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かくしてアフリカは中国色に染まる――新型コロナで支援漬け

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
ウェブサイト「All Africa」より筆者キャプチャー

 中国南部・広州(広東省)で、新型コロナウイルスに絡んだアフリカ出身者への差別が深刻化し、中国と蜜月関係を築いてきたアフリカ諸国の反発が広がった。ただ、アフリカ側には医療体制が脆弱な国が多く、感染防止には中国の支援が不可欠なため、その反発も限定的だ。中国で始まった新型コロナウイルス感染のアフリカでの拡大に伴って、中国の影響力も拡大されるという状況になっている。

◇アフリカ出身者への偏見

 香港メディアなどによると、広州市で3月下旬、入国したばかりのナイジェリア人男性が新型コロナウイルスに感染していることがわかった。男性は隔離病室に収容されていた4月1日、看護師を殴ったりかみついたりして逃走。その後、当局が見つけ出して、監視下で治療を受けさせた。また、感染が確認されたナイジェリア人4人が市内の飲食店に何度も出入りしていたことなども判明。中国人の間でアフリカ出身者を警戒する傾向が強まり、「1000人以上のアフリカ人が感染した」というデマも流された。

 広州市が4月に入って、市内のアフリカ出身者4553人にウイルス検査したところ、111人から陽性反応が検出された。うち19人が中国国外で感染したと判明したため、地元住民らの警戒心が一気に強まった。

 ロイター通信などによると、アフリカ出身者は住んでいた家を強制的に退去させられ、ホテルからも宿泊を拒否された。どの店を訪ねても食料を売ってもらえないという状況が相次いだ。

 こうした様子がSNSで拡散され、アフリカのメディアも問題視した。ケニアのテレビ局は、現地に住むケニア人の声として▽理由もなく家主に追い払われた▽地下鉄の乗車も拒否された▽診察を断られた妊婦もいた――などと伝えた。

 今度はSNS上で中国に対する反発の声が高まり、アフリカ諸国の政府もそれに呼応した。ケニア外務省が「不当な行為」と批判する声明を発表、ナイジェリア、ガーナ両外務省に加え、アフリカ55の国・地域が加盟するアフリカ連合(AU)も、それぞれ現地の中国大使を呼び出して、懸念を伝えた。また、アフリカの約20カ国は、アフリカ出身者を対象にした集団検査や隔離措置を「人種差別に等しい」と非難し、中国政府に抗議する共同書簡を準備した。

 こうした動きに警戒した中国側は「我々はアフリカの兄弟を差別することはない」(4月13日記者会見で趙立堅・外務省副報道局長)との立場を表明して火消しを図った。

 中国、その中でも広州のビジネス・貿易市場は香港や東南アジアに比べて利益が大きい。広州には2002年ごろから中国製品を買い付けるためアフリカ出身者が集まり始め、同市越秀区は「リトルアフリカ」と呼ばれるアフリカ人居住地区となった。半面、文化の違いや誤解、さらに「一部のアフリカ人は不法滞在の問題を抱えている」という警戒心から、地元の中国人はこの地区を敬遠するようになった。

◇感染拡大で中国の影響力も拡大

 中国とアフリカは2000年の「中国アフリカ協力フォーラム」閣僚会議以後、経済関係の強化が続けられてきた。中国は自国の企業と資金を使ってアフリカ各地にインフラ整備を進め、アフリカ経済の底上げを図ってきた。一方、アフリカは中国にとって、資源確保や新市場開拓を進めるうえでの重要なパートナーとなってきた。

 今回の新型コロナウイルス感染に際して、中国は広州で起きた問題を上書きするかのように、アフリカ諸国に医療用品や人材を次々と送り、「マスク外交」を強力に展開している。

 ドイツメディア「ドイチェ・ヴェレ」(中国語版)によると、アフリカ各国で、マスク、換気装置、防護服を詰めた中国からのコンテナの到着が報告されているという。このうち、エチオピアとブルキナファソでは中国人医師がアドバイザーとして活動している。電子商取引(EC)最大手アリババグループの創業者、馬雲氏と同氏の財団は、ルワンダやカメルーンをはじめとする多数の国に多額の寄付を送っている。

 世界保健機関(WHO)の集計によると、アフリカでは、3月下旬ごろから急速に感染が広がり、4月24日の時点で感染者の数は、アフリカ全体で2万8159人になっている。

 ロンドン大学東洋アフリカ研究学院のスティーブン・チャン教授(政治・国際関係)はドイチェ・ヴェレに対し「中国が供給するのは、すべてアフリカに足らないもの」と分析する。アフリカ側には選択肢がなく、新型コロナウイルス危機を乗り切るには、これまで以上に、中国と緊密な関係を維持することを余儀なくされる、とみている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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