中国共産党の実質的な傘下団体である「中国人権研究会」が今月9日、党機関紙・人民日報などを通じて発表した論文で、朝鮮戦争(1950~53)が「米国が発動した侵略戦争」の一覧に加えられ、疑問の声が上がっている。朝鮮戦争は北朝鮮側の南下によって始まったものであるため、中国側の意図をかんぐる声とともに「歴史のわい曲」との懸念も持ち上がっている。

◇「米国発動の戦争」7件列挙

 中国人権研究会が発表したのは「米国の対外侵略戦争は深刻な人道主義上の災いをもたらす」と題する論文で、米国批判がちりばめられている。

「1776年7月4日の独立宣言以来、240年以上の歴史の中で、米国が戦争をしていない時期は20年に満たない」

 こう主張しながら、「不完全な統計」として「第2次世界大戦が終結した1945年から2001年までに、世界153地域で発生した武力紛争248件のうち、米国が発動したものは201件、約81%を占める」と強調し、「米国が発動した多数の侵略戦争はすべて単独行動であり、同盟国からも反対されていた」と付け加えている。

 そのうえで「米国が発動した戦争」として(1)朝鮮戦争(2)ベトナム戦争(3)湾岸戦争(4)コソボ紛争(5)アフガニスタン戦争(6)イラク戦争(7)シリア内戦――の七つを列挙し、「これ以外にも代理戦争や、国内反乱の扇動、暗殺、武器弾薬の提供、反政府武装勢力の訓練などの方法で、米国はしばしば他国に干渉し、関係国の社会の安定と民衆の安全に甚だしい損害を与えた」との論理を展開している。

 続けて論文は「紛争を解決する手段として一方的に戦争をするという考え方には本質的な問題がある。人道主義は本質的に覇権主義と対立するものであり、覇権主義国が他国の人権を守ることを期待するのは『与虎謀皮』(虎に向かって皮をよこせと頼むこと=無理な相談)だ」と結んだ。

◇中国国内向けのプロパガンダか

 中国人権研究会は1993年1月に設立され、党・政府の幹部らで構成する。公式ホームページによると、中国の人権分野における中国最大の学術団体との位置づけで、国内外の人権の理論、歴史、現状を研究し、国際的な交流・協力を促進するとしている。活動資金についてホームページは「主に中国人権発展基金会の援助や団体の寄付、社会的な援助および、その他合法的収入」と強調している。

 すでに広く知られている通り、朝鮮戦争は1950年6月25日、北朝鮮の金日成(キム・イルソン)氏=のちの国家主席=率いる朝鮮人民軍が、韓国との暫定的な境界線だった北緯38度線を越えて武力侵攻したことにより始まった。米国はソウルが占領された事態を深刻にとらえて国連安保理決議を取り付け、16カ国による国連軍(韓国軍も統合)として参戦したという流れだ。

 中国側も2017年5月、中国版LINE「微信(ウィチャット)」で人民日報海外版運営のメディア「侠客島」が「もし金日成氏が朝鮮半島を統一しようとしていなかったら、どのように戦争が勃発したか」「(北)朝鮮が当時、『自分勝手に』犯した妄動の対価の大部分を、中国が支払っている」と書き、朝鮮戦争における「北朝鮮の南侵」を認めていた――と韓国の有力紙、中央日報は記している。したがって中国側がなぜ、朝鮮戦争を「米国が発動した戦争」に組み込んだのか、その理由が憶測を呼んでいる。

 そもそも、中国当局が発表するこうした「人権報告書」は、新疆ウイグル自治区や香港の人権抑圧などに対する国際社会の非難に対抗する目的で作成されるとの見方が強い。ただ、中国人権弁護士の陳建剛氏は米政府系放送局の自由アジア放送(RFA)の取材に「この論文は中国語で書かれている。したがって主に国内向けプロパガンダであり、人々を洗脳し続けるためのもの」と強調し、国内向けの宣伝扇動の側面が強いとみる。一方で韓国の学者の間では、米中対立が激化するなかで朝鮮戦争の歴史が歪曲されるのでは、と危惧する声も上がっている。