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中国が気をもむ「絶対安定多数・岸田政権」の次の一手

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
(提供:PantherMedia/イメージマート)

 中国では1日、インターネットメディアを中心に、自民党が絶対安定多数を得た衆院選について詳細に報じている。中国側は来年9月の国交正常化50周年に向けて日本側との関係再構築を模索する一方で、岸田文雄首相の「タカ派的発言」や憲法改正に向けた動きに警戒しており、選挙後の日本側の動きに神経を尖らせている。

◇「維新」急伸で憲法改正に懸念

 中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」電子版は、日本の主要メディアの報道を引用する形で「警戒! 右翼政党『日本維新の会』が衆院議席数を3倍に急拡大」との見出しの記事を掲載した。

 同紙は「日本の国会で憲法を改正したいと考えているのは、主に自民、公明の連立与党と日本維新の会」とし、今回の選挙で「自民261、公明32、維新41」になったと開票結果を伝えた。そのうえで「これで憲法改正に前向きな勢力が全議席数の3分の2(310議席)以上を占めたことになる。手続きを開始するには十分だ」と警戒感を示している。

 また、岸田首相について「政権を取ってから、ある程度、自民党政権の右翼的な伝統を継承している」との認識を示しながら「憲法改正を主張するとともに、国家安全保障戦略の変更を主張し、敵のミサイル基地に対する先制攻撃能力の開発などを模索している」などと批判的な論評を掲載している。

 さらに、同紙は「アジアの近隣諸国と国際社会は、歴史的・現実的な理由から、日本の軍事・安全保障の動向に重大な注意を払っている」とする譚克非・国防省報道官の発言(10月28日)を紹介。「日本側は、いわゆる“外部からの脅威”を誇張して軍事力拡大を図っている。これは日本の『専守防衛』の約束に反しており、非常に危険だ」と指摘し、慎重な行動を促している。

◇『タカ派』政策に警戒

 中国のニュースサイト、中国新聞網は「自民党の勝利により、岸田氏は呪縛を打ち破ることができるのか?」という見出しで選挙結果を伝えた。

 同サイトは「衆院選で岸田政権の“弱点”も明らかになった」とみる。北京大の王新生教授の「日本では『党高政低』(党が政府より優位な状況)という状況を形成していたようだ。閣僚の選び方をみれば、岸田氏の自民党総裁就任は、明らかに安倍晋三氏と麻生太郎氏の支配下によるもの」という見解を紹介したうえで「さらに今回の衆院選が、岸田氏の威信にさらなる打撃を与えるかもしれない。自民党内には2022年の参院選前に岸田氏退陣を求める声が上がるかもしれない」との観測を伝えた。

 一方で、同サイトは岸田氏の外交政策について警戒心をあらわにしている。「これまで穏健な『ハト派』路線をとってきた岸田氏が、首相になってから相次いで『タカ派』政策を発表している。最近では中国に対して厳しい発言を繰り返し、日米同盟の強化を支持して、中国に対して『譲歩しない』と主張している」

 この点について、清華大の劉江永教授は「岸田氏が『多国間軍事抑止策』を取り、終始、安倍路線を貫いている」と見立てる。その一方で「米中など大国関係が以前と変化しているため、日本がさらなる強硬姿勢を見せるのは、実際には難しい」との見通しも示している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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