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新型兵器による挑発だが北朝鮮発表はやや控え目――苦しい国内向けには「ミサイルより経済優先」前面に

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
モニターに映し出された金正恩総書記(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮の公式メディアは26日、前日の弾道ミサイル試射について報じた。今回の発射を金正恩(キム・ジョンウン)総書記が視察した様子はなく、朝鮮労働党機関紙・労働新聞もミサイル試射より、むしろ金総書記の経済視察を大きく取り上げている。弾道ミサイル試射は日米韓を圧迫するデモンストレーションとされる。ただ北朝鮮はバイデン米政権の新政策の策定作業を注視している段階であるため、金総書記はミサイル試射に立ち会わず、挑発の度合いを下げたという見方もできる。

◇北朝鮮版イスカンデル改良型

 北朝鮮の公式報道は、国防科学院が25日、新たに開発した弾道ミサイルを試射し、成功したと伝えた。ミサイル2発は、日本海上の600km水域に設定した目標を正確に攻撃したという。今回のミサイルについて、既存の技術を使い、弾道の重量を2.5tに改良した兵器システムと表現している。

 また、今回の試射を通して▽固体燃料(安定性がよく保管が容易な燃料)を使った改良型エンジンの信頼性▽相手側の防御が困難になる「低高度を変則的な軌道で飛行すること」――について再検証したと主張した。

 試射には李炳哲(リ・ビョンチョル)書記(軍事担当)や党軍需工業部幹部、国防科学研究部門の幹部らが立ち会ったと伝えられているが、金総書記が視察したとの言及はなく、写真にも姿はない。

 報じられた写真をみると、試射に使われた弾道ミサイルは、党大会(今年1月)での軍事パレードに登場した新型の短距離弾道ミサイルに似ているようだ。

 専門家の間では「北朝鮮版イスカンデル(KN23)改良型」と呼ばれる高性能の短距離弾道ミサイルだ。通常の弾道ミサイルよりも低高度で滑空し、着弾する前に再上昇するなど変則的な軌道を描くのが特徴で、迎撃が困難といわれる。射程は600kmといわれているが、それをさらに伸ばした可能性があり、日本にとっても脅威となる。

◇労働新聞1面は経済視察

 ところが労働新聞では、弾道ミサイル発射の記事は2面で扱われ、1面は金総書記の経済視察のニュースが大々的に掲載されている。

 記事では、金総書記が「平壌の普通門周辺の川岸地区に護岸段々式住宅区を新たに建設する構想を示し、現地を視察」「平壌市旅客運輸総合企業所と平壌バス工場が新たに生産した旅客バスの試作品を視察」と伝えられている。金総書記の最側近である趙甬元(チョ・ヨンウォン)氏ら書記5人、金才竜(キム・ジェリョン)党組織指導部長、金徳訓(キム・ドクフン)首相ら、核心幹部の大部分を同行させて、経済再建に向けた意欲を前面に押し出している。

 北朝鮮の公式メディアが弾道ミサイル発射を報じたのは昨年3月30日以来であり、この時の労働新聞もミサイルは3面で報じ、金総書記の同席も伝えていない。

 今回の北朝鮮のミサイル発射は想定されていたものといえる。米国の対応いかんでは今後も挑発レベルを高めながら継続していくと考えられる。バイデン大統領は現地時間25日、今回の弾道ミサイル試射を「国連安保理決議違反」と批判。「北朝鮮が緊張を高めることを選択するなら、それ相応の対応がある」と警告した。同時に「一定程度で外交のための準備ができている。ただ、これは非核化という最終結果を条件にしたものでなければならない」と強調している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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