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「中国は大きな赤ん坊を養わない」――“新型コロナウイルスから避難”帰国者にキャスターが一喝

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
苦言を述べるラサのラジオ・テレビ局キャスター(微博から筆者キャプチャー)

 新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大から逃れるため、米国や欧州からの中国人の帰国が相次いでいる。中には富裕層とみられる中国人も少なくなく、隔離での待遇をめぐって当局とぎくしゃくすることもある。地方局キャスターが彼らを「ビッグベビー」と批判し、反響が広がっている。

◇優位性宣言が逆流の懸念招く

 中国では3月に入って感染拡大が鈍化し、習近平国家主席が同月10日、集団感染が発生した湖北省武漢を訪れて、湖北省での感染を「基本的に抑え込んだ」と宣言した。12日には国家衛生健康委員会が「中国での流行のピークは過ぎた」と明言した。

 これを機に、中国国内では自国の優位性が強調されるようになり、ネット上には「中国は世界で最も特別な国」などの書き込みが並ぶようになる。

 われわれには強力な政府がある、最短時間で国の資源を動員できる、迅速に責任を分担する、国民は政府に忠実であり不満を抱く職員は解雇される、関連工場は迅速に立ち上げられる、国じゅうの医療関係者が武漢を支援する――習体制礼賛の論調が増えている。

 習主席の宣言を受け、多くの海外在住の中国人が帰国を選択し、ラッシュが始まった。特に留学生の欧州から避難組が多く、3月中旬は北京や上海など主要な空港が混雑した。

◇隔離措置への抵抗

 衛生当局の専門家チームのトップ、鍾南山氏は3月12日の段階で「中国以外から流入してくる感染者が問題だ」との見解を示し、「ウイルス逆流」への危機感を募らせていた。このため、当局は帰国者には厳しい措置を施した。

 帰国する場合▽体温を管理する▽発熱や咳などの症状がないことを確認する▽健康情報を積極的に通告する▽帰りのルートを最適化してトランジットの回数を減らし、感染が拡大する国・地域を通過しない――などを求め、中国入国後は14日間の隔離とした。中でも、北京市政府は一部例外を除き、海外からの渡航者全員を自宅隔離ではなく当局が指定する隔離施設で経過を観察し、ウイルス検査も実施するとした。

 帰国者が殺到した北京や上海では当局の対応が追い付かず、隔離の際の措置に不満が続出した。ミネラルウォーターがない、検査のため長時間待たされる、食べ物がないなど、待遇改善をインターネット上に書き込む人もいた。一方、中には虚偽申告をしたり、隔離を拒否したり、隔離に多くの条件をつけたりする人もいた。帰国者に富裕層が多かったり外国籍を持つ人がいたりした点も、中国国内にとどまって不自由な生活を余儀なくされていた一般市民の不満の材料となった。

 この状況のなかで、3月16日夜、チベット自治区ラサにあるラジオ・テレビ局が公式アカウントに、同局のキャスターが見解を述べる場面を投稿し、反響を呼んだ。

 キャスターはカメラを見据えて「家郷建設□(□=ニーハオの「ニー」)不在、万里投毒□最快」と訴えた。ニュアンスとしては「祖国が危機の時にはいないくせに、自分のいる場所がピンチになれば真っ先に帰国する」となる。

 そのうえで数人の例を示しながら、防疫対策に協力しなかった人を批判した。

「米国に定住し、何もない時には米国で税金を払い、何かあれば帰国して治療を受けると批判された黎女史」

「たった一人のせいで河南省1億人の努力が台無しにしなった。報告もせず、隔離も受けず、海外渡航歴を隠して、現在に至るまでひとことも謝罪していない郭某鵬」

「防疫管理に不満を持ち、防疫担当者に『私は欧州から戻ってきたのにこの待遇か』と言い放ったイタリアから帰国の中国人」

 こう言葉を並べたうえで最後に「中国はビッグベビーを養わない」と厳しく断じた。

 市民の間では「外国から戻ってくるのは原則的に歓迎するが、入国の際に誰もが受けるべき防疫検査に協力しないなら歓迎しない」という受け止めが主流だ。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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