北朝鮮は11日早朝、北部・慈江道(チャガンド)から弾道ミサイルを発射、700km以上飛行し、最高速度はマッハ10に達した。12日朝には朝鮮中央通信を通じて、これを「極超音速ミサイル試射」と発表した。5日にも「極超音速ミサイル」を試射したものの、米韓が「技術レベルがそれに達していない」「迎撃可能」と低く評価したため、時間を置かずにより高性能な「極超音速」を発射し、5日分の“上書き”を図った。

◇最側近の役割強調

 朝鮮中央通信は、極超音速ミサイルは発射後、極超音速滑空飛行の弾頭部が分離して600km先で再び跳躍して旋回し、1000km先の標的に命中したと伝えた。試射の目的を「全般的な技術的特性の最終実証」としており、近く実戦配置することを示唆した。

 試射には金正恩(キム・ジョンウン)総書記が立ち会い、そこに趙甬元(チョ・ヨンウォン)組織書記らが同行した。朝鮮労働党機関紙、労働新聞に掲載された写真には、金総書記がモニター画面を眺めるそばで、金正植(キム・ジョンシク)党軍需工業部副部長と、金総書記の実妹・金与正(キム・ヨジョン)党宣伝扇動部副部長が手を打って喜ぶ姿がとらえられている。

 金総書記がミサイル試射に立ち会ったのは、2020年3月以来で約2年ぶり。その間、軍事担当の朴正天(パク・ジョンチョン)書記らによる参観が続いていた。自ら立ち会ったのは、経済難が続くなかでも国防を重視している点を前面に押し出して、国威発揚を図る狙いがあると考えられる。金与正氏は南北関係や外交を総括する国務委員という立場にもあり、金総書記のミサイル試射参観という重要行事に随行しながら最側近の役割をしている点を強調する狙いも指摘できる。

 今回の試射に際し、金総書記は「国防科学研究部門では党の国防発展政策と戦略的方針に従い、国の戦争抑止力を強化する歴史的偉業で引き続き立派な成果を獲得すべきだ」と激励した。

 昨年1月の党大会で金総書記は「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」を示し、核兵器小型化▽極超音速ミサイル導入▽新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発▽原子力潜水艦やSLBMの保有▽軍事偵察衛星の運営――などを列挙している。今回の極超音速ミサイルもここに含まれている。

◇米中にらんだ立ち位置を探る

 北朝鮮のミサイル試射には二つの動機がある。

 ひとつは軍事的な要請。米国や日本、韓国に向けたミサイルを開発して、抑止力を高めようというもの。ミサイル開発に実験が欠かせないため、試験を繰り返している。また試射は、北朝鮮との武器取引を考える勢力に向けた「デモンストレーション」という側面もあるといわれる。

 ふたつめが政治的意図。北朝鮮は米国で大統領が交代するたびに核・弾道ミサイルの実験を強行してきた。米国に「北朝鮮は危険な国」「脅威だ」と植え付けることで、交渉の席やその前段階で譲歩を引き出したいという思惑がある。今回は、国連安保理で5日の発射に対する非難が巻き起こっているなかでの発射だっただけに、関係国の反発をさらに強めるとともに「北朝鮮は何を考えているかわからない国」という不気味さも植え付けた。

 一方、現時点では核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)試射は凍結している。最近も多様なミサイルの試射を繰り返しているが、ほとんどが短距離ミサイルだ。

 ここで考えられるのは、まずはバイデン米政権の出方を見極めていることだ。短距離ミサイルでは挑発の“効果”は限定的で、米国を交渉のテーブルに引っ張り出すためのインパクトは大きくない。ただ、核実験やICBM試射などを強行すれば、米国との水面下での駆け引きが完全に決裂するという懸念もあるとみられる。

 もうひとつは最大の支援国・中国への配慮だ。核・ICBM実験をすれば、北東アジア情勢は不安定化するため、北京冬季五輪を2月に控えた中国の神経を逆なですることになる。

 もちろん、韓国大統領選挙の動向も注視しているのは間違いない。

 北朝鮮の周辺では現在、米中対立が激化し、長期化が避けられない情勢になっている。国際情勢を見極めながら、米中両国をにらんだ立ち位置を探っているようにもみえる。