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核技術者90人「集団同時辞職」に中国政府が動揺――副首相主導で調査チーム

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
集団辞職への実態調査を伝える中国科学院の公式ウェブサイト=筆者キャプチャー

 中国の最高研究機関である中国科学院所属「原子力安全技術研究所」の研究者90人が最近、同時に辞表を出し、中国国内で騒動になっている。報告を受けた劉鶴副首相が実態把握に乗り出し、政府主導の調査チームが派遣され、現地は緊張に包まれている。

◇「核安全技術研究所」半数近くが辞表

 中国メディアによると、原子力安全技術研究所は、安徽省合肥の中国科学院「合肥物質科学研究院」傘下。原子力安全技術研究所の職員の半数近い90人以上(大半が30~40代)が6月に辞表を出し、既に退職しているという。多数が「博士級研究者」。職員側は辞職理由について明らかにしていない。

 中国メディアは▽政府が出した研究課題が中断され、人員が削減された▽待遇に不満を抱いた人たちが民間企業に転職した▽研究所の改革と内部紛争――などの説を伝えている。内部関係者の証言には「(研究者が)追い出された」というものもある。

◇調査レベルを格上げ

 合肥物質科学研究院には、原子力安全技術研究所のほか、光学精密機械研究所▽プラズマ物理学研究所▽スマート機械研究所――などがあり、核融合や環境技術、人工知能ロボットなどの分野で中国の国家級の研究を手掛ける。「中核技術」に関わる人材を300人余り抱えるという。

 大勢の辞職を受け、当初は中国科学院レベルで調査チームを構成していた。だが、研究者が核関連ということもあり、中国政府は数日もたたないうちに、副首相が主導する形に格上げし、合同調査チームを現地に送るなど実態把握に乗り出した。

 中国科学院も21日、公式ウェブサイト上で「劉副首相が中国科学院の報告を受け、政府や科学技術省、中国科学院などによる専門チーム設立を求め、近く中国科学院合肥物質科学研究院に赴いて、従業員の辞任について詳細に調査する」と伝えている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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