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アメリカならぬ中国が“国境の壁”でミャンマーやベトナムとの往来を強力制限

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国からみたミャンマーとの国境フェンス=A'Mu氏のYouTubeチャンネルより

 中国がミャンマーやベトナムとの間の“壁”を強化して国境管理を厳しくしている。新型コロナウイルスの感染拡大防止や密輸阻止を名目に、有刺鉄線のあるフェンスを国境に張り巡らせている。専門家の間には中国国内から反体制派が逃亡するのを阻止する目的もあるのでは、との推測もある。

◇ミャンマーからの新型コロナ拡大防止?

 国境の壁といえば、米国のトランプ氏が大統領選に際し公約として掲げ、実行に移したことを思い起こさせる。次のバイデン政権は壁建設中止に政策転換している。

 今、焦点が当てられているのは、中国が築きつつある“壁”だ。

 雲南省とミャンマー北部シャン州の間には、有刺鉄線のフェンス(高さ3mほど)が張り巡らされている。米政府系放送局の自由アジア放送(RFA)の報道(昨年12月)によると、フェンス建設は2020年初頭に始まり、同12月までに約660kmが完成したという。付近には監視カメラも設置され、当局が国境の様子を見張っている。新型コロナ感染が拡大する前にはフェンスの3分の1程度の高さの木製柵で国境が仕切られていた。

 共産党機関紙・人民日報系「環球時報」は、新型コロナ感染がミャンマー側から拡大するのを阻止する狙いがあると指摘している。世界保健機関(WHO)の集計によると、ミャンマーでは昨年10月から11月にかけ、感染が極端に拡大していたという経緯もある。同国での感染者は9日現在で14万1427人、死者は3177人。

 同時に、フェンスはミャンマーから中国への違法薬物流入を防ぐ目的もある。ミャンマーからの報道によると、中国との国境では数十億ドル相当の薬物が生産しているという話があり、これらが中国に持ち込まれる例が相次いでいるようだ。

 また、シャン州北部には漢民族系の少数民族コーカン族によるコーカン自治地帯がある。中国語が使われ、中国資本の支援を受けたカジノ施設なども開発されている。米当局はコーカン自治地帯では、スパやレジャーセンター、ホテルが「ギャンブルセンター」と化しているとみる。コーカンでギャンブルするために不法に越境する中国人も少なくなく、これを阻止するという説明もある。

 さらに、中国では一人っ子政策の影響で独身男性が数千万人単位で存在し、結婚相手を求めているそうだ。このため、ミャンマーから人身売買で女性が連れてこられる例もあるとされる。

◇ベトナムでは人身売買防止も

 中国国営新華社によると、中国・ベトナム国境では北崙河に沿って、有刺鉄線で覆われた高さ4.5mの鉄柵が12kmに及んでいる。2012~17年、2900万ドル(30億3224万円程度)かけて建設され、今後も拡大される予定。麻薬密売などを防ぐのが目的とされる。

 中越国境を跨いだ違法行為は、中越戦争(1979年)終結以降、両国の懸念材料となっている。特に現地の政府職員や治安部隊が黙認するなか、両国のブローカーがミャンマーと同様、ベトナム人女性の人身売買などを繰り返しているという。

 オーストラリア公共放送ABCの2018年報道によると、毎年少なくとも100人程度のベトナム少女が中国で見つかり、ベトナムのラオカイ省に送還されている。行方不明になっている少女はそれ以上の人数といわれる。

 環球時報によると、中国側は最近の鉄柵建設について、新型コロナ防止に向け不法越境者を食い止める目的だったと説明している。とはいえ、WHOによると、ベトナムの感染者数は9日現在で2053人、死者も35人。中国で感染者10万1363人、死者4831人に比べれば格段に少ない。

◇ウイグル族もターゲットか

 中国当局が建設する“壁”のターゲットには、中国からの脱出を図る人たちを取り締まる目的もあるかもしれない。

 ベトナムやミャンマー、ラオスは、中国新疆ウイグル自治区からの脱出を図るウイグル族がタイに不法入国する際に経由する国でもある。ただタイ当局は「発見次第、中国に強制送還する」という立場を取っており、人権団体やウイグル族組織から人道上の配慮を求める声が起きている。

 雲南省からラオスを経由してタイに入るルートは、かつて北朝鮮からの脱出住民(脱北者)の亡命脱出ルートとしても知られていた。中国に潜伏する脱北者は不法越境者であるため、中国当局は摘発すれば北朝鮮に強制送還している。だが、国際社会から「人権無視」などの批判を受けてきたため、中国当局は2000年代後半、北朝鮮との国境の一部に有刺鉄線のフェンスを設け、北朝鮮住民の流入そのものを防いでいる。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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