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北朝鮮で流行しているらしい“金正恩スタイル”――かつてはあの髪型、今は白いシャツとグレーズボン

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
YouTube「NEW DPRK」が22日アップした動画=筆者キャプチャー

 北朝鮮で25日に開かれた朝鮮労働党政治局非常拡大会議では、党政治局委員や委員候補ら最高幹部の大半が、金正恩委員長に合わせるように真っ白なジャケットを着用して討論に参加していた。金委員長が数年前から「真っ白」な服装を愛用するようになり、これに感化される形で「白」が北朝鮮で流行しているようだ。

党会議では幹部の大半が真っ白なジャケットを着用している=「朝鮮の今日」より筆者キャプチャー
党会議では幹部の大半が真っ白なジャケットを着用している=「朝鮮の今日」より筆者キャプチャー

◇白いシャツとグレーのズボン

 北朝鮮当局が運営するYouTubeアカウント「NEW DPRK」は22日、平壌のファッションを紹介する動画をアップした。

 案内役の女性はまず「ことしの夏、人々の装いが大きく変わりました」「その流行は、これまでに比べると、明るく、華やかになりました」と特徴を述べた。

 動画では、真っ白なシャツを着た多数の男性の映像とともに、案内役が「特に男性の服装が目を引きます。これまで黒っぽい服を好んできた男性たちの間で、今年は白色が流行しています」と解説している。

 案内役は平壌にある「鍾路洋服店」を訪ね、店内に展示された服を次々に紹介している。その中で、白いシャツとグレーのズボンを取り上げながら案内役は「(これらを)一緒に着用すれば、パッと見ても、清潔であり、端正であり、洗練されているようにみえる」とたたえたうえで「このスタイルは男性の間で一つの流行となっています」と語った。

 この上下のスタイルは金委員長の装いを連想させる。金委員長は普段、黒っぽい人民服を愛用するが、夏場には時々、この白とグレーを着用する。

 筆者が2012年以降の金委員長の映像や写真を確認してみると、14年6月27日に報道された「戦術誘導弾の試射を視察」の際、金委員長は真っ白な半そでのシャツを着用していた。その後も年に数回、真っ白な半そでやジャケット姿で現地指導などに出向いている。

「NEW DPRK」の動画では、女性の装いの変化にも焦点が当てられている。案内役は「女性たちの服装も昨年に比べて今年は大きく変化しました」と伝えている。「これまで夏にはワンピースや短めのスカートが主流でしたが、今年は長いスカートが流行しています。色も昨年より華やかでカラフルになっています」と述べ、女性の間でも明るい色彩が好まれている点を強調した。

◇独特の「覇気カット」の流行も

 北朝鮮では金委員長のスタイルが流行となることが少なくない。かつて金委員長の独特のヘアスタイルを真似る北朝鮮男性が相次いだのがその一例だ。

演説する金正恩委員長=「朝鮮の今日」より筆者キャプチャー
演説する金正恩委員長=「朝鮮の今日」より筆者キャプチャー

 金委員長の髪型は、両サイドから後ろを刈り上げてオールバックにする。“覇気を感じさせるスタイル”という意味から、北朝鮮では「覇気カット」「覇気ヘア」などと呼ばれている。

かつて金委員長の「覇気カット」もブームに=朝鮮新報のウェブサイトより筆者キャプチャー
かつて金委員長の「覇気カット」もブームに=朝鮮新報のウェブサイトより筆者キャプチャー

 かつて在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)機関紙の朝鮮新報は2014年3月1日付の平壌発記事で「覇気カットが、流行に敏感な大学生の間でブームになっている」と伝えた。

 同紙の取材に答えた金策工業総合大の学生は「社会主義文明国の建設を指導される指導者の風貌を真似ている」と述べ、忠誠心を前面に押し出した。また地元理容師は同紙の取材に「このスタイルが、若者だけでなく中高年にも波及し、社会の一つのブームになっている」との見解を示している。

 同紙は「短髪にすれば、衛生学的にも良く、常にきれいに整えることができ、見る人にも爽快感を与える」と分析し、金委員長の髪型を高く評価している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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