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米国のようにはならない――民主主義国の混乱を横目にハイテクで強化する中国の大衆監視システム

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
香港の林鄭月娥行政長官(左)と習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ米大統領支持者の連邦議会議事堂乱入など米国で度重なる混乱が伝えられるのを横目に、中国は香港での統制や新疆ウイグル自治区での監視をさらに強化している。習近平国家主席は最近開いた研究会で、10項目の重点事項を示し、党支配と国家の安全を強固にするよう強く指示した。

◇国家安全保障において重視すべき10項目

 党政治局は先月11日、中国の安全保障に関する研究会を習主席が主催する形で開いた。この時、習主席は全体的な国家安全保障の枠組みの構築を求めるとともに、重視すべき10項目を挙げた。

 簡略化すれば、次のようになる。

(1)あらゆる面で党の絶対的な指導力を維持する

(2)中国の特色ある国家安全保障の道を堅持。国家主権と領土保全を守り抜き、重大な安全保障上のリスクに警戒して取り除き、中華民族の偉大な復興の実現のため強力な安全保障を提供する

(3)人民を国家安全保障の基本的な力とみなし、力を結集するよう求める

(4)質の高い開発と、高度な安全保障の効果的な相互作用を実現する

(5)政治の安全保障を最優先する

(6)伝統的安全保障(領土保全や独立を脅かす脅威に軍事力で対応)と非伝統的安全保障(非軍事的な脅威への政治的・経済的・社会的な対応)に総合的に取り組む

(7)国家安全保障上のリスクを先読みし、予見能力を高める

(8)国際的な安全保障強化で協力し、グローバルな安全管理システムを完全なものとする

(9)科学技術の活用能力を向上させる

(10)幹部チームの強化を続ける

 中国政治の最優先課題は共産党支配の維持であり、国家安全保障においてもこの方針が貫かれている。

 上記の10項目に従えば、例えば▽党と対立を続ける新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル族▽言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由などが保障された「高度な自治」を求め続ける香港の民主派勢力▽新型コロナウイルス発生源に関する真相究明を求めるジャーナリスト――らが取り締まりの対象となる。自由と民主主義の浸透した国では権利が認められるような人たちが、中国では国家安全保障上の脅威とみなされる。

◇米国とEUの退潮と世界的な経済恐慌が迫る

 この研究会で注目されたのは、国家安全省のシンクタンク「中国現代国際関係研究院」の袁鵬院長が参加した点だ。袁院長は長年、米中関係、アジア太平洋の安全保障などについて研究を進めてきた人物。こうした研究会に米中関係の専門家が出席したのは初めてといわれた。

 米ブルームバーグ通信によると、袁院長は昨年6月発表の論文で、新型コロナウイルスの世界的大流行を経たあとの新たな世界秩序の概要を示したうえ「米国と欧州連合(EU)の退潮と世界的な経済恐慌が迫っている」と主張していた。「新型コロナのインパクトは世界大戦に劣らない」と指摘し、外部による攻撃に対処するため、国家安全保障を最優先に構える必要があると主張したといわれる。

 その過程で「中国が進める科学技術主導の大衆監視モデルは、欧米の民主主義に勝る」と述べ、監視社会づくりを進める党の方針を強く支持していた。

◇ウイグル族識別の高度システム

 中国での監視システムは急速に強化されているようだ。

 映像監視とセキュリティに関する米調査会社「IPVM」は先月16日、中国電子商取引(EC)最大手のアリババ集団がウイグル族を識別する顔認識技術を開発し、「公然と提供している」と発表した。

 インターネット上の有害情報を監視するアリババのシステムに、ウイグル族を識別できるソフトが含まれていると警告しているのだ。

 同社の研究者は「このシステムを使ったウェブサイトでウイグル族が動画をライブ配信すれば、ソフトはウイグル族であると検出し、動画を削除したりするための印をつけたりできる」と指摘している。

 アリババ側はこのシステムについて「ポルノ、政治、暴力テロ、広告、迷惑メールを含むテキストや画像、動画、音声を検出・認識するシステム」などと説明しているそうだ。

 IPVMは今回の発表の際、中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」(英語版)の記事を引用している。同紙は2018年4月16日の段階で、中国規制当局に協力する業者が高度な人工知能を使った機器を導入していると紹介しながら「最高指導者の名前のような“敏感な言葉”が悪い意味で使われているかどうか、そのニュアンスを分析できる。不適切だと判断されれば削除できる」という。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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