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「北朝鮮国営テレビが『金正恩氏逝去』」?? 偽情報に振り回される韓国ネットメディア

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
北朝鮮の“新聞”を装って虚偽内容を伝える画像(筆者キャプチャー)

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の「重病説」に関連した報道が各国メディアから発信されるなか、「金委員長死去」を伝える偽の北朝鮮国営朝鮮中央テレビなどの動画や写真が出回っている。悪質ないたずらとみられるが、韓国のニュースサイトのなかにはこれを引用して「金委員長死去」と伝えたあとで削除するなど、振り回される一幕もあった。

◇金総書記死去の報道を“転用”

 韓国YTNテレビなどによると、朝鮮中央テレビの報道をまねた「金委員長が死亡した」と伝える5分ほどの「ニュース映像」が、ユーチューブなどを通じて流されている。

 映像は「朝鮮労働党総書記であり、朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員長であり、朝鮮人民軍最高司令官であらせられる偉大な指導者、金正恩同志が現地指導の道で急病に逝去されたということを、最も悲痛な心情で知らせる」という内容だ。

 ただ、映像は2011年12月19日に朝鮮中央テレビが、金委員長の父、金正日総書記が同17日に死亡したことを伝えた際のものを使用しているとみられる。また映像の中で読み上げられた「総書記」「国防委員会委員長」という肩書も、金総書記のものであり、氏名を「金正日」から「金正恩」に置き換えただけのようだ。

 また、北朝鮮の新聞に似せた「人民朝鮮」という題字の紙面でも金委員長の写真を大きく扱って「敬愛する最高指導者、金正恩元帥様が現地指導中、急病で逝去された」との見出しを掲げている。

 こうした内容を引用する形で、韓国・統一ニュースが「金委員長、25日死去……金与正氏継承」の記事を出し、その後、削除した。統一ニュースはウェブサイト上で「確認せずに大きなニュースを扱った」としてお詫びしている。

◇金委員長は「活動中」

 米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は25日、金委員長のものとみられる特別列車が、保養地として知られる東部・元山で確認されたとする衛星写真の分析結果を公表した。

 特別列車は今月21、23両日に、元山の「指導者用の駅」に停車していたと指摘した。同駅の使用を許可されているのは、金委員長やその親族に限られており、金委員長が使った可能性が高いとしている。

 韓国・中央日報は23日、金委員長が実妹・金与正氏らと元山の別荘にこもり、ここで「正常な活動をしている」との見方を報じている。

 また、金委員長の動静については、警護要員に新型コロナウイルス感染者が見つかり、感染を避けるため、元山に退避したとの報道もある。

 ロイター通信は25日、中国が医療専門家を含む代表団を北朝鮮に派遣したと報じた。中国共産党中央対外連絡部の高官が率いて23日に北京を出発したとしている。金委員長の「重病説」との関連は不明。ロイターが伝えた韓国消息筋は、金委員長は生きており、近く姿を現す可能性が高い、と語ったという。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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