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韓国高官がNZでセクハラ疑惑も「同性を触っただけ」言い逃れ。切れたNZ首相が文在寅氏に「捜査しろ!」

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
韓国外交官のセクハラ疑惑を報じるニュース・ハブのウェブサイト=筆者キャプチャー

 韓国外交官の男性が海外勤務時に現地職員の男性にセクハラをした疑惑が、首脳会談で取り上げられるという異例の事態に発展している。韓国では近年、有力政治家によるセクハラが頻発して社会問題化しているが、同性間のセクハラには意識は高くないようだ。そこに文在寅政権の「身内への甘さ」も重なって、対応が後手に回っている。

◇NZ首相が態度を硬化

 きっかけは7月25日のニュージーランド「ニュース・ハブ」の報道だった。

 それによると、韓国外交官のキム・ホンコン氏が駐ニュージーランド大使館に勤務していた2017年、現地職員のニュージーランド人男性の体を触るなど、3度にわたるセクハラ行為をした。現地警察が同年12月、わいせつ行為などの疑いで捜査に着手し、大使館内の防犯カメラ映像提出と現場での調査を求めた。だが韓国側は外交特権の「公館不可侵」を理由に拒否。結局、キム氏は取り調べを受けないまま、翌18年2月、任期を終えて韓国に帰国した。

 韓国紙・朝鮮日報によると、韓国外務省が独自に聴取したところ、キム氏は「体の一部をポンポン叩くという程度で接触した」「同性による接触であり、性的な意図はなかった」と述べ、セクハラ疑惑を否定した。同省はこの弁明の多くを受け入れ、減給1カ月の処分にして事態を収拾させた。キム氏は外交官としての活動を続け、現在はフィリピン総領事の要職にある。

 一方、ニュージーランド側は態度を硬化させ、現地警察は今年2月、キム氏の逮捕状を取った。

 さらにアーダーン首相が7月28日、文在寅大統領と電話で会談した際、この問題に言及するという異例の行動に出た。アーダーン首相は文大統領に捜査協力を求め、「事実関係を確認して処理する」という回答を引き出した。

 この事態に、韓国内では「首脳会談でセクハラ問題に言及されるとは、韓国外交の恥だ」との声が上がった。韓国外務省は8月3日、キム氏に帰国を指示するとともに、外交特権を維持しながらもニュージーランド側の要求に応じる意向を示した。

 韓国紙・中央日報は「大使館側が『防犯カメラ映像を自発的に提出する』という形での捜査協力もできた。そうすれば『韓国大使館が性犯罪者を保護している』という現地の非難も出なかった」として大使館の対応を批判している。

 朝鮮日報によると、性関連の不祥事で懲戒処分を受けた外務省職員は、文政権下で14人に上る。

◇同性間セクハラは問題視されにくく

 韓国では大物の与党政治家によるセクハラ事件が相次いでいる。

「ポスト文在寅」の最有力候補の一人だった安熙正氏は、忠清南道知事時代の2017~18年、秘書の女性に繰り返し性暴力を加えたことが判明して辞任。実刑判決を受けた。

 かつて盧武鉉政権で閣僚を務めた呉巨敦・釜山市長は女性職員へのセクハラ行為をとがめられ、今年4月に辞職した。

 さらに次期大統領候補とも取りざたされた朴元淳ソウル市長も、秘書の女性から性的嫌がらせを繰り返し受けたと告訴され、7月に自殺した。

 韓国では安熙正氏を巡る騒動と同時期、女性検事が法務省幹部から受けたセクハラを実名で訴え出たことを契機に、被害女性によるセクハラ告発運動「#Me Too」が起こり、芸能界や宗教界、大学、航空会社でも告発が相次いだという流れがある。

 一方で、同性間のセクハラについては「軽い身体接触」「いたずら」と考える傾向があり、「これを問題提起するのは容易でない」(7月29日・アジア経済新聞電子版)という事情がある。同紙は、職場での同性間のセクハラ被害は女性よりも男性のほうが深刻▽被害者が男性である場合の加害者は、男性86.4%、女性13.6%――という調査結果を伝えている。そのうえで「被害者がどう感じたか」が重要であり、いたずらの意図であっても相手の性的羞恥心を害する行為であれば、性暴力として処罰すべきだと訴えている。

 朝鮮日報によると、ニュージーランドは05年の段階で同性カップルにも法的権利を認める制度を導入し、13年には同性婚を合法化したという。国内法も「性犯罪は性別には無関係」とみなすほど意識は高い。今回のセクハラの遠因について、同紙は「これほど大きな事態になったのには、外務省が(男性が男性に対する)こうしたセクハラを深刻に受け止めていなかったため」と断じている。

 もう一つ問題点として浮上したのは、文在寅政権の身内に対する甘さ。

 最近、文政権をめぐっては▽寄付金使途などを巡り疑惑をかけられる元慰安婦支援団体の前代表、尹美香議員に対する捜査▽秋美愛法相の息子が兵役中に休暇を取ったまま復隊しなかったとされる疑惑――など、政権に近い人物が関わった事案に進展のない状況が続いている。

 ニュージーランドの件も、保守系メディアは「身内をかばう形で片付けようとして世界に恥をさらした」と厳しく指弾している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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