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ここまできた習近平政権「芸能界浄化」――中国版ツイッターがBTSファン締め出し

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
BTSジミンの姿をラッピングした専用機=百家号より筆者キャプチャー

 中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」が最近、韓国の男性音楽グループ「BTS(防弾少年団)」メンバーのファンによるキャンペーンを「非理性的な追いかけ行為」と非難し、ファンクラブのアカウントを使用禁止にした。習近平(Xi Jinping)政権は、著名人のファンによる熱狂的な追いかけを戒めるようインターネット関連業者に指示しており、微博もこれに沿った措置を取った。

◇BTSメンバー「専用機」

 微博が問題視したのは、BTSメンバー、ジミンの中国でのファンクラブ「JIMIN BAR CHINA」の活動だ。

 中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」(英語版)などの情報を総合すると、ファンクラブがジミンの誕生日(10月13日)に向けて、その姿と祝賀メッセージをラッピングした専用機を飛ばすことを計画。今年4月、中国の交流サイト上で資金を募ったところ「3分で100万元(1700万円相当)以上」「1時間で230万元(3912万円相当)以上」が集まったという。

 ファンクラブは提携先として韓国・済州(チェジュ)航空を選び、9~11月の専用機運航が決まった。機体のほか航空券や機内カップセットにジミンの名前や写真、「HAPPY JIMIN DAY」の文字が記された。

 この専用機が今月4日、韓国で運航を開始。ファンクラブがこの様子を微博を通じて公開したことで中国のネット上に拡散し、微博が反応したという流れだ。

 翌5日、微博は公式アカウントで声明を発表し、ファンクラブが専用機のために資金を募った行為を「違法なキャンペーン」と断定した。

「最近、キャンペーンの成果を示す宣伝用の記事が投稿された。『競って見栄を張る』よう誘発したり、誤った方向に誘導したりする内容が含まれていた」

 こう非難したうえ、ファンクラブが微博上に開設したアカウントを60日間使用禁止とし、キャンペーンに関連した書き込みも削除した。

◇「文化大革命を想起」

 さらに微博は、BTSの他のメンバーや、韓国の4人組ガールズグループ「BLACKPINK」などのファンアカウント21件に対しても、1カ月間、運用停止にした。これらのアカウントにどのような違反行為があったのかは明らかにされていない。

 一連の措置について、微博は「(自社は)ファンクラブの包括的な管理とネット文化の浄化に力を入れてきた」と主張したうえ「非理性的な有名人追っかけ行為には断固として反対し、厳正に対処する」と強調している。

 微博が措置の根拠に挙げているのが、中国のインターネット検閲当局であるサイバースペース管理局が先月25日に出した「ファンクラブ」に関する通知だ。

 そこには「ファンクラブの混沌とした問題を解決するため」として、ウェブサイトなどの運営者に▽人気に基づく芸能人のランク付けの禁止▽ファンが熱狂的にスターを追いかけることのないよう誘導する▽ファンクラブアカウントの規制▽募金活動を規制する――などを求めている。

 習近平政権は最近、思想や文化の統制を以前にもまして強化している。人気スターの存在やファンの熱狂は危険視されるようになり、芸能界を狙った締め付けも相次いでいる。共産党のプロパガンダに沿うような芸術・文化だけを許可するような風潮に対し、海外では「1960~70年代の文化大革命を想起させる」との批判も出ている。

◇「ファンは他の方法で支援続ける」

 微博の措置について、中国世論には賛否両論が出ている。

 北京在住の映像作家(24)は米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の取材に「ファンはアイドルとの架空の関係を維持するためにお金を使うよう過度に煽られている」「このクラウドファンディングは極度に熱狂的になっていて、良いことだとは思えない」と、微博の措置に対する支持を表明している。

 一方、江蘇省の大学生は「行き過ぎたファンの行動を抑制するのに役立つと思う」と話しながらも「私たちは分別を持ってスターを追いかけている。アイドルはポジティブであり、エネルギッシュな影響力を持つ存在だ。(スターを追いかけるのは)個人の自由であり、韓国のアイドルが好きだからといって、愛国心がないわけではない」との考えを伝えている。

 さらに、K-POPに詳しい台北在住のディスクジョッキーは「ファンクラブのアカウントを規制するのに、こうした禁止令が効果的だとは思わない」と指摘する。ファンの多くが検閲や使用停止を逃れるため、隠れて資金調達キャンペーンをしたり、アカウントから「ファンのページ」という文言を消したりしているといい、「(中国のファンらは)微博以外を使ったり、資金調達のための別のアイデアを募ったり、支援を続ける方法を探し出すだろう」とみている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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