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新型コロナ初期、かの武漢周辺で80歳以上が激減――中国でやはり浮上した「死者数の過少カウント」の疑念

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
春節前の今年1月24日、武漢で親族の墓を掃除する市民(写真:ロイター/アフロ)

 米政府系放送局の自由アジア放送(RFA)は今月15日、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった武漢を中心都市とする中国湖北省で、感染が深刻化していた昨年1~3月に80歳以上の年金受給者が15万人減ったと伝えた。地元当局の資料に基づくデータとしており、当局が新型コロナの死者数を少なくカウントしていた疑いが浮上している。

◇高齢化なのに年金受給者激減「異常」

 RFAは湖北省民生当局の資料を引用して、昨年第1四半期(1~3月)に80歳(省直轄の神農架山区では75歳)以上の年金受給者の氏名が15万人以上も抹消されていると伝えた。

 RFAの取材に応じた学者を名乗る人物は、匿名を条件に「中国全域であれ武漢であれ、高齢化が深刻化しているので高齢者の数が年々増えている。だが、湖北省民生当局の資料では年金受給者が激減しており、これ自体が正常とはいえない」と論評している。

 一方、民生当局の別の資料では、昨年同時期に湖北省で営まれた火葬が41万件に上ったとしている。2018年同時期(37万4000件)や2019年同時期(36万件)と比較しても3万6000~5万件増加した計算になる。

 ただRFAは、葬儀に関する情報に関しては「当局が国家機密とみなしている」との解釈から、この「41万件」という数字の信憑性は疑問視している。

 武漢在住の非政府組織(NGO)関係者とされる人物は、RFAに対し「私は以前、(中国での)死者数を当局発表の5倍以上と考えていた。だが現状をみれば、それをはるかに上回っているようだ。しかし、現在、本当の情報に迫ろうとする者はみな捕らえられるだろう」と指摘している。

 中国政府の公式統計(22日現在)によると、武漢での死者数は3869人、湖北省では4512人、中国全域では4842人。RFA報道には、新型コロナ感染と、年金受給者数の激減や火葬件数の急増との因果関係を示す根拠は記されていない。

◇湖北省で菊が品切れ

 香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)の13日報道によると、湖北省では春節(旧正月)=今年は2月12日=に、前年の春節以降に亡くなった人の家庭を訪ね、旧正月の午前0時すぎに献花と焼香をする習慣がある。

 今年は、前年の春節以降の死者数が多く、花の需要が高まった。

 春節初日の12日、武漢中心部にある花市場には、黄色や白色の菊を求める人が多数押し寄せ、品不足になって価格が急騰したという。このため店側はカーネーションやバラでの代用するよう提案したりしたという。

 SCMPによると、花市場に市民が集まる様子を、地元テレビやインターネットメディアが「市民が旧正月を祝う買い物に繰り出していた」などと中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に投稿した。すると、ネットユーザーから「彼らは何の花を買っていたのか、説明する勇気があるのか?」「売り切れていたのは焼香に必要な花だ」「人々が真夜中にどこに行っていたのか知っているのか」などの怒りのコメントが相次いだそうだ。

 こうしたコメントは削除されたが、そのスクリーンショットは中国人研究者によって共有され、12万以上の「いいね!」がつき、2万7000以上もシェアされたという。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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