある。ロシアを遠ざければ、アジアの安全保障が悪化して自国への支援が必要な時期に、ロシアからそれを得られなくなるという懸念もある。

◇「ほとんどが米情報機関の推定」

 中国が気まずい立場に置かれている傍らで、中国の宣伝メディアは、米国側からこれまで批判を受けてきた問題とウクライナ情勢を絡めて「米国が偽情報を繰り返し発信している」と批判を繰り返している。

 中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」は18日付社説で「激化するロシア・ウクライナ危機を振り返ると、両国国境の緊張を押し上げた情報のほとんどが『米情報機関の推定』によるものであったことがよくわかる」と書いている。

 そのなかで同紙は「世論戦、情報戦、諜報戦は米国の常套手段」と指摘し、ベトナム戦争からイラク戦争、シリア戦争まで持ち出して「米情報機関は米国式覇権を支える“見えない黒い手”であり、その黒歴史は枚挙にいとまがない」と強調している。

 架空のシナリオを作る▽「被害者」の判断を誤らせる▽「保護」のための費用を負担させる――「米国が『典型的な通信詐欺の手口』で世間を欺こうとした」と一方的な論理を展開したうえ、「自国の政治的利益のために偽情報を武器にすることは、米政府が長期間、慣れ親しんできた作戦だ」と揶揄している。

 そのうえで、中国・武漢から感染が拡大した新型コロナウイルスについて「責任転嫁のために、発生源の追跡を情報機関に『担当』させている」と書いたり、新疆ウイグル自治区や香港などの人権問題の指摘に対しても「他国を中傷するために『人権』を口実に嘘をでっち上げ続けている」と記したりして、自国への批判をかわず材料として使っている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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