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新型コロナ告発/訓戒/死亡の中国人医師のアカウントが聖地化?――今も数分ごとに続く大量のコメント

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
コメントが続く李文亮氏の微博アカウント=筆者キャプチャー

 新型コロナウイルスの危険性に警鐘を鳴らして中国当局の処分を受けた中国湖北省武漢市の医師、李文亮氏が昨年2月7日に亡くなって以後も、残された中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」のアカウントには今も、数分ごとにコメントが寄せられている。李文亮氏に語りかけるような内容から、コメント筆者の身辺雑感まで、雑多な内容だが、当局に対する批判は見当たらず、アカウントそのものが監視下にあるもようだ。

◇「李文亮氏は『内部告発者』ではない」

 李文亮氏を含む一部の医師らは一昨年12月に「原因不明の肺炎」を確認し、中国版LINE「微信(WeChat)」で医学生時代のクラスメート100人以上に「武漢華南海鮮卸売市場で重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生した」と通知した。

 武漢市の公安当局は昨年1月3日、李文亮氏を呼び出し「ネットにデマを流して社会秩序を大きく混乱させた」などとする訓戒書にサインをさせた。李文亮氏は新型コロナに感染して同2月7日未明に亡くなった。

 インターネット上で李文亮氏を讃える意見とともに、中国当局批判が噴出。その反響の大きさに驚いた当局は一転、李文亮氏を英雄扱いするようになった。同3月6日に「新型コロナ防疫先進個人」の称号▽同4月2日には「烈士」の称号▽同月20日には第24期「中国青年五四メダル」――を矢継ぎ早に授与した。

 さらに、中国外務省は昨年7月2日、「中国の人権問題に関する各種の誤謬と事実真相」という文章を発表し、その中にあえて李文亮氏に関する項目を設けている。

「李文亮氏は『内部告発者』ではない。こう留されたこともない。優秀な医師であり、中国共産党員でもある。体制に抗う『英雄』『覚醒者』などのレッテルを張るのは、李文亮医師や彼の家族を軽蔑することであり、不道徳な政治的操作だ」

 こう記して、李文亮氏をめぐる当局対応への批判の封じ込めを図っている。

◇当局批判は見当たらず

 李文亮氏は亡くなる6日前の昨年2月1日午前10時41分、次のような文章を書き残している。

「本日、検査結果が陽性と出ました。決着を見ましたね。ついに感染確認です」

 この文章がその後も残され、これにコメントが書き込まれるようになった。

 最近のコメントをみれば――。

「最近は何でもかんでも陽性反応が出るようになってきましたが、この生活は続くのでしょうか?」

「李先生、生活がとてもしんどいです。もういやだ」

「李先生、私ね、国家の呼びかけに応えて、今年は帰省しません。でも帰りたいです。バレンタインデー当日、当直です」

「李先生、公務員試験、ダメだったようです」

「李先生、また金曜日が来ました。天気はとてもいいです」

 李文亮氏に語りかけるようなものから、「故郷で旧正月を過ごしたい」「宿題をしなければ」など、身辺雑感を記しているものもあり、その内容は多種多様。コメントは今も数分ごとに書き込まれていて、その数は「100万+」と記され、カウントができないほどだ。

 コメントは、昨年1月31日や同月12日に李文亮氏が残した文章にも続々と書き込まれている。さかのぼって内容を確認しても、中国当局に対する批判は見当たらない。

 世界保健機関(WHO)の28日の集計によると、中国の感染例は10万548人、うち死者は4818人。

 国際的な専門家10人からなるWHOの調査チームが今月14日、武漢に入っている。2週間の隔離を経て、新型コロナ感染拡大に関係した海鮮卸売市場や研究機関、病院などでの聞き取りを進め、発生源特定の手がかりを探る。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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