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「新型コロナの真相調査を!」叫ぶオーストラリアに中国がちらつかせる“制裁”

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
29日の記者会見で発言するモリソン豪首相=ABCのウェブサイトより

 新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、中国とオーストラリアの間に険悪なムードが漂う。新型コロナウイルスの起源を調べるための独立調査機関の設立を呼び掛けるオーストラリアに対し、中国は経済的圧力をちらつかせて封じ込めを図っているためだ。ただ国際社会では中国の責任を問う声が日増しに強まり、包囲網の拡大に中国は危機感を募らせている。

◇中豪の激しい応酬

 オーストラリアの公共放送ABCによると、ダットン豪内相は4月17日のテレビ番組でこう主張した。

「米国は『新型コロナウイルスに特定の経路あるいは起源があることを示す証拠を持っている』と言っている」

「何が起きたかを正確に理解して再発を防止するためにも、中国にはこうした(新型コロナウイルスに関する)疑問に答え、情報を提供する義務があると思う」

 さらにペイン外相も19日のABCの番組で「(中国の透明性への懸念が)非常に高まっている」と指摘したうえ、発生源▽どう対処したか▽世界保健機関(WHO)とどのようなやり取りをしたか――などのすべてをテーブルに乗せて検証する必要があると訴えた。

 これに対し、中国が激しく反発した。

 外務省の耿爽副報道局長は20日の定例記者会見で「ペイン外相の発言は事実に基づくものではない」と反発。駐豪大使館報道官は21日にウェブサイト上で「オーストラリアの一部政治家は最近、中国を攻撃する米国側の主張をオウム返しのように述べている」と皮肉った。

 さらに成競業駐豪大使は27日付の豪紙のインタビューで「中国国民は、今のオーストラリアに失望し、動揺し、落胆している」と指摘し、豪州産ワインや同国への旅行のボイコットにつながりかねないと言及し、経済的圧力を前面に押し出した。

 また共産党機関紙・人民日報系「環球時報」の胡錫進編集長は28日に中国版ツイッター「微博」上でオーストラリアを取り上げ、「中国の靴の裏にくっついたチューインガムのようだ。時には、それを取り除くための石を探さねばならない」と侮辱した。

 そもそもオーストラリアと中国は緊張関係にある。オーストラリアは同盟国・米国とともに太平洋諸国の盟主として周辺国の援助を担って存在感を維持してきたが、近年はこの地域での中国の影響力が浸透して利害関係が対立しているためだ。

◇高まる真相究明の声

 中国側がオーストラリアに対する圧力を強化する一方で、中国に向けて真相究明を求める声は高まっている。

 英国では4月16日、首相代行を務めていたラーブ外相が「科学的手法に基づき、事後検証を極めて深く実施する必要があるのは明らかだ」と強調。そのうえで将来の中国との関係について、次のような見解を表明した。

「間違いなく言えるのは、危機が去ったとしても、すべてが元通りになるわけではないということ。そして、新型コロナウイルス感染が発生した経緯や、どうすれば拡大を早期に食い止められたのかという点を、厳しく問いたださなければならないということだ」

 トランプ米大統領も27日の記者会見で「われわれは中国に不満がある。新型コロナウイルスの発生源において(感染拡大を)素早く食い止められたはずであり、そうしていれば世界中に拡大しなかったはずだ」との認識を示した。そのうえで「(中国に)責任を負わせる方法はたくさんある。我々は非常に重要なことを調査している」と述べ、中国に対して損害賠償を請求する可能性をにじませた。

 また、ドイツ大衆紙ビルトは15日の段階で「中国に1490億ユーロ(約17兆円)の損害賠償を請求する」との記事を掲載し、話題になった。

 記事では3~4月の「損失」として▽観光産業240億ユーロ▽映画業界72億ユーロ▽ルフトハンザドイツ航空は1時間当たり100万ユーロ▽ドイツ国内中小企業500億ユーロ――などと主張した。ドイツの国内総生産(GDP)が4.2%減少し、ドイツ人1人当たりの損失は1784ユーロになると訴えている。

 中国側の激しい反発を受け、オーストラリアのモリソン首相は29日、記者会見でこう訴えた。

「新型コロナウイルスは世界で20万人の命を奪い、世界経済をシャットダウンした。世界中の人々が教訓を学び、再発を防止するために、これがいかにして起きたのかという点で独立した評価を得たいと思うのは、まったくもって妥当であり、良識的であると思う」

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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