米韓演習批判で韓国に毒舌連発、返す刀で米国にも毒舌――金与正氏が沈黙を破った不気味なタイミング
北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は15日付で談話を発表し、米韓合同軍事演習に反発して「3年前(=南北融和が実現した2018年)の春が再び戻ってくるのは困難」と米韓を批判した。特に韓国を突き放す内容で、南北対話機構の廃止や南北軍事分野合意書の破棄まで言及する強硬姿勢を見せた。またバイデン米政権に対しても独特の表現で警告を発し、ミサイル発射などの対抗措置をちらつかせた。
◇先週末からミサイル発射の兆候
朝鮮半島有事を想定した米韓合同軍事演習は今月8日に始まり、18日まで予定されている。昨年の米韓演習に際し、北朝鮮は反発してミサイル試射を繰り返したが、今回は異例にも対応を控えてきた。北朝鮮問題の専門家の間には「演習が終わり、米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官のアジア歴訪が終わるころ、金与正氏が発言する可能性が高い」との見方が出ていた。
金与正氏はその演習終了や米長官歴訪を待たずに談話を発表して警告を発した形だ。状況次第では短距離ミサイル発射レベルの挑発行為に打って出る可能性がある。北朝鮮では多数のミサイル・砲兵基地で先週末から部隊移動など発射準備とみられる動向が韓国軍によってとらえられている。
◇南北窓口の解体も
過去、春の米韓演習では兵力を動員した野外機動訓練が実施されてきたが、米朝首脳会談などに配慮して19年以降は取りやめになっている。バイデン政権発足後初めてとなった今回も野外訓練はなく、コンピューターを使った図上演習によって連携を確認している。新型コロナウイルス感染拡大の影響などを考慮して規模も最小限となり、韓国メディアでは「北朝鮮を刺激するのを避けている」などの見方も出ていた。
だが金与正氏はこの点について「われわれは今まで、同族を狙った合同軍事演習自体に反対したのであって、演習の規模や形式について論じた時はたった一度もない」と指摘。規模を縮小し、形式を変更しても「同族を狙った侵略戦争演習であるという本質と性格は変わらない」と主張した。
金与正氏はまた、米韓演習によって韓国が「暖かい3月」ではなく「戦争の3月」「危機の3月」を選択した、と表現したうえ、韓国に向かって「自ら願わない『レッドライン』を越えるという間抜けな選択をしたと感じるべきだ」と忠告した。
そのうえで「戦争演習と対話、敵対と協力は絶対に両立しない」との考えから、今後、祖国平和統一委員会や金剛山国際観光局など、南北関係の窓口組織の解体を検討すると表明。状況がさらに悪化すれば、南北間の軍事的な緊張緩和策を盛り込んだ合意書も破棄すると警告した。
金与正氏はこれまでと同様、文在寅政権に向かって品のない表現を多用した。
「無駄口をたたくのに長けている」
「実に幼稚で鉄面皮」「ばかげた言動」「生まれつきのばかだ」
「常に左顧右眄(さこうべん=周囲の状況ばかり気にして自身の態度を決めないさま)しながら生き、判別能力さえ完全に喪失した」
◇バイデン政権に対する警告
バイデン政権高官は最近、「2月中旬にニューヨーク・チャンネル(国連代表部を通じた連絡ルート)を含むいくつかのチャンネルを通じ、北朝鮮と接触を図った」との情報を積極的に発信し、北朝鮮の核・ミサイル開発問題に取り組む姿勢をアピールしている。一方で「現時点で北朝鮮側から返答はない」とも明らかにしてきた。
この状況のなか、金与正氏はバイデン政権について「大洋の向こうで、われわれの地に火薬のにおいを漂わせたくてやっきになっている」と批判。「この機会にひと言忠告する」と前置きしたうえ、今後4年間、足を伸ばして寝たいなら、最初から眠れなくなるようなことはしないほうが良いだろう――と警告した。
バイデン政権発足以来、北朝鮮が公式的立場を表明するのは初めてとみられる。
米国については、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が今年1月の党大会で「最大の主敵」と位置づけ、対決姿勢を鮮明にしている。関係構築の前提は「米側の敵視政策撤回」と主張しており、直ちに対話に応じる気配はない。