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中国で深刻化する“ストレス若者の抜け毛”2億5000万人――毛髪めぐり密輸や人権侵害も

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
押収された密輸の毛髪=中国中央テレビのHPより筆者キャプチャー

 中国雲南省昆明の税関当局は最近、毛髪を密輸しようとした中国人グループを摘発し、大量の毛髪を押収した。中国ではストレスによる若者の抜け毛が社会問題になっており、かつらに使う毛髪の需要が高まっていることが背景にある。

◇2億5000万人が脱毛または禿頭病を経験

 中国中央テレビ(CCTV)の報道によると、昆明税関は今年1月20日、密輸グループの12人を逮捕し、毛髪246トン、1億5000万元(約16億6700万円)相当を押収した。グループは2017年2月から毛髪の密輸を始め、ミャンマーで調達し、雲南省に持ち込んで中国国内で売りさばいていたという。密輸は脱税行為であるうえ衛生上の問題もあり、税関当局は監視を強めている。

 中国ではかつらの需要が年々増加し、毛髪の輸入は2019年1~11月で1899トン、4522万ドル(約49億3666万円)に上る。ニュースサイト「中国産業情報」の報道(昨年2月)によると、毛髪の需要はこの10年で急拡大し、2009年に7億1900万元(約120億円)だったのが2019年には67億2500万元(約1123億円)に膨れ上がっている。

 背景には若年層の抜け毛の増加があるようだ。

 中国健康増進教育協会などのデータによると、強いストレスや睡眠不足、不規則な食事のため、2億5000万人の中国人が比較的若い年齢での脱毛や禿頭病(とくとうびょう)を経験している。その4分の3程度を20~30代が占めると推定され、情報技術(IT)業界での長時間の作業が大きな要因になっているという。

 また、中国では猛烈な勢いで高齢化が進んでいるため、かつらの需要が高まっているという事情もある。このほか、コスプレ文化の普及も需要拡大を牽引しているという見方もあるようだ。

◇輸出はウイグルの人権侵害がらみか

 一方、中国からの輸出は5万トンで28億3400万ドル。北米向けが42.78%を占め、アフリカ向けの27.11%と続く。ただ、毛髪の輸出をめぐっては、性質の異なる問題が潜んでいる。

 CNNテレビなど米国メディアは昨年7月、米税関・国境警備局(CBP)が東海岸の港で、美容製品13トン、約80万ドル(約8705万円)相当を押収したと一斉に伝えた。製品は中国新疆ウイグル自治区から発送されたもので、ヒトの毛髪によってつくられたとみられる付け毛やかつらなどが大量に含まれていた。CBPは、こうした美容製品が同自治区での人権侵害に絡んで製造された可能性があるとみているという。

 米メディアがこれに絡めて伝えたのは、同自治区の状況だ。イスラム教の少数民族ウイグル族の約1100万人が居住し、100万人以上のウイグル族が強制収容所で拘束されているなどだ。収容所では拷問や身体的・性的虐待、強制労働などが日常化し、死者が出ているとの報告もあるとも報じ、毛髪による製品との関連を示唆している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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