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中国が「イタリア産豚肉に新型コロナの危険性」と輸入禁止――この報道に“親中”イタリアでくすぶる反中

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
イタリアのテレビ番組の内容を伝えるRFAのウェブサイト=筆者キャプチャー

 中国が新型コロナウイルス感染拡大のリスクを理由にイタリア産豚肉の輸入を禁止したと報じられ、イタリア国内に波紋が広がっている。イタリアは先進7カ国(G7)の中で初めて中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に参加、新型コロナ感染拡大時には真っ先に中国から医療支援を受けるなど、結びつきを強めてきた。ただ、今回の輸入禁止措置でイタリア世論は硬化しており、今月13日に発足したばかりのドラギ新政権は対中政策で難しいかじ取りを迫られている。

◇「反中に押されている」

 米政府系放送局の自由アジア放送(RFA)が伝えたイタリアメディアの報道によると、同国産豚肉を積んだコンテナ2個が今年1月3日に中国の港に到着。中国税関が検査した結果、これらの豚肉に対し「新型コロナのリスクがある」と認定したという。その後、中国側はイタリア産豚肉の輸入を停止した――としている。

 こうした措置について、イタリアの農業団体が「中国は昨年12月30日に欧州連合(EU)と包括的投資協定に大筋合意したばかりだ。中国側の行動はイタリアの食品産業に深刻なダメージを与えている」と抗議の意思を明らかにし、措置の撤回を求めた。

 この問題は現地のテレビ番組でも取り上げられ、「イタリアの食肉製品は非常に厳しく包装・滅菌処理を施している」「新型コロナは貨物輸送中に伝播しようがない」「中国のやり方はイタリアの農業全体に損失をもたらす」などとする業者らの声が伝えられた。

 一方、番組では、地元政治家と中国系住民の論争も伝えられた。政治家が「中国側の主張に科学的根拠がない」と批判すると、中国系住民は「中国人の多くは“イタリアからウイルスが来ている”と言っている」などと言い、激しい非難の応酬になったようだ。

 イタリア国内での対中イメージの悪化を危惧する声が出始めている。北西部の大都市ミラノに住む中国系住民はRFAの取材に対し、「イタリア人の、特に右翼関係者の間で中国や中国系住民に対する憎悪が深まっている」と指摘したうえ「イタリアが全体として反中に押されている」と危惧している。

 この件に関して中国側のメディアを検索したが、関連報道は見当たらなかった。

◇一帯一路に参加、中国から大規模支援

 イタリアはコンテ政権時代の2019年3月、G7として初めて「一帯一路」に加わり、EU側の懸念を引き起こした。一方、その背景もあって、イタリアで新型コロナによる医療崩壊が起きた際、中国が真っ先に支援に乗り出し、昨年3月には医療チーム300人が医療物資約30tとともにイタリア入りしている。

 そのころ、EUの中でイタリアのマスク支援要請に応えた加盟国はなく、イタリアの閣僚から中国の支援を「これこそ連帯」(ディマイオ外相)と称賛する声も上がっていた。この一件は、中国が「新型コロナ感染拡大国」から「友好的支援国」へのイメージ転換を図る足掛かりともなった。

 イタリアは中国への配慮を前面に打ち出すようになり、G7の枠組みにオーストラリア、インド、韓国の3カ国を加えて民主主義10カ国とする「D10」構想が浮上した際にも、「中国を挑発しかねない」などと難色を示している。

 そんななか、イタリアで今月13日、欧州中央銀行(ECB)総裁だったドラギ氏が首相に就任。新型コロナ危機と景気低迷からの脱却に向けた政権運営を始めた。国内で反中世論がくすぶるなか、ドラギ氏がどのような対中政策を取るのか注目が集まっている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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