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韓流タレントにいら立つ中国共産党――それでも「韓国人は中国に文化的な劣等感がある」と上から目線の分析

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国が問題視した韓国のテレビ番組の一場面=韓国・ソウル経済より筆者キャプチャー

 中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」は16日、韓国発で「韓国の芸能界はなぜ中国にちょっかいを出し続けるのか?」という文章を発表した。韓流スターらが中国側の神経を逆なでするような言行を繰り返していることへの強い不満を表明したもので、韓国側に皮肉をまじえながら警告を発している。

◇「キャラクター名はマオでどう?」「中国は空気が悪い」

 環球時報によると、韓国の人気バラエティ番組「Running Man」が最近、中国国旗と台湾旗を並べたゲームボードを使用したことで、中国のネットユーザーから強い不満の声が上がったという。中国にとって台湾は自国の一部であり、台湾が「国旗」とみなす「青天白日満地紅旗」の使用には神経を尖らせている。台湾旗の話は中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」上で広まり、検索リストに何度も出てくるようになったそうだ。

 また環球時報がやり玉に挙げているのが、韓国人歌手のイ・ヒョリさんとファン・チヨルさん。

 イ・ヒョリさんは今年8月、バラエティ番組で「まだ(自身の)キャラクター名を決めていないが、グローバルに活動することを視野に入れて、中国名のマオはどう?」と冗談まじりに語った。すると、中国のネットユーザーが「建国の父である毛沢東」(中国語で「毛」は「マオ」と発音)をあざけている、として反発の声が巻き上がった。この点について、環球時報は「中国のアーティストが(抗日の英雄とされる韓国の)『李舜臣』や(ハングルを作り出した韓国の)『世宗大王』のような芸名を名乗ったら、韓国人はどう感じるだろうか」と抗弁した。

 またファン・チヨルさんは昨年、韓国のラジオ番組で「中国の空港に降りると、前がまったく見えないほど空気が良くなかった」「空気は悪く、水の味も違ったが、決まった日程をすべて消化した」と発言した。ファン・チヨルさんは2016年、中国湖南テレビ「我是歌手」に出演して中国国内で人気が沸騰した経緯があり、中国のネットユーザーは「今後、中国に稼ぎに来ないで」などと攻撃した。

 環球時報は「韓国の芸能界では『Running Man』のように政治の問題で中国の限界ラインに触れたり、イ・ヒョリさんやファン・チヨルさんのように不適切発言をしたり、中国関連の出来事が頻発し、物議を醸している」と指摘した。

 加えて、韓国のコメディアンのイ・スグンさんが広東語をまねた芸を披露する点も問題視して「中国を“からかう”ことは、時に一線を越え、中国を侮辱しているとさえ疑われるようになる」と警告している。

◇「中国を笑いやあざけりの対象に」

 東アジアの国である中国と韓国は、ポップカルチャーの分野では長年にわたり密接な関係を築いてきた。なのに、韓国の芸能界ではなぜ、中国人を不快にさせ、嫌悪感を抱かせるような出来事が繰り返されるのだろうか――環球時報はこう疑問を呈している。

 同紙は韓国紙・東亜日報の報道として次のような文章を引用し、批判している。

「チャン・ナラさんやイ・ジョンヒョンさんら中国進出アーティストが、韓国に戻ってから、バラエティショーで、中国での経験を笑いのネタのように使っている。“中国を見下す”という韓国人の潜在意識に根ざしている」

 韓国の芸能人の多くが若くしてデビューし、練習に明け暮れている。文化・知識が十分ではなく、善悪の感覚が確立されておらず、彼らの考え方や認識の大部分は事務所によるものだ。“周囲はこう言っている”“社会の空気はこうだ”と。それゆえ、ある種の話題について正確に把握しているわけではなく、失言が時に起こる――環球時報はこんな分析を掲載している。

 中国芸術研究院の孫嘉山副研究員は同紙の取材に「一部の韓国の番組や芸能人たちが、中国を笑いやあざけりの対象と考えている」と指摘したうえ「ある程度は文化的な劣等感の現れであり、集団的な感情が反映されたものでもある」との見解を示している。

 韓国政府が2017年、北朝鮮のミサイルの脅威に備え、中国の反対を押し切って、最新鋭迎撃システム「終末高高度防衛(THAAD)ミサイル」配備を認めた。それ以来、中国で韓国企業は激しい圧力を受けるとともに、韓国での中国市場への注目度も低下し、中国での韓流熱も大きく冷え込んでいる。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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