「北朝鮮の新型コロナ対策を共有したい」アフリカ・ナイジェリアの大胆な申し出

サインする北朝鮮の全銅哲大使=ナイジェリア政府のウェブサイトより筆者キャプチャー

 西アフリカのナイジェリアは6月中旬、新型コロナウイルスによる感染拡大防止に向け、北朝鮮と医療・保健関連の覚書を交わした。両国は友好関係にあり、ナイジェリア側は医療分野で「北朝鮮の経験を共有したい」と望んでいる。北朝鮮はそもそも医療・保健体制が劣悪であるため「隔離措置」を除く感染症対策は困難とされ、両国の医療交流が奏功するか疑問視されている。

◇伝統的友好国

 ナイジェリア政府のホームページによると、同国のエハニレ保健相と北朝鮮の全銅哲・駐ナイジェリア大使が6月17日、首都アブジャで会談し、両国間の医療・保健関連の覚書にサインした。

 席上、エハニレ氏は「北朝鮮との協力におけるナイジェリア側の関心分野は、公衆衛生と初歩的な医療の分野」と表明し「新型コロナウイルス感染が拡大する状況において急務である」と訴えた。そのうえで、北朝鮮側に「我々は、あなた方の経験や、医療技術がとても貴重なものだと考え、共有したい」と申し出た。

 世界保健機関(WHO)によると、ナイジェリアでは28日時点で2万4077人の感染が判明し、558人の死亡が確認されている。

 ナイジェリアはアフリカ最多の約2億人(2019年推定)の人口を抱え、世界で最も多くの貧困層がいる。住民が密集して暮らす地区もあり、感染が知らぬ間に急激に拡大している可能性がある。保健省は6月8日、同国北部のカノ州で979人が相次いで亡くなり、うち500人程度が新型コロナウイルス感染で死亡した恐れがあると発表している。

 アフリカには北朝鮮と良好な関係を結んでいる国が多く、絶対的に不足する医療スタッフを北朝鮮からの医師らによって補ってきたという事情がある。一方で、アフリカの一部の国は国連制裁を順守する立場から北朝鮮医師らを強制退去させているとの情報もある。今回の覚書の背景には、医師不足を解消したいナイジェリアと、医師の派遣先を確保したい北朝鮮の、双方のニーズが一致したことがあるようだ。

◇医療交流で外貨稼ぎ

 北朝鮮医師に関連し、筆者が2013年ごろに取材した北朝鮮指導部に近い関係者はこんな話をしていた。

「(北)朝鮮では医学大学の卒業生があふれている。社会主義だから医者の待遇は良くなく、無償治療が基本であるため収入は高くない。だから、診療の優先順位を変更したりすることで賄賂をもらったりしている」

 医療器具は未発達で、専門性の高い医師も少ない。このため北朝鮮保健省が外国に医師を派遣する際、その対象国には「通常の診察に加え、歯科から耳のマッサージまで総合的な医療のできる人材」として売り込むという。

 北朝鮮当局は医師派遣に関しても建設労働者らと同様に「外貨稼ぎ」の手段と位置付けている。「各国が医師一人当たり月額1200~1300ドル(約13万~約14万円)を出せば医師には400ドル(約4万2900円)が分配され、残りは北朝鮮当局と仲介者が折半する仕組み」(同関係者)という証言もある。ただ医師の側にもメリットはあるようだ。

「(アフリカ南部の)アンゴラで働いている医師は『正規の診療時間が終わったあとが本当の仕事だ』と言っている。勤務後、個別に診療に赴いて稼ぐので、収入は表向き『数百ドル』程度だが、実際にはその3~4倍はある」

 ところで、アフリカの一部の国では、北朝鮮医師らが問題を起こして追放された事例がある。

 米政府系放送局の自由アジア放送(RFA)によると、タンザニアで2017年、北朝鮮医師が偽物の薬を使用し、患者に深刻な副作用が出たという。不法滞在が発覚した例もあり、タンザニア政府は国内に13カ所あった北朝鮮系の病院をすべて閉鎖したという。

 北朝鮮医師が暴漢のターゲットにされることもある。

 ナイジェリア北東部ヨベ州ポティスクムで2013年2月、同州と北朝鮮が締結した交流プログラムによって派遣されていた北朝鮮医師3人が惨殺された。捜査当局は、北東部を中心にテロを繰り返していたイスラム過激派ボコ・ハラムによる犯行の可能性が高いと見て捜査していた。

 アフリカでは北朝鮮医師が犯罪被害に遭う例が少なくなく、「報道されないだけ」(指導部に近い関係者)という状況のようだ。