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「新型コロナ拡大の責任」伏せて中国が事実上終息宣言――「習主席の功績」「党・国の成果」自画自賛の連発

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
人民大会堂で開かれた表彰式=CCTVのウェブサイトより筆者キャプチャー

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった中国で8日、感染防止に貢献した科学者らへの表彰式があり、習近平国家主席は「中国が戦略的成果を収めた」と述べ、事実上の終息宣言をした。これにあわせ、共産党機関紙も「習主席の功績」「党や国の成果」と自画自賛した。だが初動対応に関する検証は進んでおらず、国際社会の不信感は募るばかりだ。

◇「中国の精神と力を示した」

 国営新華社通信によると、式典は北京の人民大会堂で開かれ、共産党指導部メンバー全員が出席。新型コロナ抑制に貢献した感染症研究の第一人者、鍾南山氏らを表彰したあと、習主席は約1時間にわたって演説した。

「新型コロナは、この100年の間に世界で発生した最も深刻な感染症の大流行であり、新中国成立以来、最も感染の範囲が広く、最も抑制の難易度が高い、重大で突発的な公衆衛生事件だ」

 こう位置づけたうえで、次のように自画自賛した。

「この8カ月余りの間、わが党は、全国の各民族の人民を団結させ、手に汗を握るような防疫の戦いを繰り広げた。言葉にできない困難な歴史的試練を受け、多大な努力を払って、新型コロナとの戦いで大きな戦略的成果を上げた。人類の疫病との戦いの歴史における新たな英雄的な偉業を生み出した」

「新型コロナにおける中国の戦いは、中国の精神、中国の力量、中国の責任というものを十分に示した」

 米国をはじめとする国際社会が新型コロナ感染と格闘するのを横目に“勝利宣言”“戦略的成功”を誇示することで、中国の社会制度の利点と、習主席の指導力を内外にアピールする狙いがある。

 中国当局の発表では、中国の感染者は9日現在431人。新規感染は抑え込まれている。累計9万582人で、8万5411人が回復し、4740人が死亡している。当局は、新型コロナ感染が散発的に発生しても即座に対応できると考えており、月内にも新型コロナ感染拡大以前の状態に戻すという計画を立てているようだ。

◇武漢封鎖も習主席の重大な決定

 党機関紙・人民日報は式典に合わせ、8日付1面を使って、中国や党の優位性、習主席の対処能力の高さ、その成果を集中的に取り上げている。

 トップ記事の「破壊されない強い力を集めよう」では、14億人を抱える中国が新型コロナ拡大を制御できた背景には、党の指導力と、中国の社会主義体制の優位性があったためだと強調している。

 社説は「新型コロナとの戦いが民族復興の新たな精神的記念碑を打ち立てた」と指摘し、民族の優位性にも言及。そのうえで、ここでも自画自賛を繰り返している。

「感染との戦いにおいて、国際社会は中国の『強力な動員力と実行能力が、重要な瞬間に、余すところなく示された』点を見て、『中国のやり方は、感染症との戦いの世界史に模範として取り入れることができる』と賞賛した」

 さらに「重要な瞬間に重要な選択――習近平(党)総書記による武漢封鎖の重大な決定」という見出しの記事では「封鎖」が新型コロナ拡大を効果的に遮断するための習主席の決定的措置だったと評価した。

 紙面では新型コロナをどう克服したのかという物語や国民の忍耐力の高さなども表現されている。ただ、それが可能だったのは、あくまでも習主席の高い指導力があったからである――という論調で貫かれている。

 中国は初動対応に関する国際検証に十分な形で応じることなく、「終息宣言」により幕引きを図ろうとしている。また、この段階での「宣言」を疑問視する声もある。

 中国は5月下旬に全国人民代表大会と人民政治協商会議を開き、6月には白書まで発刊して「大きな戦略的成果を挙げた」「ウイルス拡散の勢いは抑え込んだ」と打ち上げた。

 ところがそのわずか数日後には北京最大の食品卸売市場「新発地」で集団感染が発生した。「第2波」といわれ、中国当局者の口から「成果」に関する言及が突然消えたという経緯があるためだ。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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